第6話 在るべき場所
13・競争の果てに
「空堀を越え、カーブに入るまでが追い縋る好機だ。ここは障害が多く揺れもひどくなるが、みな気張れよ!」
アウデンの檄に同乗の兵たちも気合を入れた声で応じるが、訓練では味わうことのない天覧試合という緊張感からか、非常に消耗していた。それはアウデンも同様だが指揮官という立場上、それを口にはできず態度で見せるわけにもいかない。眼前を行く相手とはまた別の敵とも戦わねばならないのだ。
(カーブでは引き離せるが、ストレートでは詰められる。そして残るカーブはあと2回で、ストレートはここを入れて3回か。う~ん、ちょっとまずいな……)
一週目を先に終えたフレッドはおよそ半周ほども先を行っているが、二周目は城壁とその後の標的群の場所で止まることがないため、最高速に優れるアヴニアにはかなり詰められると予測される。カーブに入ればまた離せるが、反対のストレートではまた詰められる。ストレートで詰められるぶんくらいはカーブで離せない限り、最後のストレートで差し抜かれる可能性は高かった。
(カーブで速度を抑えずに曲がり切るしか手はないか。施設担当の方には申し訳ないところだけど、あちらも城壁を破壊したしね……)
空堀を渡り切り、城壁があった場所が崩された地点も使わせてもらい、標的群を抜けたフレッドの後方には、先ほどより半分ほど後れを挽回したアウデンらが迫っていた。残るストレートは2回あり、アウデンはこの調子なら最後で逆転は可能であるとの確信を持つが、カーブに入ったフレッドの行動を目にし驚愕する。
「なぜ速度を落とさぬ?あれでは外周の壁にぶつかってしまうであろうに。まさか勝負を捨てた……いや、そのような真似をする男ではないな。さて、どうするか!」
アウデンの言葉通り、全速力のままカーブに突入したフレッドの騎竜はカーブを曲がり切れず、徐々に外周に流されてしまう。その場にいた誰もが事故を予感したその状況で、フレッドは騎竜を地面に対し水平に跳ばせて壁を足場にさせ、玉が壁で跳ね返るようにカーブの出口に向かって飛ばせたのだ。強靭な下半身を持つレック種であればこそ可能な、勝負をかけた一手だった。
「うまいぞ!差はまた広がったし、これで最後まで逃げ切れる目も出てきたな!」
皇帝の横ということも忘れ、ブルートも思わずその奇策に声を上げる。メイローには冷たい視線を向けられるも、彼は「誰も彼も、施設を粗末にしおってからに……」とつぶやくに留めた。皇帝臨席の天覧試合ともなれば土盛りに木板の壁というわけにもいかず、きれいに塗装と装飾が施された壁材を使っていたが、足場にされたそれは騎竜の足跡がはっきり残りひび割れてもいたのだ。
『よくやってくれました!脚もきついでしょうけど、もう一回だけ次のカーブで同じようにお願いしますね。』
壁を蹴って高所に登るということはグア=ロークとの戦いでも使った手であり、騎竜にとっても「壁を蹴る」という行為自体は指示されればこなせるものだったが、反動を得るためだけに使ったことはなかったので、ぶっつけ本番ながらほぼ完璧といえる出来にフレッドも満足していた。
『見える限りはあれが最後に残った標的。結局、私の破壊数は半数の35には届きませんでしたか。せめてあれだけでも……!』
一周目は小高い丘のある側を進んだフレッドは気付かなかったが、窪地のある側の標的は討ち漏らしがあったため、フレッドはそちらを通過し通りざまに龍ノ稲光を引き抜き33体目の標的を両断する。射撃28、斬突5という成績は、3人で標的を狙ったアウデンらの撃破合計34と比べても見劣りしない成績と言えるだろう。
「撃破数に差は皆無といったところか。となれば決着は、先に走破したほうとなるわけだな。さて……勝負もいよいよ大詰め。どうだブルート卿、余と賭けをせぬか?」
皇帝の提案に、ブルートは「もちろんフレッドの勝利に賭ける」と伝え、アヴニールは「ではアウデンらに賭けよう」と話す。メイローには戯れが過ぎると苦言を呈されるも、皇帝は意に介さない。皇帝という立場、歳の離れた重臣たち、その中でも何かと意見を異にする保守派の者たちに囲まれる生活を送っている彼にとって、この競い合いは久しぶりに一人の人間として楽しめる場であったのだ。
「さあ往け、戦場を駆けし剛士たちよ!この愉しき時間もすでに終幕が迫っておるのは惜しいが、最後の最後までお主らの心意気を余に見せてくれ!」
城壁がない側のストレートの中央を先に通過したフレッドと、やや遅れて通過したアウデンらに皇帝の檄が飛ぶ。もっとも、すでに観衆も思い思いの大歓声を上げており、皇帝の声が競技者たちに届くことはなかったが、わざわざ言われなくても彼らは死力を尽くして勝利を目指していた。
(これほどの相手に「騎乗戦技で後れを取るはずがない」とか「わざと負けることも考える」などと……まったく、思い上がりも甚だしい。戒めないとね。)
最後のカーブで壁蹴りをさせつつ、フレッドはそう思わずにはいられない。そして今は、純粋にこの相手に競り勝ちたいと考えていた。細心の注意を払いつつ空堀の丸太を越え、残るは奥に見えるゴールまで走り切るのみ。しかしこの空堀を過ぎた時点で、フレッドに有利な要素はなくなってしまっていた。
「この直線ですべてが決まる!武器も盾も、捨てられるものはすべて捨てよ!たとえわずかであっても軽くし、アヴニアの負担を減らすのだ!!」
もはやなりふり構わず……というアウデンの指示だったが、自身の長槍や兜まで投げ捨て部下たちもそれに倣う。実際のところはそれが役に立ったかの判断は難しいところだが、アヴニアがフレッドの騎竜と並びかけたその瞬間、思わぬ事態が発生してしまう。アヴニアが以前に破壊して散乱した城壁の構成物であった丸太がアヴニアに蹴られ、さらに肩口で跳ね左の射手アルテアへ向かったのだ。
「いかん、避けろアルテア!……ちィッ、槍が!」
普段ならアウデンが長槍で叩き落とすところだが、軽量化のために捨ててしまい手を出すことができなかった。側を行くフレッドとの差に注視していたアルテアはそう言われて初めて進行方向に向くも、気付いた時には体が動かなかった。もう避けられない……と覚悟を決めた彼女だったが、丸太は寸前のところで二つに裂け上空に跳ね上がった。フレッドは騎竜を跳ばせ、下から振り上げる形で丸太を両断したのだ。しかしそのジャンプがわずかな速度低下を招き、完全に並んだ両者はそのまま並走する形になってしまう。そして、頭の大きさぶんアヴニアに軍配が上がることとなった。
『残念ですが、戦いは結果がすべて。ただ全力を尽くした結果、こうして敗れたのですから悔いもありません。この勝負、皆様の勝利です。お見事でした。』
先に走破したのはアヴニア、標的を多く撃破したのもアヴニア。どこから見てもこの勝負はフレッドの完敗である。フレッドはアウデンらに近づき祝辞を述べるも、勝利を讃えられた側は納得していなかった。お互いに撃破した標的を集めて並べさせ、思うところをぶつける。
「我らは3人で標的を狙い、数こそ34とお主を上回ったが、腕や脚など致命傷に至らぬ場所に当たっているものが散見される。翻ってお主の標的を見れば、すべて頭か胴に命中しておる。これを以って撃破数に勝ったなどと、言えるものではない!」
フレッドは「それは事前の取り決めに入っておりませんから」となだめるも、アウデンは納得しない。その点はエトールとアルテアも同様のようであった。
「それに最後……お主はアルテアを助けず走破を第一に考えていれば、あのまま逃げ切れたやも知れぬ。一個人としては感謝してもし切れぬが、勝負に臨んだ者としてはどうしても納得いかんのだ!」
そう言われても、フレッドとしてはこの状況で「総合的に見て勝利」と言われるのはどうしても受け入れられなかった。互いの意見が平行線を辿り、妥協点も見つからぬまま相手に勝利を押し付け合うという異様な展開に終止符を打ったのは、競技場にまで降りてきた皇帝とブルートら随行者であった。
