06 男幼女先輩

「ボク、証拠見つけちゃった」


 そう言って、イケメンの人垣から出てきたのは小柄な女の子だ。


 黒基調の袖口がカーネーションみたいになったブラウス、同じくフリルがこれでもかと盛られたスカートは膝上で傘のように広がっている。ハリガネのように細い脚はタイツとロングブーツで完全武装。たしか、ゴスロリって言うんだよね、これ。

 長い金髪はツインテールにまとめ、可愛らしい顔の左半分はヴィナンさん達の鎧と同じような材質の仮面で覆っている。


 恐ろしいことに、こんなお人形さんみたいな格好がバッチリ似合っているのだ。


「この人、ヴィナン団長で間違いないよ。まず、使ってる香水が同じでしょ。あと、話し始める前に居合わせた人全員に目を合わせるところとか、頷き方とか、それにほら、こうして誰かの話を聴く時は右手を腰に当てる仕草とかさ。ざっと見たところ、あと17個は特徴が当てはまるもの」


 女の子は、まったく物怖じすることなく、長身のティンを見上げて飄々と話している。

 て言うか、なんだこの子。この短い時間でそこまで見てるのか。


「どうだい、ティン?」

「……フン、斥候隊スカウトを仕切ってるお前が言うんなら、間違いないだろ」


 ティンは意外なほどアッサリと納得してくれた。


「やっぱすげぇよな、キーロは」

「まぁねー」


 レッドが屈託なく褒めると、キーロと呼ばれた少女はフフンと得意気に鼻を鳴らす。

 あ、キーロって、たしか。


「僕とヴィナンさんを最初に見つけたのって、君?」


「そだよ。なんたって目の良さがウリだからね。こんなド派手な美人と、こんなフツーな女の子の二人組なんて見つけるなって方がムリ」


 キーロは話をする間も、仮面で隠れていない紫色の右眼で、僕をじっと見つめてくる。

 さっきの人間観察っぷりを見ているので、なんか怖い。


「ティンも納得したようだな。さて、ミサオは未だ、自身の力についてよく分かっていないそうだ。今後、ミサオには軍団の一員として住み込みで働きながら、私と私のシングメイルを元に戻す方法を調べてもらおうと思う。それで構わないか、ミサオ」


 ヴィナンさんの目配せに、うんうんと頷いてみせる。


 願ってもないことだ。右も左も分からない世界で、衣食住を保障してくれるだけでもありがたい。それに、ボクだってヴィナンさんと同じく、今の自分自身にどんなことが出来るのか知りたいんだ。


「皆も、異存はないな」



「異議あり!」




 イケメンひしめく大広間、ボーイソプラノのさえずるような声と共に手をあげたのはキーロだ。

 ヴィナンさんは右腰に手を当てて、キーロの意見を促した。


「あのさ、ミサオ。その格好カッコは無いんじゃない? 見たところメイクもしてないし!」

「え、メイク……化粧、なんてしたことない」

「えええーっ! ダメでしょそんなの! て言うか、せっかくホンモノの女の子なのに、勿体無いと思わないの?」


 僕が化粧をしていないことに対し、異様に大きなリアクション。まるで大きな罪を咎めるような口調だ。


 そこまで言わなくてもいいじゃないか、と思ったが、事情を知らないから仕方が無いと気を取り直す。 


「……実は、僕もちょっと前までは男だったんだよ。だから、お化粧とかお洒落とか、その辺りの感覚が無くって」

「そうなの? 仕方ないなぁ。じゃあ、ボクが先輩として教えてあげるよ」

「――何て?」


 鳩豆鉄砲狙撃受け顔をしている僕を見て、レッドが何かに気がついたらしい。


「あー、ミサオ。こいつ、男だかんな」


 毛先をアソばせた髪をくしゃくしゃ掻きながら、苦笑するレッド。


「あとボク、来月で22歳だからね。キミの話してる時の表情からして、どうせ子供だと思ってたでしょ?」


 追い打ちとばかりに鼻鳴らし胸を張るキーロ。



 僕は、どうにか「お願いします、キーロ……さん」と声を絞り出してから、それ以上考えるのをやめた。

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