22 入場試見
『影なき所に光あり』
“ダンジョン”の入り口に立って数秒後、頭の中に浮かんできた言葉だ。
そのまま口に出すと、ミネル博士が得心したように頷き、メガネのブリッジに中指をあてた。
あの仕草かっこいいよね……僕も前に鏡の前でやってみたけど、様にならなかった。
「やっぱり。あなた、
「何ですか、それ。一人で納得してないで説明お願いします」
「端的に言えば、念じるだけで
「え。もしかして、すごい便利な能力じゃないですか?」
「ええ。すごい能力よ。本当なら
念じるだけで、操れる?
それなら。
<<
「ッ! やめなさい!」
慌てたミネル博士が、突然僕の肩を揺さぶり集中力を途切れさせた。
――そして、次の瞬間。視界が白み、脳みそを直接掴まれたような衝撃と、強烈なめまいがやってきた。
「もう、いま説明しようと思ってたのに。この手の設備には
「か、かうんたあ……」
「不正アクセス者を撃退する機構ね。無防備に覗き込もうとすれば脳を焼かれるわ」
「じゃあ、さっきのって……一歩間違えれば、死――!」
「そういうこと。外部からのハッキングはまず不可能ね。内部に潜り込んで、中枢部の回路へ直接アタックをかければいけるでしょうけど」
「要するに、忍び込んで宝物にたどり着けってことだね?」
合点がいった、とキーロが言い、ミネル博士も肯定。
「それじゃあ、内側に入り込まなきゃね……っと!」
キーロが、足下の小石をダンジョンの中へ投げ入れる。
石は入り口から一メートルほどの所で「ヂッ」と音を立てて消滅した。
「あれは電磁
「わぁ、怖ーい」
「一歩でも踏み込めば、死――!」
さっき死にかけたばかりなので、だいぶビビってる僕とは対照的に、キーロはずいぶんリラックスした様子だ。
更に何度か小石を投げ込み「うわぁ」なんて声をあげてる。
最初、無邪気に遊んでるのかと思って呆れたんだけど。
よく見てると、キーロは石を投げ込む場所や勢いを少しずつ変えていることに気がついた。
「キーロ、何か探ってるの?」
「ん、そだよー。わかってくれたんだね、えらいえらい。あのバリア? の隙間を探してみたんだけどさあ」
「隙間あった?」
「うーん、わかんない!」
あっけらかんとした笑顔で言い切られた。
「手がかりも何もないし、これからどうしようね……」
「え? 手がかり、あるでしょ」
「何て?」
「最初にミサオが言ったんじゃない。『影なき所に光あり』ってさ」
僕の隣では、ミネル博士がうんうんと満足げに頷きながらメガネのズレを正している。
博士の反応を見たキーロもドヤ顔で、自らの推測を口に出す。
「入り口に刻まれた言葉ってのはさ、だいたい謎解きのキーワードでしょ。だから“影なき所”――つまり、何もない場所を調べれば、きっと何かが見つかるよ」
と、自分で話すうちに新しく思いついたのか。
キーロは急にハッとした様子で、仮面に覆われていない方の瞳を丸く輝かせた。
「ミサオ、これ! ボクのシングメイル! これ使ってダンジョンを見てみようよ!」
「う、うん!」
迫力に押されて、キーロの可愛い顔を半分覆う仮面型シングメイルに
<<
キーロがダンジョンを視る。影なき空間を、視る。
視覚を共有した僕の頭の中にも、彼が視た“光”がそのまま映し出される。
一気に広がった光景、僕たち二人は同時に鳥肌の立つ思いがした。
「これは――」
「――光が、見えたねっ」
何もなかったダンジョンにはいま、緑色の
わかる。
キーロのシングメイルが、肉眼では見えない光を視た。
ダンジョンに隠されていた見えない壁を、捉えたのだ。
「それじゃ、行こっか」
可憐な少女の姿をしたキーロが微笑み、僕の手を取る。
小柄な彼の手は、柔らかくて温かかくて――そして、頼もしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます