今日もっとも高い血液型は……これです!!

ちびまるフォイ

今日の血終値をみきわめろ!

「今日の血の終値は

 AB型 NN円

 O型  MM円

 B型  SS円

 A型  PP円でした」


テレビのニュースでは血価を報道していた。

ちょうど仕事を辞めて収入源を探していた俺はこれだと思った。


「ようし、第二の仕事は血バイヤーで稼ごう!」


血価は毎日価格が変動する。

ベストなタイミングで血を売って大儲けするのだ。


まずは献血だと偽ってB型の血液を集めることに成功した。

あとはこれを売って収入を増やす必要がある。


「……いつ売ろうか悩むなぁ」


本やネットで勉強しても結局タイミングはつかめない。

こういうときは専門家に相談しようと声をかけた。



「B型の血液? ダメダメ、今は売るタイミングじゃないよ」

「そうなんですか」



「B型? だったら今が売り時だよ! ここから価格は下がる!」

「ええ! そうなの!?」



「B型ねぇ……次はAB型が上がるから合成しておいたほうがいいよ」

「は、はぁ……」



さまざまな専門家や予想屋を回った末に得た結論はただひとつだった。


「って、ぜんぜんあてにならねぇぇぇぇぇ!!!!」


誰に聞いてもみんな違うことを言う。

これじゃあ判断材料になるどころか、単に迷わせるだけだ。


「はっ! まさか、血価を下げさせないためにわざとウソを言っているとか。

 そう考えると納得できる。おのれ、これが情報戦か……!」


ひとりでもライバルを減らそうと間違った方向に誘導しているのか。

そう考えるともう誰も信じられない。

いったいどうすれば確実に稼ぐことができるのか……。


「今日の血の終値は

 AB型 CC円

 O型  QQ円

 B型  LL円

 A型  SM円でした。


 A型の急成長に血場は大混乱の1日でした」



「……うーーん。みんな血価の値段は想像できてないんだなぁ」


そう思うと、一番単純でわかりやすい答えが見えてきた。


「そうだ! 全部の血液を最初からストックしていればいいじゃん!

 一番売りやすい時に、売れる血液を売れば大儲けだ!」


その日の夜に俺は病院へ忍び込んだ。

保管してある血液を持ち出して家に帰った。


「A、B、O、AB……うんうん。全種コンプリートだ!

 さぁ、どんな価格になってもばっちこいだ!」


俺の血液型であるA型もある。

あとは血液の値段の乱高下を見つつ、ベストタイミングで出せばいい。


まるで俺を応援するかのように血価市場もバブルへと突入する。


「大変です! 今日も血価は大きくアップ! まさにバブル再来です!」


「キタキタキター!!」


血液パックをフリーザーに入れて売りに行こうとしたが、足が止まる。



「待てよ……今が本当に売り時なのか?」



たったひとつの疑心暗鬼が、がんのようにじわじわと気持ちを浸食していく。


明日はもっと価格が高くなっているかもしれない。

明日になるとバブルがはじめて、価格が激落ちするかもしれない。


ふたつの反する気持ちが俺を苦しめる。


「うあああ!! どっちだ!! どうすればいいんだぁぁぁぁ!!!」


板挟みと葛藤で苦しめられたところで、思わぬアイデアが思いついた。



「あ、そうだ。少しづつ売ればいいんだ。

 血液なんだから少しづつ売ることができるわけだし。


 少しづつ売れば明日に血価が下がっても、

 血価が高い時に売っていた貯金があるから被害は少ないはず」


ちびちび売るのがやっぱり一番安全だという結論に至った。



「今日の血の終値は

 AB型 DD円

 O型  LPRETTT円

 B型  KJ円

 A型  -LA円でした。


 O型がバブルですね!

 一方でA型はゴミです、売るだけ損します」



今日、一番値段が高かったO型の血液をフリーザーに入れて売りにでかけた。

すべて売りつくしてしまわないように少量にしてある。


「血を売りに来ました」


「ありがとうございます。血液はOですか?」


「ええ」


「そっちですね。では、あちらへどうぞ」


案内に従って進むと白い部屋に出た。

どう見てもお金を受け渡すような場所には見えない。


奥で待っていた白衣の男はニコニコしながらやってきた。


「いやぁ、こんなにたくさんの血を持ってきてくれるなんて!」


「いえいえ、俺は需要を見極めて売り時をはかっているだけですよ」


まるで自分のバイヤーセンスが褒められたみたいで嬉しかった。

O型の血液パックを売ろうと取り出すよりも早く、男は俺の手を取った。



「それじゃさっそく血液をもらうことにするよ」



あっという間にベッドに固定され身動きが取れなくなる。


「なにするんですか!? 俺は血を売りに来ただけですよ!?」


「ああ、知っている。感謝しているよ。

 今はA型の血の値段が下がっていて誰も売りに来なかったんだ」



バカでかい採血ロボが俺のA型の血をすべて抜ききったあとに、

カラカラの体で過去を後悔した。



血液はO型かと聞かれた時に

どうして「はい」ではなく「ええ」と言ってしまったんだ……。

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