05 これが私のかくし芸

「お、おおお……」


 喉の奥から、思わず怯んだ声が漏れる。


 ヴィナンさんに連れてこられたのは、清潔感ある白壁にエンジ色の絨毯が敷かれた大広間。

 扉を開ければ、ざっと30人ほどの男たちが集まっていた。


 その、どいつもこいつもが、やたらとイイ男なのだ。一人ひとりが合コンで無双できそう。そんなイケメン群れが、広間にひしめいていたのだ。


「すんません団長、すぐに集められたのはこんだけッス」


 頭を下げるレッドに、再び鎧――天資舞装殻シングメイルというらしい――を着込んできたヴィナンさんは「ん」と頷き、くっきりと凛々しい瞳でイケメンたちを一通り見渡した。


 兜だけは外しているヴィナンさんは、当然、女の姿のままだ。

 イケメンたちは、突然やってきた銀髪褐色の鎧美女を見て「誰この人」って感じの困惑した顔になり始めている。


「……何者だ、あんた」


 ずい、と集団から一歩踏み出して、勇気があるもしくは空気を読まない風の男が、前髪の間から切れ長の瞳を覗かせて言った。低音のハスキーボイスには威圧感がある。

 長身痩躯のこれまた美形。藍色の長髪を腰の辺りまで伸ばし、黒革のジャケットを素肌に羽織っている。バンドをやっているとしたらギターだろう(偏見)。


「おいおいおい、見てわからねーのかよ、ティン」


 ヴィナンさんが口を開くより先に、レッドがバンドマン――もとい、ティンの前に出た。


「……わからんから訊いている」

「ヴィナン団長だよ!」

「……女じゃないか」


 もっともだ。


「ティンお前! お前ティン! 団長が女になっちまったからって他人扱いするのかよ!?」


 なんかゴリ押そうとしてくるレッドに、ティンはすこぶる面倒くさそうな面持ち。

 こちらとしては説得に成功して欲しいんだけど、ティンの気持ちはすごくよくわかる。


「女に、なった?」

「そうだよ!」

「……どういうことだ」

「そりゃお前……!」


 レッドがこっちに振り向いて、まっすぐな眼で見てくる。


「ヴィナンさん、なんかこっち見てますけど」

「あれは、『説明をこちらへ丸投げします』のサインだよミサオ」


 そう言って、ヴィナンさんもじっと僕の方を見つめてきた。


 なるほどなるほど、ココが最終的な厄介事の下請けね。

 一瞬ドキッとしたけど、騙されないぞ。


 説明しろったって、どうすればいいのさ。



 <<接続待機中の天資シング舞装殻メイルを検出>>



 ――頭の中に声が響くと同時に、僕はレッドの白銀の篭手に意識を向けていた。


「それじゃあ、百聞は一見にしかずってことで……」


 イケメンたちが一斉に冴えないオンナノコの僕に注目する中、意識を集中。


 <<光閃輻射器ビームジェネレーター起動アクティブ>>


 右腕発振。熱量ゼロ、最小出力――と、頭の中で念じる。


 そして、僕の前に立つレッドの右腕が光を放ち始めた。


「うおおおおおお! 俺のシングメイルが!?」


「レッドさん、右腕を上へ向かって振ってみてください」


 レッドは驚きながらも素直に従う。

 彼がアッパーカットのように右腕を振るうと、まとっていた光は腕を離れて真上へ飛んでいき、天井に当たり弾けて消えた。


「す……すっげええええええええええー! 俺、いま光を投げたぞ!」


 ものすごくキラキラした目でレッドが叫べば、唖然としていたイケメンたちにもどよめきが広がる。


「レッド隊長ってあんな器用なことできたのか!?」

「いやいや、初めて見たって。気付いたか? あの美人じゃない普通な方の、目が光ってたぞ」

「じゃあ、今のはあの子がやったのか?」


 よしよし、うまい具合に驚いてくれてるぞ。


「見ての通り、ミサオはシングメイルの力を引き出すことができる。私も今日、同じことを体験したんだ」


 ヴィナンさんのコメントに、オオオー、と通販番組ばりの感嘆が返ってきた。どうやらイケメンたちはおおむね納得してくれたらしい。


「……いや、まだアンタがじゃないって証明されたワケじゃないだろ」

「あァん!? ティン、ショーメーってどういう意味だよ!?」

「まだ、この女が団長かどうか分からないって言ってるんだ」


 眉間にしわ寄せティンに食って掛かったレッドが、はたと我に返る。


「ああ、そうか。そういう意味ね。じゃあ最初からそう言えよ。ショーメーなんて難しい言葉使わずによ」


 そっか、純粋に言葉の意味が分からなかっただけかー。


 もう黙っててくれないかな、この人。


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