世界の出口とビー玉の血飛沫

月は浮遊体というよりも、空にあいた穴なのかもしれない。私たちの世界を覆う大きな天井にぽっかり空いた小さな穴。その穴は、向こう側の世界から光を届け、そしてこちら側の世界から私たちを引きずり込もうと引っ張る。その穴は、半月かけてゆっくりと閉められ、半月かけてゆっくりと開けられる。新月の夜私たちはあちらの世界の入り口を見失い、満月の夜私たちは開かれた世界の出口を拝む。

月は太陽のように私たちの身を焼き尽くすほど傲慢な光は放たない。私たちを優しく誘い込むのだ。

月は、私たちにこの世界の外側の存在を教えてくれる。

この世界の、外側に何があるのか。


「ねえ、そのビー玉、貰ってもいい?」

私は彼女の持っているビー玉を指差して言った。

「何に使うの?」

「永遠に太陽が蘇らないように、壊してしまおうかなって」

このちっぽけなビー玉が、本当に太陽であろうとなかろうと、これを壊すことによって、私の太陽への復讐ができるように思われた。日陰に入っても影を狭められ、無理矢理に照らされた、肌を焼かれる不快感。ただ、ひっそりと日陰で本でも読んでいればそれでよかったのだ、私は。

「そっか、それならいいよ」

私は、彼女からビー玉を受け取ると、廃墟の壁の方を向いた。ビー玉を、覗き込んで見ると、中からはぐにゃりと歪んだコンクリートの壁が見えた。

肩を使って思い切り、ビー玉を壁にぶつかると、クシャリという軽い音と共に、燃えるような、鉄臭い、真っ赤な血が放射線状に飛び散った。

私と少女は共に血まみれだ。

「これで本当に、この世界には太陽が昇ることはもうないよ」

少女の声が、少しだけ低く聞こえた。

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