「なるほどのう。お互い武人の矜持にかけて、勝利を譲られるのは我慢ならんか。ならば余の名に於いて断を下す。両者はそれぞれの特性を活かし、その在り様をこれ以上ない形で示した。その真理の前には勝敗など些末な問題である。よって此度の乗り比べは勝者も敗者もなく、引き分けと致す。……これでどうだ?」
フレッドもアウデンも否と答えられようはずもなく、頭を下げて一礼し決定を受け入れた。そして皇帝の名で改めて引き分けであると伝えられると、会場からは自然と拍手の嵐が鳴り響いた。騎兵の文化に親しみのない皇国民が観ても、息の詰まる白熱した一戦だったのだから、それも当然のことだろう。
「両名とも、明日の生誕祝賀儀式後に行われるブルート卿の就任式に出席せよ。その席にて此度の働きに対する恩賞を授けよう。」
こうして天覧試合は両者引き分けという形で幕を閉じる。フレッドとアウデン、両者は競い合いを通じてお互いの顔と名前を記憶に留めることになり、数周期後には共闘する仲ともなるのであった。
14・領主叙任式
「皇帝アヴニール=ラ=バルザ=シルヴァンスの名に於いて、ブルート=エルトリオをザイール辺境州の領主に任ずる。なお、かの者たっての請願によりこの任は今後ザイールにて行われる領主選定の儀により選ばれし者が決定されるまでの一時的なものとし、正式に選ばれし者をザイールの領主とすることを余も追認するものとする。」
この宣言が下さされた時、式典会場はどよめきに包まれた。いくら辺境州のこととはいえ、領主を地方で勝手に決めるなど皇国の歴史にはなかったからだ。次席宰相を始めとした保守派は苦々しくその様子を見守ったが、心中穏やかでないことは間違いなかった。しかし若き皇帝は意に介さなかった。
「そもそも今回ザイールで起きた争乱は、地元の民を虐げる領主が着任したことに端を発する。だがシルヴァレートから各辺境州はあまりに遠く、どうしても監視の目は行き届かぬ。余は常々、考えておった。余に監視できぬなら、余の民にその代理を務めてもらえばいいのではないかと。そこに、この者らが現れた。この者らは皇国の名に泥を塗る愚か者を成敗し、我が国の名誉を守ったのだ。」
皇帝の言葉に、改革派はもちろん保守派の中にも思うところがある者は多かった。その一方で、ウェルテら強硬な保守派は危機感をより一層、その身に感じることとなる。後から振り返れば、この式典が歴史を分ける分水嶺となるのだが、この場にいる人間はそのことを知る由もない。
「そして此度は、もう一名の新領主が決まった。前領主が事故で急逝したゆえ急ぎの決定となり、皆に伝えるのも今日が初めてとなる。かの者も急なことだが昼夜を問わずシルヴァレートに向かい、先ほどちょうど到着したという。ヘイパー州の新領主となるグロウ=ランサム、これへ。」
その言葉にブルートは思わず振り返りそうになるも、皇帝の前で跪いている身ともなればそうはいかなかった。後方より歩み寄る靴音が聞こえ、ブルートと同列に並び同じく跪いた男の顔を横目で見れば、相手も同じくブルートを横目で見つつ薄く笑っている。いくらか老けたが、そこにはかつて故郷で別れた親友の顔があった。
「引き続き、先日の乗り比べにおける褒賞式典を執り行う。アウデン=ダインストならびにフレッド=アーヴィン。陛下の御前へ。」
皇国では「重装兵の正装は板金鎧」という伝統があり、アウデンもこの式典の場には儀礼用の飾り付けられた鎧を纏って出席している。一方のフレッドは、もともと式典に出るという予定がなかったため正装の衣服を用意しておらず、乗り比べが終わった後は首都中の衣服店をはしごするという混乱の末にこの場に立っていた。
「どうもこちらの正装服は堅苦しいですね。鎧を纏っているわけではないのに、鎧を纏っているかのごとき窮屈さです……」
