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 警備員は、犯罪者と戦う義務はないが、雨と戦う義務はになっていた。

 矢吹やぶきは、三輪の原付きの後部のラゲッジから雨合羽を持ち出し、<グランド・ワールド>の<サン・ロビー>と呼ばれる、中央ロビーの大きな円形の一階家の中心に座り込んでいた。

 避雷針の件は事務所で既に聞いていた。

 外は、梅雨の終わり特有の雷も鳴り土砂降りの雨となっていた。天気予報でも、不安定な天気と言っていた、たいそう便利な表現だ。

 しばらく待って止むことを望んでいたが、止みそうになかった。もう時間だった。

 <サン・ロビー>の別室にある中央制御室で園内の全照明を点灯させていた。電気代を支払うのは、西日本総合警備でなく、どうせこの<グランド・ワールド>を所有している会社だ。

 というか、別にヤケクソというわけでなく、現実、この視界さえ奪うような雨の中、警備するのは、危険だった。

 巡回は二回。それと、今日は、特別にジェット・コースター<バイパー>の最長部の避雷針の確認。

 この雷の中?!。避雷針に触れて作業中に避雷針に落雷するとどうなるのか、矢吹の受けた教育ではわからなかった。

 これも、仕事だ。

 夜10時、園内の灯りで煌々と照らされた土砂降りの中、一回目の巡回スタート。

 矢吹は、<サン・ロビー>の円形の軒の下に出ただけだったが、土砂降りの雨は矢吹の、顔をびしょ濡れにした。

 園内のライトは全開だったが、いかんせん、ど田舎の山頂を切り開いて建てられた遊園地である。周りは、杉の木で鬱蒼としており、また、雨は情け容赦なく、視界を遮った。

 園内の地図と巡回順路に従い、歩いて行く。こんな閉鎖前の遊園地に資産価値のあるまた盗難可能な物品があるとは思えなかった。

 逆に金を支払って、引き取ってもらうものばかりではないのだろうか。


 メリー・ゴー・ラウンドは悪趣味な<金星ラウンド>。異常なし。あるわけなし。

 右手にLEDでなく旧式の懐中電灯。会社の備品。左手でヘルメットのひさしをつくり、視界確保。


 しかし、その時、雷鳴轟く、土砂降りの中、傘もささなずにずぶ濡れのコートを着た髪の長い女性が矢吹の後ろを音も立てずについて、歩いていた。

 矢吹は知る由もない。


 ゴー・カート広場は、悪趣味な<ロケット・ブースター>。異常なし。あるわけ到底なし。


 お化け屋敷は悪趣味な<宇宙人蝋人形館うちゅうじんろうにんぎょうやかた>異常なし。あるわけ絶対なし。悪趣味で醜悪すぎて犯罪者も避けるはず。

 そのとき、一瞬、雷の光で、フラッシュ。

 3メートルはあるタコ型の宇宙人が目の前に突然現れた。

「ぎゃあああああ」

 矢吹は声を上げた。雨を避ける人間が誰でもなら、声を上げる人間も誰でものはずである。

 矢吹は、慌てて園内地図と巡回順路を確かめた。

 矢吹は合羽という宇宙服を着たまま巨大な宇宙人ゾーン<アウター・スペース>に踏み込んでいた。

 周りには、フランジ、軽くて丈夫なFRP(繊維強化プラスティック)で出来た、SF的デザインとしては完全なB級の4,5メートルあるような宇宙人が矢吹を取り囲んでいた。

「異星人との第三種接近遭遇」

 矢吹は一種の意趣返しで口に出した。矢吹は、スピルバーグの大ファンだった。彼ほどの映像作家は世界には居なかった。

 <アウター・スペース>。異常なし。あるわけなし。

 異常があるのは、叫んでしまった矢吹とこの宇宙人たちをデザインしたデザイナー。

 続いて、思って、大型観覧車<長巨大惑星の縦型軌道の罠>を見ると、、、。

 一瞬、雷が光った。

 その観覧車の搭乗用台座に髪の長い女性がうつむき加減で立って居た。

 矢吹は、今度は、声を上げなかった。いや上げられなかったのだ。

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