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 矢吹やぶきは右手にもった懐中電灯を思いっきり、大型観覧車<長巨大惑星の縦型軌道の罠>の搭乗用台座に再度光を当てた。雨でよく見られなかったが、、。

 女は居なかった。

 見間違いか、、。

 ホッとしたと同時に、仕事を思い出した。園内に取り残された客かもしれない。

 この折からの大雨だ。係員が慌てて、閉園準備をして客を内部に取り残した可能性もある。

 矢吹は大型観覧車<長巨大惑星の縦型軌道の罠>に近づきながら、大声を上げた。

 なにしろ、周りは、雨の音、雷のゴロゴロ。時折、どしゃーん、と落雷だ。

「どなたか、いらっしゃいますか!おられたら、返事してください」

 雨が激しくなったので、観覧車の中で待機していた可能性もある。

「どなたかおられますか?」

 何度も、観覧車のあたりを確かめ声をかけた。

 たが、誰も居なかった。観覧車の操作方法まではわからなかった。視界がとどく範囲まで、背伸びしてど両側とも三台目までゴンドラを確かめたが、誰も居なかった。

 よく見ると、一本の伸びすぎた、杉の木の枝が白木山から、園内に伸びていることに気づいた。

 枝ぶりから丁度 髪の長い女性がうつむいている感じに見える。

 矢吹は原因がわかるとともに馬鹿らしくなった。正式に林野庁か国土交通省に抗議してやろうと思ったが、この白木山も含めて、ここの運営会社の山かもしれないと思うと、本気で辞めた。

 東京都違い、矢吹には、ここより退しりぞく場所はなかった。改て本気で辞めた。

 しかし、西日本総合警備からすると、ここの運営会社は顧客にあたるわけだが、ここの運営会社のあまり良くない噂は矢吹が幼い頃からよく耳にしていた。

 北九州市の炭鉱王の一人、古賀家こがけがどうしても遊園地がしたいという道楽息子に採掘中に事故がおきて閉山した山ごと与え、切り開かせ、遊園地を経営させていたのだ。先程の、エントランスでの初老の男は、そこの一家の家令というか、遣り手番頭の桜井さくらいだ。 

 それも、所詮金持ちの道楽息子の遊び半分の豊満経営で閉鎖というざまだ。

 矢吹は、思い直し、順路に従った。

 次は、、、、ジェット・コースターその名も<バイパー毒蛇>。北九州市という片田舎にして西日本最大のジェット・コースターである。

 速度は、最大時速270キロ。新幹線を越える。最高部の高さ75メートル、高さは、ビル35階建ての建築物に匹敵。最大傾斜は、86度。全長は2500メートル。宙返りは回転を付けたひねりが入ったコーク・スクリュー、もしくは、戦闘機乗りの間では、ハイスピードー・ヨーヨーと呼ばれている宙返りを三回行う。総所要時間は約3分。地獄の三分間である。しかしまぁ、とんでもないものを造ったものである。

 矢吹は、<バイパー>を見上げた。

 古賀こが家の道楽息子、古賀武人こがたけとは。

「白木山を切り開いただけはあるな」

 矢吹は独りごちた。

 矢吹は、このジェットコースター<バイパー>を避雷針を確認に行くときに確認するつもりで、ろくに見もせず、土砂降りと雷鳴の中、<サン・ロビー>に戻った。

 しかし、髪の長いうつむき加減のこの梅雨の蒸し暑い中コートを来た女が<バイパー>の最高部にまるで、神のようにいち、いそいそと<サン・ロビー>に駆け込む矢吹を見おろしていた。そして、その女の横には、学問の神様が雨の中、即位即冠で立っていた。どういうわけか、学問の神様は、濡れていなかった。

 学問の神様も矢吹を見下ろしていた。

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