19 外からきた船
「すげえ! でっかい
レッドが少年のように目を輝かせ、元・少年な僕も興奮気味にうなずく。
――ズィミ島の港にやってきた“軍艦”は、想像を超えるものだった。
ガルダ大陸のペラギクス帝国は、世界で最も工業力が発展した国だと、ヴィナンさんが教えてくれた。
そして、帝国の軍艦は毎年一回、この島へやってくるそうで。
「これ、空母って言うのかな?」
「クウボ? なんだそれ」
「ああいう広い甲板に飛行機を並べるやつ」
「ヒコーキってのも分かんねえな。ミサオの国の乗り物か」
「……うん、まあ、そんな所」
適当にごまかしておく。この世界には空母も飛行機もない、みたいだから。
単にレッドがものを知らないだけかもだけど。
そう。ペラギクスの軍艦は、一言で言えば航空母艦そのものだった。
金属で作られているっぽい巨大な灰色の船体。天面に、一枚の板みたいになった甲板が乗っていて。
広い広い甲板の端に、一軒家ほどの大きさの艦橋がそびえている。
奇妙なのは、艦橋が真っ白な塔? 神殿? みたいな形をしていることと、甲板に戦闘機らしきものは一機も見当たらないことだった。
異世界の兵器事情はよくわからないな。
僕はミリタリー愛好家でもないし、それ以上の関心は沸かないけど。
レッドも似たようなものみたいで、ひとしきり見物し終えた所で腹時計を鳴らした。
「さ、
ちなみに、見学の所要時間は10分弱だった。
*
集会所に戻ると、いつもより多くの団員が集まっていた。
皆、依頼人の応対によく使う、真ん中のテーブルを取り巻くようにしている。
平均身長が高いイケメン軍団が人垣を作っているので、僕は人だかりの中心を見ることができない。
唯一、壁際で格好をつけて腕組みしているティンに何事か尋ねてみた。
「……ペラギクス“大学”の学長殿が来ているんだ。いま、ちょうどお前の話をしているところだぞ」
興味ない風を装ってるけどしっかり聞き耳を立てていたティンに礼を言い、イケメンをかき分ける。
テーブルには、相変わらず美しいヴィナンさんがひとりの女性と向かい合っていた。
青みがかった銀髪に白い肌、軍服っぽいスーツにタイトスカートかつ、メタルフレームの眼鏡が氷のような知的さを感じさせる。
ヴィナンさんに負けず劣らずの、すごい美人だ。
「ミサオ、おかえり。紹介しようミネル女史。彼女が今話していた、異邦の少女だ」
促されるままに、現在ふつうレベルな眼鏡少女である僕は気後れしながらお辞儀する。
「どうも、天野操、です」
「初めまして。ペラギクス大学院長、ミネル=ママ=クスコ=グリプ=カパック。長い名前でしょう? ミネルで良いわ、ミサオ=アマノ君」
「へ……へぇ」
間抜けな返事をしてしまった。
わざわざ苗字と名前をひっくり返す呼び方に、妙な違和感を覚えたのだ。
よほど不思議そうな顔をしていたのだろうか、ミネル女史はくすりと微笑んだ。
「“日本人”は、こう呼べば良いんでしょう」
「今、何て……日本を知ってるんですか!?」
僕の問いに、ミネル女史は銀のフレームに手をやって眼鏡を正した。
そして、 先ほどの微笑みとは趣の異なる、不敵とも言える微笑みで。
「知っているわ。だって私、あなたと同じ“
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