用意を手伝ってくれたリリアンは「お似合いですよ」と言ってくれたものの、それは間違いなくお世辞だろうと思う。さすがにユージェの衣服を持ち込むことはできなかったが、ここ数周期は皇国の服をユージェの服のように動きやすさ重視の形にアレンジしたものしか身に着けていなかったので、動きが制限される服はどうしても動きまでぎこちなくなってしまうのだ。それを見たアウデンは「昨日お主にその服を着せていたら、我らは完勝できたな!」とからかわれたほど酷いものだった。
「我が重装騎兵団を代表しアウデン卿、お主に武功褒章を授けよう。この短期間によくぞあそこまで練兵し、優秀な兵団を築き上げた。余は卿らの団に[破城崩壁]の名を授けようと思う。皇国の大盾[護国奉盾]と対を成す、皇国の破城槌として今後の活躍を期待しておるぞ?」
「はっ!身に余る光栄にございます!今後とも我らは陛下と国家のため、日々の練兵を怠らず、危急の際は先陣を切って仇なす敵を攻め滅ぼさんこと……ここにお誓い申し上げまする!」
これ以降、皇国重装騎兵団は通称[破城崩壁]の名で呼ばれることとなる。皇国の子供たちにとっては新たな夢の行き先が増えたのだが、体力だけでなく平衡感覚も求められる[破城崩壁]の入団条件は[護国奉盾]よりも厳しく、入団を諦める子も少なくない……という結果を生むことにもなってしまうのだった。
「そしてフレッド=アーヴィン。強大なアヴニアと、それを駆る我が[破城崩壁]の精鋭に単身で立ち向かい、互角の勝負を演じたことは称賛してもし切れぬ見事な働きである。我が軍では正式にレック種の軽騎兵隊の編成に取り掛かることとし、お主にはその初代団長の任を要請したいと考えている。お主にその意思はあるか?」
フレッドのほうに顔を向け、皇帝がそう言い放つと会場は再びざわつくが、メイローの咳払いによりすぐに静寂を取り戻す。しかし続くフレッドの言葉に会場は大きなどよめきに包まれた。
『この身に余る光栄なれど、お申し出はご辞退申し上げます。その理由は、私のような田舎者めには首都の水も空気もそぐわず、それ以外のここにある何もかもが煌びやかで、この目にはあまりに眩しすぎるからです。どうか故郷のために尽くすこと、お許しいただきたく存じます。』
皇国軍の団長扱いともなれば貴族階級は確定、首都でも良い立地の場所に邸宅も用意され将来は安泰である。しかしこの男は、それを断り辺境州の片隅で暮らすというのだから、保守派の重鎮・次席宰相ウェルテすらその発言には驚かされた。
「聞くところによると、お主はそれほどの力量を持っていながら無位無官の身だというではないか。故郷に帰ってもその力を嫉まれ、恐れられ、そして実力を発揮できる場を与えられぬまま老いさらばえてゆくだけであろう。余の下に来い。お主の力に見合う役職を与えると、ここで確約いたそう。」
その皇帝の意見は、ブルートにとっても耳の痛い話であった。叛乱の成功後、それ以上の混乱を避けるためとはいえ対立勢力への配慮から、フレッドを村人に戻したのは彼の決断によるものでもある。フレッドがそのことを恨み、皇帝に仕える道を選んだとしてもおかしくはない仕打ちをしたのだが、ブルートにはフレッドが皇帝の下には行かないだろうとの確信がある。叶えたい夢があることを知っているからだ。
『この首都はラスタリア一の素晴らしく発展した都市で、陛下のお膝元には重臣の皆さまが、満天の空に輝く綺羅星の如く集まっておられます。なればせめて、私のような流星くらいは辺境州の発展に尽力いたしたいと……そのように考えております。』
二度も誘いを断れば不敬に問われる可能性もあるが、フレッドはこの皇帝ならその心配はないと感じ、丁重に断った。実際のところ、ここで唯々諾々と要請を受けようものなら1周期後はおそらく墓の中だろうというのがフレッドの本心でもある。これはかつての故郷でさんざん味わったことの繰り返しなのだから、その後に繰り広げられるであろうおおよその未来も予見できてしまう。
