09 海賊退治(前)

「セイヤーッ!」


 威勢のいい掛け声に応え竿がしなる。

 海面から勢いよく飛び出したカツオに似た魚は、釣り上げられた勢いのまま船の甲板にビターンと落ちてきた。


「へっへー、今日は調子いいぜ」


 レッドは魚の口から慣れた手つきで針を外すと、船体のへりに魚の頭を叩きつけてシメた。


「新しい箱持ってきたよ」

「おう!」


 運んできた木箱に、さっそくレッドや他の数名が釣り上げた魚をドサドサ入れていく。

 いま、こうして船に乗り込み沖合いに出ているのは、全員がヴィナン軍団のイケメンたちだ。軍団の中でも、特に筋肉質で色が浅黒い系統の人達が、上半身裸で一本釣りをしている。


 そう。今回の“依頼”は漁の手伝い――ではない。


「ねえ、レッド? ちょっと全力で魚釣り過ぎじゃない?」

「ん? これくらいなら、とり尽くすなんてことは無いだろ」

「そういうことじゃなくて。漁船のをして海賊を見つける作戦だよ、覚えてるよね? って言うか、そもそも作戦の意味わかってる?」


「わーってるよ。俺の“突撃隊”には、いざって時にヘマするような腰抜けは居ないぜ。なぁ、お前ら!?」


 すぐさま後ろに控えた半裸マッチョイケメン軍団の「オス!」という威勢いい返事がユニゾンする。


 ヴィナン軍団のメンバーは、個々の特性によって部隊分けされているらしい。

 体力とタフさが自慢のレッドは突撃隊。しかも、実力を認められて隊長をやっている。

 抜擢の決め手はヴィナンさんに殴られて立ち上がれるのがレッドくらいだから、とのことだ


「そんな突撃のうきん隊に、お手伝いの可愛い斥候隊長ボクから緊急連絡でーっす」


 マストのてっぺんに居たキーロが、軽やかに僕たちの所へ降り立った。

 サイドアップのヘアスタイル、タンクトップにショートパンツの動き易い格好だが、顔の片側はいつものマスクで覆っている。


「あの商船さ、間違いなく乗っ取られてる。デッキをうろついてる連中がガラ悪すぎ。護衛の傭兵にしたって、商人ならもっとマトモな雰囲気の人間を雇うさ」

「おし。前方のフネにブッ込みだな!」


 僕は首を傾げた。


 キーロが指指している方向には、たしかに船があることは分かる。いや、


 それくらい遠くを走る船を指差して、彼は甲板に居る人の人相について話しているのだ。


「キーロ、あんな遠くが見えるの? もしかして、それがその天資舞装殻マスクの能力?」

「いや、普通に自前の視力だよ。そもそも、この天資舞装殻シングメイル能力きのうがあるなんて、この前始めて知ったしね――そうだ、ミサオ。ボクのこのマスクにも仕掛けはあるの?」


 キーロの大きな瞳が期待に満ちている。

 まるで何かをねだるような視線だ。こんなことされたら、何かを差し出さなくちゃいられない気分になってくるじゃないか。



 <<接続待機中の天資シング舞装殻メイルを検出>>



 ――よし、コツはだいぶ掴めてきた。


 僕は、『天資シング』と呼ばれるオーパーツが近くに在るなら、その存在を感じ、どんな機能を備えているのかまで直観的に理解できる。

 それだけじゃなく、一度僕の頭の中と接続コネクトした天資シングを念じるだけで操ることができてしまうのだ。



 <<汎用透視照準器マルチクレアスコープ起動アクティブ>>



「もう一度さっきの船、見てみて」


 言われるがままにしてすぐ、キーロは息を呑んだ。

 いつもの飄々とした感じが無くなり、目つきも少し険しくなる。


「……船の中が、見えたよ」

「うん。それが、キーロのシングメイルの能力。物質を透視したり、見えないもの……赤外線とか、そういうのを見ることができるんだ」

「そっか。ボクにうってつけで嬉しいよ」


 ぜんぜん嬉しそうじゃない。

 表情は曇ってるし、何か少し、ふらついてないか?


「ねえ、キーロ大丈夫?」

「そんな風に訊かれるくらい、カオに出ちゃってる、か。アハハ、失態だね。うん、けっこう堪えてる。この透視ってヤツ、あまり多用はできそうにないや。しばらく見てたら頭がクラクラしてきてさ」


 それを聞き、慌ててシングメイルの機能をカットする。


「ご、ごめんキーロ!」

「謝らなくてもいいよ。お陰で、ボクの見立てがやっぱり間違いじゃないってことも分かったしね――レッド、船内に数人、囚われている人が居る。ざっと見た感じ、女性ばかりだ」

「――おう! 真っ先に捕まってる人らを助け出す。案内役やってもらうから、それまでに動けるようになっとけよ、キーロ」


 普段は人懐っこく親しみやすいレッドが、触ればヤケドしそうなくらいピリピリとした真剣なオーラで身を固めている。

 同じく、明らかに“モード”が切り替わったキーロは頷いてから、僕を見た。


「ミサオはここに残っててね。初めての子には、ちょっと刺激が強すぎるから」


 僕は何かを言い返そうとするが、小さな掌で制される。


「……ボクは慣れてるから、ちょっと目が眩むくらいで済んだけどね。現場で卒倒でもされたら、足手まといどころか命取りさ」



 目標の商船に接舷し、数人がかりで甲板に巨大な投網を放つ。

 同時に、レッド、キーロを先頭に、ヴィナン軍団突撃隊は海賊に乗っ取られた商船に乗り込んでいく。


 ――結局、何も言い返せない僕は、護衛の団員と共にレッドたちを見送った。


「僕だって、もう軍団の一員なんだから…」



 <<接続済機構コネクテッドデバイスとの視界および音声共有を開始>>



 キーロたちの気遣いはありがたいが、いつまでもでいるわけにはいかないんだ。少しでも、彼らがどんな仕事をしているのかを学ばなくては。


 ――キーロが身につけているシングメイルを通して、僕の脳裏にも彼が見るもの、聞いた音がそっくりそのまま共有できるのだ。



 デッキに飛び移り、網の下でもがく海賊たちを踏みつけながら駆け抜け、船内へ突入。


 周囲を警戒してめまぐるしく動く視界と、背後から響く“敵”の怒号とが、キーロのマスクを通じてありありと伝わってくる。


 船の乗員を捕らえ監禁している部屋の扉が、レッドに蹴破られる。



 そして僕は、生半可な覚悟で“戦場”を覗き見たことを後悔した――――

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