第2話 再会

「士郎!!おい、士郎!!!」

誰か身体を揺さぶるのを感じて士郎は、薄っすらと目を開けた。

「うっ……うん?」

「おいおい。寝すぎだな。もう昼休み入ってんぜ!」

そんな親友の声に士郎は、ブルブルと顔を振った。どうやら、午前中の授業を全て居眠りしてたらしい。と、そう思い出した様に士郎は、教室の中を見渡した。机で寝てたおかげで、身体の節々が痛いと士郎の身体が訴えてくる。そんな士郎の姿を親友、岸田護が訝しげに見た。

「わかってるよ。寝すぎだって! 昼飯食いに行こうぜ」

士郎は、ゆっくりと席から立つとポンと護の右肩に手を置いた。

「おう、早く行かないとA定食が無くなる!」

護のその言葉を最後に士郎たちは、教室を出て食堂へ向かった。そうだ、俺は、17歳で……ここは、学校だ。士郎は、その事を確認するように心中で呟いてた。そう、あの夢が余りにもリアルだったので、今の自分が現実なんだと士郎は、確認したかったのだ。

「なあ、士郎!」

「ん?」

護が食堂に向かう途中で士郎に話しかけてきた。

「お前、午前中寝てたから知らないと思うから、言うけどさ」

「……」

「午後から転校生が来るらしいぜ! それも女!」

護は、嬉しそうに「美人だと良いな」っと呟いていた。

「ちっ、午前半休かよ! たいそうな御身分だよな」

士郎がつまらなそうにそう言うと護は、パンっと活きよいよく背を叩いた。

「俺たち、ピチピチの高校生だよ。そんな末期サラリーマンみたいな 台詞やめようぜ!」

「ピチピチ? 脂ぎってるの間違いだな」

「あはは、相変わらす士郎は、キツイねぇ」

護は、その言葉が可笑しかったらしく、大げさに笑ってみせた。



「おおっ、すげぇ」

午後授業が始まる前に転校生の紹介があった。それで、教室の中が騒がしく、しばらく落ち着く気配がなかった。それは、転校生としてやって来たのは、女性でそれも見たことのない程の美女だったからだ。長い黒髪は、腰まであって、和風美人といったところ。着物がとても似合いそうな感じだった。そんな美人が転校生としてやってきたものだから、男子生徒は、落ち着かず次々にその転校生に無謀とも言える質問を繰り返していた。クラスの女生徒達もそんな転校生に興味があるらしく、男子生徒と同じぐらい騒いでいた。

ドクン

士郎の心臓がひときわ大きく脈打った。士郎もその転校生を見てから、心臓の脈打ちが早くなっていた。

ドクン・ドクン

「おい、士郎! あの転校生の名前……朝比奈薫だってさ」

士郎の後ろの席から、護は呆けた顔を転校生向けて言った。

「くっ……やばいな」

士郎は、とっさに心を落ち着けようとした。さっきから、士郎の心臓は、破裂するような勢いで脈打っていた。これは、いつもの発作の前触れに似ている。士郎は、生まれつき心臓が弱かった。士郎の心臓は、未だに小学生ぐらいの子供の大きさしかない。心臓だけ成長に取り残された感じである。身体が成長するにしたがって、小さな士郎の心臓は、必要な分の血液を身体に送る事が負担になってきたらしい。時々、心臓の発作が起きるのだ。興奮した時など特によく発作を起こす。士郎は、ゆっくりと席から立ち上がった。それを見た担任の教師が

「辰巳! どうした? 顔色悪いぞ! また、いつもの発作か?」

っと言った。士郎は、声をだす気力もなくて頷くだけだった。

「くっ……拙いな……目も見えなくなってきやがった」

士郎は、そんな事を心なかで呟きながら何とか机にしがみ付いた。

「先生、私が彼を保健室に連れていきます。先生は、授業を行っていてください!」

「あっ、いいのか? 保健室の場所わかるのか?」

「ええ、任せてください!」

そんな聞きなれない女性の声。誰かがトコトコと士郎の横へ近づいてきた。そして、士郎の腕を掴んで士郎の身体を無理やり立たせた。士郎の腕が誰かの背に回されて、よたよたと歩きだす。その人物に方向を先導されて、士郎は、無理やり歩かせられた。教室を後にして、廊下に出た所でその人物は、話かけてきた。

「ねぇ、大丈夫?」

「……」

やはり、聞きなれない女生徒の声だった。士郎の腕を掴む彼女の手は、冷たく体温が感じられない。それは、まるで、爬虫類のような体温だった。

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