「そうか。これ以上の説得は未練がましいゆえ、今回は見送るとしよう。だが、もし気が変わったならいつでも訪ねて参れ。それとこれはお主の率いる兵団に授けようと考えておったが、その気がないとなればお主個人に授けるほかないな。これ以降お主には[銀星疾駆]の肩書を名乗ること許そう。皇国正規軍に参加するまで兵権こそ与えられぬが、待遇は師団長と同等といたす。資金に困るようなら後に授ける印証を最寄りの州政府に示すがよい。協力は惜しまぬよう、通達を出しておくのでな。」
このようにフレッドは破格の扱いを受けることになったが、あるいは誘いを断ったからこその結果だったのかもしれない。いずれにしても重臣たちから受ける可能性があった妬みや嫉みの集中砲火を逃れ、フレッドは無事会場を後にすることが叶った。
「まさかお前が新領主とはな!あれから一体どういう経緯を辿ればこんなことになるんだ?本当に、こんなことが起こるなどと……信じられんよ!!」
ブルートは式典の終了後、すぐにグロウへ駆け寄り声を掛ける。グロウも「それはこちらの台詞だ」と返すが、ヘイパーで別れた際はもう二度と会えないかもしれないとの覚悟を持っていた二人である。思わぬ再会に喜ばないはずがなかった。
「聞いていると思うが、俺はザイールで暴君を討ってな。とりあえずそのまま後を継いでいたが、陛下の許しを得て戻ったら領主を選ぶ会を開くことにした。そこで選ばれなかったら領主の在任期間における最短記録更新ってとこだろうな!」
悪人を許せず叛乱を起こすあたりは、昔っから変わらないなと笑うグロウだが、彼のほうでもそれなりの問題はあったという。それはユージェ統一連合の設立により皇国南部の亜人種たちがこぞってユージェへの加入を企み、南部の辺境州は実質的には内乱状態にあるというのだ。奴隷狩りが横行していたせいか南部は亜人種たちの憎しみが深く、奴隷を禁止していたヘイパー州だけが狙われずに済んでいるという。
「君のご先祖が選んだ道は正しかったってことさ。だから君と友人だった私が、前領主急逝後の代理として選ばれたんだ。領主となったら君を探し出して、追放処分を取り消すよう国に掛け合おうと考えていたんだが……どうする?」
ブルートは友の心遣いに感謝するも、気持ちだけ受け取ると丁重に断る。ただ「家族の墓参りだけ許してもらえればそれで充分である」と。今の彼には、帰るべき場所と叶えるべき目的があるのだ。
「俺も、そしてあいつも……いま在るべき場所はザイールなんだ。俺たちはあそこに家族や仲間を待たせているし、目的を達するためにも帰らなければならない。だからブルート=エルトリオはヘイパーに帰らないが、そうだな。名も分からぬ謎の男が、エルトリオ家の墓参りをできるよう取り計らってくれるとありがたいよ。」
このやり取りの結果、ブルートはヘイパー州に立ち寄ってからザイールに戻ることとなった。大人数で移動しては遅くなるため、ブルートとグロウお付き2名で足の速い竜を乗り継ぎ、可能な限り急ぐのだという。ヴェントらは直接ザイールに戻るとなり、ザイールでは無位無官のフレッドは急ぐ必要もないと言われた時、フレッドは一同が驚愕する答えを口にする。
『いい機会ですから、中央山脈に寄っていきましょうかね。シェーファーさん達にも一度は訪ねてくれと何度も言われましたし、あちらの長に協力いただいたお礼も言いたいですから。』
ブルートに急な予定が入ったこともあり、10日あった滞在予定は3日に短縮されることとなった。ブルートは南方のヘイパー、フレッドはリリアンを伴い南西の中央山脈、シャンクとヴェントは西方のザイールに帰還と見事に三方へと分かれることになり、各自が用意に追われることとなる。そして翌L1027開墾期78日、フレッドに印証を届けに来た使節にフレッドはブルートも呼ぶよう言われ、こう告げられる。
「出立の準備の最中お手数ではありますが、これより私にご同道願いましょう。陛下が個人的に会いたいとの希望をお持ちです。」
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