極上の口溶け

(2月初めの金曜の夜、カクテルバーで)

吉野「(微妙に照れつつ)……もうすぐバレンタインだな。

当日、会えるか?」


岡崎「…………

まだちょっとわからない」


吉野「……今、仕事忙しかったりするのか?」

岡崎「(言いにくそうに)いや……

そうじゃないんだが……」


吉野「なら……なんで?」


岡崎「…………」


吉野「——まあいいや。

来週中には、予定はっきりするんだろ?」


岡崎「…………ああ、多分な」


吉野「……

とりあえず、予定わかったら早めに連絡くれるか」

岡崎「ん」


吉野「……(胸ポケットから雑に煙草を取り出し、微かに苛立たしげに火をつける)

『……なんだよ、この曖昧な感じは?

だって、バレンタインだぞ?会いたいだろ普通……

……も、もしかして、何か新たな障害でも……?

長期の海外赴任とか、またやばい相手に告られたとか……

まっまさか、上司の娘と強制見合いとか……!!?』」



(その後いくら待っても岡崎から連絡来ず、バレンタイン2日前。吉野、待ちきれず岡崎にTEL)


吉野「……おん前なあ……

一体どんだけ俺を焦らせば気が済むんだよ!??」

岡崎『……吉野、悪い。

14日……やっぱりちょっと無理そうだ』


吉野「……

理由は?」


岡崎『……』


吉野「……言えないのか?

——ここまで来て、まだ俺はお前を疑わなきゃなんないのか……!?」


岡崎『ち、違う……そうじゃない!!』

吉野「じゃあなんだよ!?はっきり言え!!」


岡崎『……うまくいかない』

吉野「は!?

……なっ、何が!?」


岡崎『——お前、以前俺に焼いてくれただろ、ストロベリー味のマカロン。

今回は、俺がお前に渡したくて……極上の口溶けの生チョコを完成させるべく全力で取り組んでいるんだが、何度やってもうまくいかない。

お前のマカロンに負けるなんて……何が何でも、それだけは嫌だ!!

絶対に満足のいくものを完成させるから、もう少しだけ、時間をくれないか』


吉野「…………

『極上の口溶けの生チョコとかぶっちゃけ全然いらねーんだけど……ってか、とろとろ甘く蕩けるお前しかいらねえんだけど。

とか言ったら、またこいつを怒らせるんだろうな……』


(クスッと)……わかった。

——あんま待てねえからな」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る