第二章【心臓の討伐】

「少年、今後の話をしよう」

 最後の魔女とシンリが企んでいた『最初の魔女殺害計画』に蘇らせた魔女たちが加わった。

 その事を受け、最後の魔女は他の魔女たちに、自分たちの作戦を説明する事にした。


 計画の枠組みを既に知っていた時雄とシンリは、魔女たちがたむろする屋敷の近くにある小屋で、暖炉に火を燃やしながら、明日の朝に村を出るための支度を進めていた。

 時雄がカバンに少しばかりの紙と着替えを入れた時、シンリはりんごを片手にくるりと振り返り、相変わらずのひょうきんな声で問いかけた。


「そう云えば、君。そろそろこの世界にも慣れてきたかな?」


 慣れていない。時雄はそう答えようかと思った。だが、そう答えてしまうと、彼を困らせてしまうかもしれない、とふと思い、嘘をついた。

 だが果たして、このシンリが『困惑』という思考を持ち合わせているのかは、依然として謎である。


「そういえば、あの小さな女の子は結局、何者なんですか?」


 時雄はシンリに問いかけた。その問いに、シンリは珍しく眉間にしわを寄せ、唸った。


「あの子は、自称魔女…….という話はもうしたね。その続きだけども、あの子が私たちを追っている理由は、あの『死者復活』が主な原因なんだ。

「彼女には、兄が一人いたんだけど、とある魔女が『最初の魔女』を復活させるために、その兄を殺してしまったんだ。

「彼女は、私たちが『死者復活』を行なっているから、『最初の魔女』を蘇らせようとしてるのではと、勘違いしているんだ」


 シンリの言葉と、あの幼い魔女の殺気を思い出し、時雄は状況を理解した。

「彼女と和解する事は出来ないんですか?」

 争いを好まない時雄は、平和的な解決策はないのかと、シンリに提案する。だがシンリは大袈裟に肩をすくめ、首を左右に振って否定する。


「無理だね。あの子は人の意見を聞かないんだ。何度も交渉を試みたが、自分が信じている事は、頑なに曲げようとしない。そういう子なんだよ、あの子は」


 そして長く息を吐き、近くの椅子に座り込んだ。

 しばらくの間、二人は夜風の囁きに耳を傾けた。隣の屋敷からは、魔女たちの話し声がぼんやりと小屋まで聞こえていた。


 ぼつぼつと、雨が降り出す。

 雨が本降りになりだした頃、シンリはけっけっけっ、と奇妙で不快な笑い声を上げる。そして言葉を紡いだ。


「少年、今後の話をしよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る