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<バイパー>は、二つのタイヤでコースを挟み込んで走行しているのだが、タイヤからは、雨で濡れたコースのせいか、煙が上がっている。
矢吹の足が止まった。逃げるのなら、ともかく向かっていくのは、嫌だ。
しかし、地上に戻るには、プラットホームを目指さないといけない。
<バイパー>は坂を下るような速度で、コースの最高部を目指す坂を登ってきた。
どうする?。さっきと同じ要領で、コースに
もう大分下ったはずだ、やりすごせば、おそらくプラットホームにたどり着けるだろう。
ドラッグレースの車のようにタイヤから煙を上げて、<バイパー>が駆け上がってきた。一体何の動力で走っているのだ?。
<バイパー>が矢吹に迫ってくる。
すると、今回は、炭鉱夫、幾人かが、<バイパー>から、キャットウォークに飛び降りた。
矢吹は、目を見開いて、見据えた。
人とは思えない速度で、キャットウォークを戦前か、戦後あたりの装束の炭坑夫がツルハシを掲げ、振りかぶり襲ってくる。
一人目の炭鉱夫がシャベルを大きく右に振りかぶり振り回してきた。細いキャットウォークだ。逃げる場所は上下しかない。
ヘルメットでよく見えなかったが、その炭鉱夫の 側頭部がそっくりなく灰色の何かが見えていた。
一振り目は矢吹蒼甫はしゃがんでシャベルを
シャベルは空を切った。
側頭部のない炭鉱夫の
二人目の炭鉱夫がもう目の前まで迫っていた。
担ぎ投げ落としたため、姿勢を低くしていた、矢吹に対し、真上から、ツルハシを振り下ろしてきた。
その炭鉱夫は、顎から下がそっくり首も含めてなかった。首の後ろの鼠径部だけで、胴体と頭がつながっていた。
矢吹蒼甫は、キャットウィークのコースから見て一番外側、プラットホームに向かい、右側のギリギリに躰をせり出し、ツルハシを躱した。ツルハシは、甲高い金属音をさせてキャットウォークの金網の間に突き刺さった。
「どけーっ」
矢吹は立ちふさがる、顎から下のない炭鉱夫に肘鉄を食らわしながら、無理やり、通路を正に血路として切り開いた。
もう目の前には、三人目が居た。
3人目の炭鉱夫は、左手と左足がなく、削岩機を矢吹蒼甫に向けて、突き出してきた。
削岩機は、どるんどるん恐ろしい音を立てて、唸っていた。
3人目の炭鉱夫が、削岩機をフェンシングのように片手で突き出してくる。
矢吹蒼甫は幾度か右に左にと避けた。盾になるものは、なにもなかったが、自然と手を頭にやると、ヘルメットを急いで、脱いだ。
メットを盾に削岩機の根元を狙う。
相手は片手だ。
こっちは、両手だ。しかし、削岩機にメットが当たるたびに、ギャリギャリと嫌な音をたてて、メットが破損し、砕け散っていく。
もう駄目かと思った瞬間。メットが削岩機を持つ炭鉱夫の拳に当たった。
それで、削岩機をぐっーっと反対側に追いやると、思いっきり、その相手の削岩機を持つ唯一の拳を安全靴で蹴り上げた。
隻腕隻脚の炭鉱夫は、獣のような声を上げると、削岩機を落とした。削岩機が落ちたキャットウォークの中央部に穴が大き空き、隻腕隻脚の炭鉱夫は下半身ぐらいまで、躰をその穴に落とした。
矢吹は、躊躇なく、その上半身だけ出している炭鉱夫を蹴り落とそうと足を振り落とした。
しかし、これが、いけなかった。
どんな風に体を支えているのかわからなかったが、その隻腕隻脚の炭鉱夫は、右手で矢吹蒼甫の足を掴んだ。
「離せーっ」
矢吹蒼甫は、幾度も幾度も、削岩機が作ったキャットウォークの穴に下半身を落としている炭鉱夫を蹴りつけたが、ダメだった。軸足を完全にアンクルホールドされ、動けなかった。
ここは、プラットフォームに近いとはいえ、高さ60数メートルの高度だ。考えるまでもない。
しかし、それより、先に、片目、鼻、片耳が
この炭鉱夫は、何も持っていなかった。
もうダメだ。矢吹蒼甫は思った。
片目、鼻、片耳が削がれた炭鉱夫は、二の腕で矢吹蒼甫の首元に押し当てると、そのままぐっと押し出した。
「ぐぅ」
矢吹蒼甫は
片目、鼻、片耳が削がれた醜い顔と死臭の匂いが矢吹蒼甫に迫ってきた。
矢吹は、背中に腰の高さほどのキャットウォークの低い側壁を押し当てられ、鯖折りのような形で、喉元に太い炭鉱夫の二の腕を押し当てられた。
信じられない、バカ力で押された結果、背骨が悲鳴を上げていた。もう上半身は、完全にキャットウォークからせり出ていた。足は以前、隻腕隻脚の炭鉱夫に掴まれていた。
息ができない。背骨が折れるか、落ちるか窒息するか、どっちかだった。
自由になる両手で、この醜い顔の炭鉱夫の喉元に手を遣り、首を絞めた。効果があるのかどうかわからなかった。
ダメだった。両手に力が入らない。
ダメかもしれないと思ったその瞬間。
聞き慣れた声が聞こえた。
「やめなさい」
元妻ゆみの声だ。
声の方向に視線をやると、ゆみがキャットウォークの低い側壁の
やめろっと言ったのは、炭鉱夫に対してか、矢吹蒼甫に対してか、分からなかった。
ゆみは、側壁の
そっと、人差し指と中指の二本の指で上半身だけ穴から出て、矢吹の足を掴んでいる炭鉱夫のヘルメットをそっと
隻腕隻脚の炭鉱夫は、音も声もなく、矢吹蒼甫の足を離し、キャットウォークから落下していった。
それでも、醜い顔の炭鉱夫はぐるぐると唸り声をあげ、矢吹蒼甫の喉元を押し込んでいた。
ゆみは、また、そっと、今度は、中指と薬指の二本指で醜い炭鉱夫の側頭部をまた
醜い炭鉱夫の頭がゆみが撫でた方向とは逆に崩れ落ちた。首を失った体は流石にそこに倒れた。
しかし、醜い炭鉱夫の押しがなくなった途端、もう上半身はキャットウォークからせり出ていた矢吹蒼甫は、微妙なバランスでキャットウォークに残っていたものの、バランスを崩し、キャットウォークから落下した。
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