24 鍵を開ければ
「コレが宝箱ってことだねー」
奥の空間には、拡張視覚を使っても何も見えない。
本当に何もない場所に直径1メートルほどの円柱型の台があり、その上に白色半透明の
全ての面に溝が切られている、ブロックの集合体だ。
よく見れば、ブロックのうちいくつかが薄緑色にぼんやりと発光していることに気づいた。
「これ、動かせるね」
「本当だ。こういうパズル、見たことある」
「箱そのものが錠前になってるってことだねー」
50センチ四方のキューブは、溝のところで回転させられるようになっている。
キーロは、ガチャガチャとキューブをひねり始めた。
「……ミサオはさ、前居た所へ帰りたい?」
鍵開けの作業を続けながら、キーロが尋ねてくる。
……元の世界、か。
「迷ってる。って言うか、よくわかなんない。元の場所にも友達とか家族とか居たと思うし。でも、覚えてないから。それに、ヴィナン軍団のみんなの事好きだし、別れるのは辛いなって。思う」
「……そっか」
「ところで、キーロ。気になってたんだけど、ミネル博士と知り合いなの? なんか親しげだよね。キーロだけ“先生”って呼んでるし」
「ん? あー、そだね。ミサオもなかなか鋭くなったじゃない」
キューブを回す手が一瞬止まる。
キーロは、少しだけ黙ってから、口を開いた。
「ミネル先生は、僕の家庭教師だったんだ」
「家庭教師」
この世界では、学校といえば高等教育を行う大学のことだ。
一般庶民の中には、読み書きができない人も珍しくない。
ましてや家庭教師なんて、めったにつけられるものじゃないと聞いた。
「キーロの家って、お金持ちなの?」
「ん、まあ、ね。モアって知ってるよね」
「外国だよね。ガルダ大陸でいちばん大きい国だ、って」
「ボク、そこの王家で生まれたんだ」
「じゃあ王子様ってこと?」
「そだよ……あれ、なんかリアクション薄くない? もうちょっと驚くかと思ったのにぃ」
「ゴリラに育てられた人とか居るし、今さらそれくらいじゃ驚かないよ。それに、キーロが王子様、ってイメージぴったり。髪もキレイな金髪だし」
「えへへ……ありがと。髪は母上ゆずりなんだ」
ツインテールに結った金髪の先をくるくると弄りながら、キーロは珍しくうつむいて照れた。
何気ない仕草が本当にかわいい。
なんならお姫様って言われても信じちゃう。
「どうして外国の王子様が軍団に居るの? 留学とか、修行とか?」
「ううん。ボクは王位継承権も高くないからさ、ここに居たくて居るんだ」
「――キーロは、いつかは故郷へ帰りたいとか思う?」
さっき僕に対してされた質問を、キーロに返してみた。
彼の答えを聞いてみたかったのだ。
それは、僕の今後について考える為もあるけど――それだけでも、なかった。
「できれば、ずっとみんなと一緒に居たいかな。ここのみんなが好きだからね――それにボクは、“ここにいるボク”が好きだからさ」
振り返ったキーロは、少し照れ臭そうにはにかんで。
白い頬は、うっすらピンクに染まっていた。
*
「さて、この仕掛け、動かし方はわかったよ。問題はどう動かせば良いのか
だね」
「光ってる部分を並べるとか?」
「やってみたよ。んー、こんなダンジョンを作るヤツなんだから、きっとどこかにヒントが隠されてると思うんだよねー」
小さな唇に指をあて思案するキーロ。
僕も仕草を真似て、ここまでの道中を思い起こしてみる。
ええと、まずは一番最初に見たものは。
「影なきところに光あり、って言葉が浮かんできて……」
手持ち無沙汰から、思考を口に出してみる。
「――それだ! ミサオ、ダンジョン全体を見て!」
キーロの白い指が示すままに、今しがた踏破してきたダンジョンを一望する。
“真四角の箱“の中に、緑や紫のワイヤーグリッドがひしめく
「道中に、いくつか“何もない場所“があったよね。あれは休憩所なんかじゃなかったんだ」
「何て……?」
「影なきところに光あり。つまり、何もない所に真実がある――」
向き直ったキーロが、キューブをすごい勢いで回し始める。
そのうちに、僕もようやく理解した。
ダンジョンそのものがキューブと対応していて、“休憩所の位置“はキューブの”発光部分“を表していたんだ!
「――よしッ!」
位置が決まる。
キューブの溝が閉じ、継ぎ目のない正六面体になる。
そして、白色半透明のキューブは内側から蛍光の緑色をぼんやりと明滅させ始めた。
「解けた。見てよミサオ。ダンジョンが消えてく」
光の格子が消えていく。
キーロのシングメイルを通しても見えなくなったと言うことは、本当に消えてなくなったということだ。
ダンジョンの消え去ったがらんどうの遺跡。
入り口から、ミネル博士が駆け寄ってきた。
「さ、仕上げよ。中枢機関へ
博士は、持ってきていた妙にメカメカしいトランクを開きながら言う。
トランクの中は、何やらランプやらモニター、キーボードがぎっしり詰まっている。
「ミサオ君、先に“行って”いてね。すぐに助っ人を送るから」
メガネのフレームに指を添えてレンズ越しにこちらを見つめる博士に、僕はことさら神妙な面持ちで頷いた。
<<
*
クメイ島の
「なんや、お
そこには、ランニングシャツをズボンに突っ込んだ
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