第3話 できることなら美人になりてぇ




 うわーん何この運命的な再会! サイコーに辛い。何が辛いかって、この空気感が辛い。ていうか、教室には来ないクセに、図書室にセックスしには来るんだね、さいきんのギャルは。


 あんな官能的な場面を見られたにも関わらず、見ていたソイツを覚えていてくれてなかったことも辛い。目、バッチリ合ったと思ったんだけどなあ。そりゃあ確かに記憶に残りづらい顔してますけど。


「……おんなじクラスの、能登ほたるっていいます」

「ふーん……」


 彼女はそう言って、おかしいくらい眉を潜めた。大きな瞳が一瞬にして私と同じサイズになる。いや、私より大きい。細めても私より大きいってどういうこと。


「初対面だよね? どーせ担任に押付けられたんでしょ。断れば良かったのに、こんな雑用」

「はあ……」

「あんたもお人好しだね」


 前野まつりちゃんは嘲笑った。

 ……え。なに。なんで初対面の人にこんなにキツく言われなきゃいけないのだろう。

 確かにおかしい話だ。ペーペーの私ではなく、この子の友だちに届けるのを頼めば良かったのに。会議があるからなんなの。終わったあとに先生が届ければ良かったのに。


 どうせ私は前野まつりちゃんとは正反対だ。見た目も地味で気弱で、強く出れない弱味につけこんで面倒な雑用を頼まれて、挙げ句「お人好し」とか言われるんだもん。おかしいよ。世の中結局顔かよ。ふざけんな!


 なんていう反論はできるはずもなく、私にできる精一杯の嫌味を言う。


「……別に、暇でしたから」

「そう。わざわざありがとう。じゃあ」


 私の嫌味、1ミリも効いてない。美人は余裕があっていいなあ。


 ガチャリ。前野まつりちゃんが玄関の扉を開く。次会うときは彼女が学校に来たときだ。セックスの場面に出くわすのはもう勘弁だけど。

 

 背を向けて私もマイホームに向かう。災難な1日だった。こんな嫌なこともう経験したくない。


 はーあ、帰ってココアでも飲もーっと。



―――



「ちょ、……あんまり音たてないでよ。バレたらどうすんの」

「大丈夫大丈夫。平気だよ」

「となり、誰かいるんじゃない」

「ん……このベッド、折りたたみ式じゃないから、いつでも出てるんだよね。気配もないし、誰もいないよ。大丈夫」

「ふーん……やたら詳しいね」



 まつりちゃんにプリントを届けてから約1週間が経った。縁というのは不思議なものだ。もう二度と出くわしたくないと思ったセックスの場面に2回も出会い、しかもそれがおんなじ人であるというのだから。


 事の発端は、私の運の無さである。


 調子に乗って牛乳を一気飲みしたら、お腹が痛くなってしまったのだ。それをがまんして体育に出たら、今度は頭にボールがぶつかった。ドッヂボールだ。幸い頭に当たってもアウトにはならないというルールだったから良かったけど。いや、良くねぇ!!! いいわけがない!!


 情けなさすぎて泣く私を、痛みで泣いていると勘違いした体育の先生が「保健室で休んでいいよ」と言ってくれたので、素直にそれに従う。ついでにトイレにも向かう。


 保健室の先生はどうやら外出中らしい。疲れきった私は保健室に入り、ベッドに横たわった。


 その約5分後――仲良さそうに会話をする男女が保健室に入ってきた。部屋の電気を点けていなかったのが運のツキ。誰もいないと思ったのだろう、あろうことか私の隣のベッドでいちゃつき始めた。



 しかも、女性の声には聞き覚えがあった。彼女は前野まつりちゃん。あのにっくき美少女ヤローだ。




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JK、戦います! 西園ヒソカ @11xxx

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