第6話 殺してでもうばいとる

 いつの間にか魔法をおぼえてたことに驚いて叫んだ俺に対して、アイちゃんはごく当たり前のことのように説明してくれる。


「はい。普通はレベルがひとつ上がるごとに魔法をおぼえます。技能スキルはレベルがふたつ上がるごとにおぼえます」


 スキルの方は、俺がおぼえたのは技名からすると戦闘用の技ばかりみたいだけど、アイちゃんの異空間収納みたいなのもそのうちにおぼえるのかな。


「そうなんだ……魔法やスキルにもレベルがあるみたいだけど?」


「レベルではなくランクですね。こちらは熟練度システムになっておりまして、使うたびに熟練度がたまっていき、熟練度が百に達したらランクが上がって効果が増します」


 なるほど、これもありがちだ。レベルだけ上げても魔法やスキルは種類だけ増えて威力とかはヘボのままってことか。このあたりは、きちんと戦闘経験を積まないといけないみたいだな。


「ところで、ステータスの標準数値って、どれくらいなのかな?」


「レベル×12が標準ですね。レベル×11だと低め、逆にレベル×13以上は高めということになります」


 ……俺、体力とか体使う系、全然ダメじゃん。まあ、前世でも義理で参加したマラソン大会で、スタート地点の陸上競技場で開始直後のダンゴ状態のときに足もつれさせて転んで大勢につぶされて圧死とかネタ的な死に方したぐらいだから当然かもしれないけどさ。


「ちなみにアイちゃんのステータスは?」


「すべて999で人間の上限値です。残念ながら、レベル99まで行くと全員がレベル×11で止まるので差異がなくなりますね」


 こっちも上限カンストだったよ!


「にしても、レベルアップの通知とかないのかな。俺、自分がレベルアップしたり魔法をおぼえたりしたなんて、全然知らなかったよ」


「通知もございますよ。マナーモードになっているだけかと」


「へ?」


「『システム、通知』と念じてください」


 頭の中にメニューが出てきたよ、オイ!


システムメニュー

 通知

  レベルアップ:マナー(ログは残ります)

  ステータスアップ:マナー(ログは残ります)

  魔法取得:マナー(ログは残ります)

  スキル取得:マナー(ログは残ります)

  システムメッセージ:オン

  世界管理者からのお役立ち情報:オフ(ログも残りません)


 俺は思わず叫んでいた。


「スマホかい!」


 とにかく、通知をオンにしておこう……「世界管理者かみさまからのお役立ち情報」はマナーでいいか。あの神様だったら、何か本当に役立つ情報くれるかもしれないけど、名称がすごく宣伝くさいからなあ。


 そんな風にステータスや通知について話を聞いているうちに、席についたときにアイちゃんに注文してもらった「本日のギルド酒場お勧め定食」が出てきたので、まずは腹ごしらえをすることにする。異世界といっても、このあたりの食べものは特に変なものはないようで、ごく普通の焼き肉と野菜の炒め物にパンとオニオンスープがついた定食セットだった。


「いただきまーす……って、アイちゃんは食べないの?」


 俺が食べようとしたときに、ふと気付くとさっきまで向かいの席に座っていたアイちゃんが、自分の定食を置きっぱなしにして、俺の後ろに立っていた。


「先ほどのようなご説明の際にはともかく、お食事の際にご主人様と同席するわけにはまいりません。お世話もございますので」


 そう言いながら、フォークとナイフを揃え、ナプキンを俺の首に巻いてくれる。


「いや、一緒に食べようよ!」


「わたくしはメイドですので、ご主人様と食事をご一緒するわけには……」


「こんな風に外食するときも別々に食べてたら時間がかかって効率が悪いでしょ。一緒に食べてよ。それとも、ご主人様の命令だよって言わないといけないかな?」


「……かしこまりました」


 随分渋っていたアイちゃんだけど、さすがにそこまで言うと、しぶしぶと席に着いて食事を始める。うん、さすがに食べ方も上品だね。俺も見習わないと。


 お勧め定食というだけあって、味も量もなかなかのもので、食べ終わったら満腹になっていた。


「さて、それじゃあ宿屋に行くか」


「ご案内いたします」


 アイちゃんが財布を持っているので代金を払ってもらってからギルドを出る。そのままアイちゃんが先導するのについていくと、大きな建物が建ち並んでいる宿屋街らしきところに出た。ところどころに客引きとおぼしき人が立っていて、道行く旅人や冒険者風の人々に声をかけている。


「ギルドで聞いた話ですと、こちらの宿がお勧めと……」


 ひとつの建物を指さしてアイちゃんが説明を始めたとき、目の前に人影がひとつ立ちふさがった。背は俺よりも随分高いみたいだけど、フード付きマントで体を覆っていて体格はわからないし、顔も半分フードで隠されている。何だよ、またテンプレ展開か?


 だが、そいつは何と「日本語」で俺たちに話しかけてきたんだ!


「貴様が『勇者』だな? オレ様は魔王軍死天王してんのうが一人、オンゴ・デ・アミーゴ様だ! 貴様の命、もらい受ける!!」


 そう叫んでマントを脱ぎ捨てると、その下から出てきたのは、全身からキノコが生えている、おぞましいキノコ人間だった!


「オンゴ・デ・アミーゴとはスペイン語で『キノコの友』という意味ですね」


 冷静にアイちゃんが解説してくれるが、俺はそれに感心してなんかいられなかった。だって、魔王軍死天王とか言ってるんだよ!


 そもそも魔王軍とか別に知らないけど、名前からして魔王に率いられて世界征服をもくろむ恐ろしい軍団だろうし、その中で死天王とか呼ばれるんだったら絶対にもの凄く強いはずだ!!


 そんなヤツに命を狙われるなんて……それも『勇者』とか言われたけど、俺そんなんじゃ全然ないし!


「ひ、人違いじゃないでしょうか? 俺は平凡な一般市民ですよ」


「貴様は異世界転生者だろう? いずれ『勇者』として魔王様の脅威となるはずだ! そうなる前、まだ弱いうちに命をいただく!!」


 うお、バレてるし! にしても魔王軍、合理的だな。いや、潜在的脅威がまだ弱いうちに叩くというのは当然だろうけど、ゲームとかじゃ普通はやらないだろ、某超有名PRG4を除いて……って、ここはゲームっぽいけど現実世界だから、当然そういう戦略を取ってくるか。


 ……とか冷静に考えてる場合じゃないだろ、俺!


「そう言われたって、おとなしくあげるわけないだろ!」


「殺してでも、うばいとる!」


「いや、殺したらその時点で命うばってるから!」


 思わずツッコんじゃったけど、もしかしてコイツ頭悪いのか?


 なんて益体やくたいもないことを考えていられたのは、俺には絶対安心できる守りがあったことを思い出したからだ。


「ご主人様に仇なす不届き者は、お掃除いたします!」


 頼もしい俺のメイド、アイちゃんが俺を守るようにオンゴ・デ・アミーゴの前に立ちはだかった!

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