猫じゃらしと夕日

「面白い───と云うたかな、そこな者」

 二十代後半ぐらいの、シンリとそう変わらない年齢の青年の姿をした魔女が、ものすごい凶相でシンリをじっと睨みつける。

「はい、実に興味深い」

 ただでさえ最悪な状況だというのに、彼はそれを更に悪化させる様な、挑発の言葉を彼女たちに投げかける。そんなシンリの奇行に、その魔女は笑った。最後の魔女と違い、感情を表す事が出来る様だった。

「何が面白いのかな」

 魔女は、相変わらずカラカラと乾いた声で笑っている。シンリは彼女と合唱でもするかの様に、けっけっけっと笑う。

「貴女がたは、人間に『悪』だと決めつけられ、殺された事を恨んでいる。そして今、その復讐をしようとしているのは、実に明白です」

 シンリは、そう云うと近くの切り株に腰掛けた。そして足元に落ちていた、猫じゃらしに似た植物を拾い上げ、それをいじりながら話を続ける。

「しかし、貴女たちは目先の───目の前の情報しか見えていない。実に残念です」

 ぽとりと、猫じゃらしが落ちる。日が沈み始め、空が鴇色に姿を変え出した。

「私たちは目に見えない、先の先にある真実イハールも見定めないといけない。では、その真実イハールとは一体、なんなのでしょう? 分かります?」

 分かる訳ないだろう、と魔女たちは素直に返事をする。

 木々を揺らす風が、だんだんと冷たくなっていた。しかし、死体である彼女たちは、それに気付かない。


「最初の魔女が、人間たちを操っていたのです。そう、つまり───最初の魔女が本当の『完全な悪』なのです」


 太陽が完全に顔を隠した。まるでこれから始まる悲劇から目を背けようとしている風に見える。


 蘇った魔女たちリビングデットは、シンリの言葉を受け入れた。それが真実イハールだと信じたからだ。

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