【蘇る屍者】の製造方法
幼女は不敵な笑みを浮かべた。
「私の名前は、フィヨーデル・カエデリョフ!」
そして細い左腕を大きく掲げ、また叫び始める。
「善良な魔女にして、最後の魔女さん! 何故、貴女は死に抗うのです!」
「全く、君は何処でそんなに難しい言葉を覚えたんだろうね......」
シンリは皮肉気味に笑うと、上着のポケットから白い球体をするりと取り出した。それを地面に落とすと、そこから黒い大きな穴が出現した。
「ここに入りなさい」
最後の魔女はそう云うと同時に、時雄を穴の中へと突き落とした。彼は叫ぶ暇も与えられなかった。
「貴方たち、また逃げる気ね!」
卑怯だと云わんばかりに幼い魔女は顔を歪める。
しかしまだ未熟者である彼女は、箒に乗るだけで手が出せない。
「別に、逃げる訳ではないよ」
そして青年も穴に飛び込む。
「いずれまた......」
最後に最後の魔女が飛び込んだ後、地面に空いた穴は徐々に小さくなって行き、数秒後には塞がり跡形もなく消えた。
「またこのパターンか......」
屍者である彼女を追いかけ続ける幼い魔女は、悔しそうに小さな唇をかむ。
そして自分の未熟さに嫌悪感を抱いた。
「さっきの小さな魔女は自称魔女であって、本当の魔女ではないの」
穴を落ちて行った先には、10畳程の小さな部屋があった。
シンリによって作り出された要塞の様なもので、この部屋に入ると丸一日は入る事も出る事も出来ない。
「魔女は他の種族みたいに、名前に縛られてはならない決まりがあるのです。魔女のいくつかある特徴のうちのひとつね」
彼女は台所へ行くと、早速湯を沸かし始めた。この小さな部屋には、ある程度の生活用品が用意されていた。
「あの子は、どうして僕たちを追いかけていたのですか?」
最後の魔女はしばらくの間、黙った。そして重々しく口を開く。
「それを答えるには、まず私や貴方の様な『蘇る屍者』がどうやって作り出されるのか、説明しなければいけません」
魔女はそう云うと、部屋に置かれていたタンスの中から一枚の紙を取り出した。その差し出された紙には、滲んだ藍色のインクで文字が書かれていた。驚いた事に、それは日本語で、時雄は苦労する事なく読む事が出来た。
紙には、
『蘇る屍者』を作り出すには、死んで間もない屍体(蘇らせたい人物)と別の者の魂が必要である。
その主な理由は、黄泉の国に行く魂の数が決められており、この世に生きる生物はその運命から逃れられぬ事にある。
黄泉の者を欺くために、死んでしまった者の魂と別の魂(いわば生け贄)を交換し、別の者の魂が黄泉に行く代償として、蘇らせたい人物(つまりは死んでしまった魂)が戻ってくる。
と書かれていた。
「この方法を編み出したのは、ここにいるシンリだ」
恐怖で顔が青白くなっている時雄に対して、シンリは実に穏やかだった。
「でも彼女は失敗しちゃったんだ。ご覧の通り、表情筋は固いまま。声にも感情がこもっていない」
この手順だけではまだ不完全であり、現在も調査中である。
手渡された紙も、最後にそう締められていた。
「じゃあ、僕にもどこか異常があるんですか?」
「もちろん!」
シンリ青年は笑顔でそう告げる。
「君───時雄君が間違って入ってきてしまった時点で、失敗している」
ああ、そうか。
時雄は自分がどういう立場にいるのかを忘れかけていた。
「あの幼い魔女さんが追ってきている理由は、最後の魔女を蘇らせるために、あの子の可愛い飼い猫を犠牲にしたからなんだ。要は、復讐だね」
そしていつもの様に、青年はけっけっけっ、と奇怪で不愉快な笑い声をあげた。
「でも、どうして屍者を蘇らせるのです? 他の誰かの命を犠牲にしてまで......」
「簡単な事ですよ」
相変わらずの無表情で魔女は答える。
「魔女狩りにあった魔女達を蘇らせ、人間をこの世から抹消し、世界を救うためです」
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