幼いモノの手と救い
「今後の話をしよう」
そう話を切り出したシンリの、どこか不気味な笑顔を見つめながら、時雄はゴクリと唾を飲み込んだ。
「そう身構えなくてもいいよ。寝床の準備でもしながら、話そうじゃあないか」
けっけっけっ、と奇妙で不快な笑い声を上げ、シンリは立ち上がった。そして小屋の隅に重ねられた藁の山へと歩み寄る。
「『サイクロプスの心臓』を覚えているかな、少年?」
両手いっぱいの藁を抱えたシンリは、時雄に問いかける。時雄は、少しばかり前に見た、あの奇妙な一つ目の化け物を思い浮かべ、小さく一つ頷き、
「忘れるわけ、ないじゃないですか」
と弱々しく答えた。
時雄の言葉を肯定するかのように、シンリは口角を少しばかりあげると、藁を抱えながら、窓から外の様子を覗いた。
「実はあの化け物『サイクロプスの心臓』は、最初の魔女の『第二の心臓』と言われているんだ。あいつは、最初の魔女のいわば『分身』だ。だから、今現在、最初の魔女は死んでいても、第二の心臓が生き続けてる限りは、最初の魔女がいつか生き返る可能性があるんだ」
最初の魔女。
時雄は魔女たちやシンリが繰り返し言う、その最初の魔女が悪の代名詞だという話は何度も聞かされていた。人間を悪魔に差し出し、それによって生まれた魔力を持った子供を『魔女』と呼び、自身の子孫だとしていた、悪の中の悪。
一体どれだけ恐ろしいのか、時雄は実際には知らない。
最後の魔女が魔法を通して見せた、最初の魔女の幻でしか見たことがない、遠いおとぎ話のような存在だ。
「そんなに恐ろしいんですか? その最初の魔女は」
時雄は問いかけた。シンリはけっけっけっ、と奇妙で不快な笑い声を上げる。
微笑むだけで何も答えぬシンリの姿を見て、時雄は不気味に感じた。そしてきっと、言葉では言い表せぬ程、恐ろしいのだろうと察した。
そして質問を変える。
「サイクロプスの心臓……でしたっけ? それを倒すには、どうしたらいいんですか?」
シンリは藁を寝床に敷き詰め、しばらくの間、天井を見つめてから答えた。
「最後の魔女が所有する古書の中には、こう書かれている。
『サイクロプスの心臓を破壊する事が出来るのはただ一つ。【幼き者の手】である』
「つまり、君やあの自称魔女のような、まだ成人していない者が奴に攻撃すれば、破壊されるのさ」
自慢気にシンリはそう言い放つと、藁に麻製のシーツを敷き、ばさりと座り込んだ。
「この『最初の魔女殺害計画』に、君の存在は必要不可欠なんだ」
そしてシンリは、けっけっけっ、と奇妙で不快な笑い声を上げる。
遠くで梟の鳴き声が夜空に響き渡った。
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