31 フルプレート・フィーメイル
軌跡だけを空間に刻んで、手刀と蹴りが交錯していた。
大太刀の打ち合いが如く、白銀の鎧と白い素肌は閃く。
幾度も。
幾度も。
幾度も。
一合のたび鮮血が、
以前、夕暮れの祠で行われたそれよりも遥かに苛烈で――あまりにも美しい、一騎打ち。
僕は二人の
「――――美しい」
ぴたりと動きを止めたヴューティが、鎧術の構えを崩さないままボソリと言った。
「着装武装の造形。
いきなりヴィナンさん褒め始めてる。べた褒めだ。
「不思議だな、全く嬉しくない――
「
「兄上……そのような認識は」
互いに臨戦態勢を崩さず、二人は言葉を交わす。
激しい『動』の戦いから、今度は『静』の戦いへと変わったのか――なんて知った風なことを考えていたんだけど。
少し離れた場所で見守っている僕は、ヴューティの裸体に刻まれた傷口が塞がっていっているのに気がついた。
まるで動画を逆再生するみたいに、あっという間に元通りだ。
「ヴィナンさん! そいつ、時間稼ぎしてる!」
「――姑息なッ!」
ヴィナンさんは僕の声を聞いてすぐに高速の踏み込み。再生を終えたばかりのヴューティに貫き手を放つ。
とんでもない跳躍力で10メートルほど後ろへ飛び退いたヴューティが、拳を握って思い切り振るう。
まるで、目の前の相手を殴ろうとするような動きだ。
振り抜かれたヴューティの右腕は――そのまま肘の先から千切れてスッ飛んだ! 血を炎のように噴き出してまっすぐに飛んでゆく!
意表を突かれたヴィナンさんの回避が遅れた。
「ぐ……まさか、痛覚、を、遮断して――!」
不意打ちがクリーンヒットしたヴィナンさんが膝をつく。
顔を覆った仮面の内側から、血液が一筋つたう。
片腕を自ら引き千切ったヴューティは、平然としている。
数秒後、飛んでいった右腕が戻ってきて元通りにくっついた。
「いま水を差したのは貴様だな」
「う!」
ヴューティは、ダウンしたヴィナンさんをそのままにして僕の方へ視線を向けた。
ゆっくりと歩いてくる彼が、何事かを呟いている。
「声に艶がない、鼻筋は高くない、体躯に総じて凹凸が見られない――化粧が拙い」
それは、僕を見たヴューティの
「この者、美ならず」
眼と鼻の先まで近付いたヴューティが手刀をかざす。
体が動かない。
歯の根が合わない。
恐ろしさと悔しさで、涙があふれてくる。
審美の手刀は冷酷に、躊躇いなく。
美しくない僕を排除すべく振り下ろされて――
「うおおおおおおおッッッ!」
いままで聞いたことのない気迫の絶叫と共に、横合いから突風めいた飛び蹴りが強襲。
脇腹にドロップキックを受けたヴューティが吹っ飛ばされた。
「ヴューティ=グッドルッキング! お前の認識は歪んでいる――美しくないッ!」
ビシ、と指差して言い切るヴィナンさんに対し、ヴューティが初めて眉をひそめた。
「美しくない……? 美しくないと言ったのか」
「ああ、言った。斯様な心根で審美眼などとは笑止!」
敢えて悠然と構えたヴィナンさんが、へたり込んだ僕を手ずから立ち上がらせてくれる。
「美とは、愛されるからこそ美なのだ。すなわち、其れを愛する者が在るならば、その者は美だ」
力強く肩を抱き寄せられる。
「ゆえに、ミサオはこの上なく美しいのだ!」
どき、と心臓が跳ね上がった。
ああ、そうだ。
やっぱり、やっぱり。
「ヴィナンさんは、美しい」
これからも、ずっと美しいだろう。
これから先、もっと、もっと、ヴィナンさんは――美しくなる!
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ひび割れた白銀の装甲が、内側から噴き出す七色の光に弾き飛ばされ。
燦然する白虹はいま、僕の
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