sideB

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 思春期男子。おまけに成人済みで、成績優秀で模範的な大学生。

 心配になるぐらい『いい子』だった。

 航平さんの育て方が良かったんだろうとは思う。航平さんの育て方があまりにも良すぎて、

「他人に対して礼儀正しい」

 そう、そんな感じ。

「どう思う?」

 息子も娘も寝静まった深夜、私は航平さんとふたりで、久々にお酒を入れていた。

 小さな明かりと、眠り薬、好きなひととその大切な息子。愛する娘。ひとつ屋根の下。実現した夢。

 馴染み切らない、二十年間の空白。

 私は、彼の母親になれない、そういう実感が胸を刺す。

「どうって、ね」

 〆切明けでいつもより余裕がある航平さんが、ソファに寝転がりグラスを傾けた。

「あれであいつはなかなか心を開いてると思うよ」

「そうなの?」

「うん。俺とふたりで住んでたときは、高校生ぐらいから、行ってきますも行ってらっしゃいも言わなくなってたし」

 意外だった。

 私たちと同居を始めてから彼は、行ってきます、行ってらっしゃい、ただいま、おかえり、おはよう、おやすみ、どれも欠かしたことはない。そういう人なんだと思っていた。そうやって育った人なんだと。

 それはやっぱり……他人行儀、だから、ということにならないだろうか。

 それか、ただ単に反抗期を抜け出したか。

 反抗期に、急に他人と生活を始めなければいけなくなって、ストレスが溜まっていないだろうか。

「夕食のときに梨恵が大学の話訊くと、結構喋ってくれるでしょ? 俺が訊いても『忘れた』と『知らない』しか返事してくれなかったんだけどね」

 航平さんがそうやって、渉くんの言動を並べる度、私は心配になった。

 無理をさせているんじゃないだろうかと。

 私は彼の母親にはなれないのかもしれない。

 本気でそう思うのは、彼には、ものごころついたときから父親というものを知らないみっちゃんと違って、十歳までの確固たる『お母さん』が存在している。

 彼の母親は、空席でない。

 不安は拭えないまま、ソファで眠りそうになってしまった航平さんをベッドに入れて、私もその日は眠りについた。

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