23 ダンジョン・ガールズ?

「右足を青、左手を黄色」

「うっく……!」


 床面の光が切り替わるのに合わせ、手足を動かす。

 左足と右手は赤と緑に光る部分につけたまま、右手を大きく前へ。右足は大きく、ぅぅぅ、後ろへっ!


 無理なポーズに体の変なところがつりそうになるが、それよりもまずいのが。


「うわわ! ご、ごめんキーロ」

「大胆、だねえっ、ミサオ」


 ブリッジの体勢になったキーロに覆いかぶさるような体勢になってしまう。

 ほのかな香水のいい香りだ!


 キーロの顔が近い!


「次、床が切り替わったら、ちょっとずつ前へ進むよ」


 キーロの顔が近い!


「それにしても、なんなんだろうねこのトラップ。無駄が多いというか、遊び心があり過ぎるというか」


 キーロの顔が近――


「……ちょっとー、ミサオー。 緊張感を持ってよー」


 *


「ここで休憩しよっか」

「うん。所々にこういう“隙間”があるのはありがたいね」

「本当ホント。このダンジョン作ったヤツ、ぜったい楽しんでるよー」


 緑色のワイヤーフレームでAR表示された電磁バリアのダンジョンは、道中に動く床や迎撃トラップなんてものが仕掛けられている。

 だが、それらを少々切り抜けると、決まってこういう“何もない空間”があり格好の休憩スペースにできた。


「次は上へ進むの?」


 ティンが持たせてくれた弁当を二人で口にしながら、先の道のりに目をやる。

 壁とは違い、紫色で表示されているのはハシゴだ。


 真四角の箱に見えるクメイのダンジョンは、見えない壁と見えない床による3層構造で、上下左右に蛇行しながら再奥に向かうようになっている。


「そだね。じゃあ、ハッキリさせよう」

「……“どっちが先にハシゴを登る”か……だね」



 そう。

 僕たちは、二人ともスカートをはいてきてしまったのだ!



「ボクのスカートの中、色々ぶら下がってるからアブないよー」


 突然の――セクハラ!


「そ、そんな、珍しくないし! 僕だって持ってたことあるし!」

「へぇ。じゃボクの、見てみるぅ?」

「ふぇ!?」


 いたずらっぽく笑って、キーロがフリル満載スカートの裾を掴む。

 まさか、“たくし上げ”をやるのか、この状況で……ッ!


 膝上まであるソックスと、持ち上がったスカートの裾との間に太ももがのぞく!

 まさか、“履いていない”というのか!?


「ちょ、やめ、やめ、やめてェーッ!」


 両手で顔を覆う僕だが、指の間からどうしても“そこ”を凝視してしまってもいた!



 遂に完全にたくし上げられたスカートの中!


 そこには!



 ――おびただしい数の短刀ダガーやピッキングツールに暗器の類、携帯用の薬箱などが吊り下げられていた!



「へっへー。この服、たくさん入るから便利なんだよー」

「これは……アブない」


 もしかして普段から持ち歩いてるんだろうか。

 斥候隊長、おっかないな。


「て言うかさ、勘違いしてたでしょ? ミサオはえっちな女の子だねぇー」


 見透かされてた。恥ずかしさに顔が真っ赤になる。

 上目遣いに僕をからかうキーロは、完全に小悪魔だ。


「ま、いいか。落っことすようなヘマはしないし、ハシゴはボクが先に登る。今後もボクが前に立つね」



 言葉通り、キーロは後の道中で僕の先を行く。

 這って進む狭い通路、光線が狙う壁、落とし穴。

 あらゆるトラップがひしめくダンジョンの中、彼は完璧に僕をエスコートしてくれた。


 そして、6つの休憩所を経て。

 僕たちはダンジョンの“最奥”にたどり着いた。

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