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そして僕は大学生となり、幼馴染は進学せずにそのまま役者の仕事等、様々なことに手を出し始めた。
大学一年目のその頃でも、まだ交流は続いていたが、彼は次第におかしな行動をとる様になっていった。
彼のSNSを見たりすると、如何にも豪華な車で優雅にシャンパンを飲んでいたり、煌びやかな部屋で有名人(電車の広告で自伝の本が紹介されていた、胡散臭い人物だ)と握手していたりする写真を投稿していた。
まだ交流が続いている頃はあまりそういう面を見ていなかったからか、直接会っている時はおかしいようには感じていなかった。
それがおそらく、僕の間違いだったのだろう。
大学生活も落ち着いてきた頃、彼からメールが届いた。
『コンサートのプロモーターとして今活動していて、そのチケットを売ってるんだけど、格安の値段で譲ろうか?』
確かそんな内容だったと思う。
その後、スーツ姿の幼馴染とカフェへと出向き、事情を聞く。
「自分にもチケットが何十枚か渡されて、知り合いとか呼んだらどうだって言われてるんだ。この日にやるんだけど、大学の知り合いと一緒に来たらどうだい。一枚二千円だよ」
そう言って教えてくれたコンサートには、なるほど、アーティストに疎い自分でも知っている有名人も参加するようだ。僕の周りに、こういったことに興味のある人は少ないけれど、誘ったら案外来るかもしれない。
彼と別れた後に、友人にメールでこの事を伝えると、四人が行くと返してきた。
翌日、彼と池袋駅で会い、僕も含めて五人行くと伝えると、「じゃあ五枚で一万だね」と言われ、特に何も思わず僕はお金を渡した。聞くと、どうやら彼自身の手元にはチケットは無く、彼の部下が持っているそうだ。その部下も呼び出しているそうだが、どうにも遅れているらしい。
腹を立てた幼馴染が電話でその部下に怒鳴り散らしている間に、僕のバイトの時間も迫っていた。仕方がないのでチケットは今度渡してくれとその日は別れた。
それから数日経っても音沙汰はなく、もうすぐコンサート当日になってしまうという辺りで、事前に聞いていた開催場所の日程を調べてみると、全くその予定は書かれていなかった。
これはどういうことかと連絡を取ると、あっさりとこう告げられた。
「場所が急に変わってしまって、チケットも作り直して、日程も変わってしまったんだ」
そうして改めて聞いた日程と開催場所。これは怪しいと僕はまた調べてみた。
結局、新たな開催場所でも、そういった日程は一切見受けられなかった。
間違いなく、僕は詐欺に遭ったのだ。
最終的に、日程を過ぎてもなんの音沙汰もなく、友人たちのチケット代を僕が弁償した。
友人たちは特に気にしてはいなかったが、僕はどうしようもない感情で溢れていた。
幼馴染にとって僕は、単なる玩具とかその程度の価値しかなかったということだ。
今まで何度も嫌な目に遭っても、水に流してきたがもう限界であった。
直接的な被害まで被ってまで彼と友人関係を続けられるとは思えなかった。
たった一万円でも、それは信頼が重くのし掛かるものだ。それを簡単に手放した彼にはほとほと呆れる。
被害も軽かった為、二度と彼とは関わらないということで手を打つことにした。
そう思っている時に、ふとある出来事を思い出す。
『これからも、○○をよろしくね』
彼の祖父のあの言葉。
残念ながら、彼の言葉は果たせそうにない。
なによりも幼馴染の方から、僕を手放したのだから。
僕は聖人君子ではない。だからたとえ死者が死して伝えたかったことでも、それを実行するかどうかは僕に決定権はある。
だから僕は、彼を、幼馴染を見捨てたのだ。
結果として、それが正しいことなのかはわからない。
ただ、その後の結末は呆気ないものだった。
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