第4話

それから半年後、2人がお互いに慣れ親しんだ頃、我は眠りの時間が以前に比べ、少なくなっていた。


というのも、娘…彼女と話を良くするようになったからだ。


「竜様の鱗はとても綺麗ですね…

触らせて頂けないですか?」


我の鱗を褒めるとは、中々目のある女だと、心よく触らしてやる。


他にも、我から彼女へと、話しかけることもあった。

「お前八、飯はどうしているのダ」


「この洞窟には、竜様の魔力の影響で、茸が多く繁っております。

水も、洞窟の奥に行けば沸いてきておりますから、食料に困ることはありません。

私のことはお気になさらず。」


たまに彼女が、猪や野豚などを魔法で捕らえて、肉を食べるのを見かけることもあった。


人間の娘一人が自給自足をすると言うのは、中々逞しいものだと思う。


だが、そんな楽しくも感じる生活も、瞬く間に終わってしまう。



「竜様、竜様の本当のお名前を教えて頂くことは出来ないのでしょうか。」


人は竜のことを、竜と呼ぶ。

それ以外には呼ばない。

というのも、竜には真名があり、人間には教えないからである。


しかし、彼女は人の子。

その歳は既に60を越えており、昔に比べてかなり皺が増えたように見える。


「よい、お前は死ぬまで我に尽くした。

その褒美をやっても良かろう。

冥土の土産に、我が名を持って行くが良い。」


50年近くの一瞬にも満たない時を思い出し、我は流暢に、彼女との生活で話慣れた、人間の言葉を紡ぐ。


「その耳に入れることを、誇るが良い。」

「我が名はセックルドラゴン」


いい名前ですね。

彼女はそう言って、少し微笑み、息を引き取った。

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