4

 高校二年の夏に、塾帰りしていた時にも、その公園に立ち寄っていた。

 時折まっすぐに帰りたくない時には、たまに缶コーヒーでも買って、そこのベンチでゆっくりと飲んで落ち着けていた事があったのだ。夜ということもあって、人通りも少なく、あまり車も通らない道であった為、静かなひと時を過ごせるその空間は、とても居心地が良かった。

 その日もそうだった。

 公園のベンチで腰を落ち着け、ゆったりしていると、なにかを僕は感じ取った。

 違和感、と呼べばいいのだろうか。

 とにかくその場で、何かおかしいと思った。それは確かだ。

 辺りを見回すが、何もない。強いて上げれば、遊具のブランコがあった。

 何故ブランコを上げたのかというと、そこに違和感の正体があったからだ。


 ブランコの片方が、少しばかり揺れていたのだ。


 風だという人もいるだろう。だが、生憎その時は無風だった。そして左右二つ付いているブランコの片側だけが揺れているのだ。もし風なら、両方とも揺れるはずだ。

 そこがおかしいと思う時点で、霊嫌いなら帰るべきだろうが、何を思ったのかブランコに近付いてしまった。

 ブランコは僕が近寄っても、まだ揺れていた。ゆらりゆらりと、


 僕は基本霊は苦手だ。

 だからそういったスポットに行くことはないし、これからもないだろう。

 だから実体験もほとんどないし、これからも増えることは、たぶんない。

 だからだろう。その行動に危険を感じてはいなかったのだろう。







 思わず僕は、

 なんてことはない。吊ってある鉄の鎖を指で抓んで揺れを止めた。ただそれだけだ。

 ブランコはそのまま停止する。しばらくたっても、そのまま。

 結局なにかの気のせいだったのだろうかと、僕はそう結論付けた。
















 それを否定するように、またブランコは揺れ始めた。




 思っていたより、その時の僕は冷静だった。

 ただ、『やっちまったかも』とは感じていた。

 ひとまずその場から離れようと、公園を立ち去ったのは言うまでもない。

 家に帰ってきた後も、あの時の出来事を考えていた。

 僕は何故か恐怖を感じることはなく、むしろあれは何だったのだろうと思っていた。

 もしもあれが霊だとして、ブランコに乗ってただ揺れていただけの状態。姿を見せて何かをするという訳でもなく、ただブランコを揺らすだけ。

 そんな状況で、怖がるというのもさすがに滑稽というものではないだろうか。

 結局のところ、その日はなにも起こらず、それ以降もなにも起きることはなかった。

 推測で、不慮の事故とかで亡くなった子供が、独り寂しくブランコで遊んでいたのだろうかと考えたが、僕にわかることは、少なくとも悪霊とか、そういった悪い霊ではないということだけだった。


 幕間はここまでとして、そろそろ本題へと戻ろう。


 その後、何事もなく僕は帰宅し、母に今日の出来事を簡単に話していた。

 その時に、母は何気なくこう聞かれた。

「彼のお母さんには会った? 挨拶した?」

「いや、母親には会わなかったけど、お爺ちゃんにはあったよ」


















「え、お爺ちゃんは二年位前に亡くなったはずだけど」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る