第5話 かいしんのいちげき!
大男が何やらわめきちらしているのだが、まだ言葉がよくわからない俺には全然通じない。丸かじりとか聞こえたけど、別に本気で俺を取って食おうってワケじゃなさそうだし。
なんて思ってたら、アイちゃんがスッと俺の前に出てきた。表情がかなり厳しくなっている。
「ゴシュジンサマニ××■■、▼▼★★!」
「●▲、オマエガ×××?」
何やら西方語で言い返しているのだが、それを聞いた大男はニヤニヤ笑って、いかにも下品そうな笑みを浮かべて、からかうような調子で答える。意味はわからんけど、絶対に性的な軽口だろうな、これ。
「何て言ってるんだ?」
「ご主人様のお耳に入れるような内容ではございません」
アイちゃんは半ば憤ったような口調で答えると、大男に向かって人差し指を突きつけて日本語で宣言する。
「ご主人様に仇なす不届き者は、お掃除いたします!」
「ちょっと、殺しちゃダメだよ!」
「TPOは心得ております」
凄い剣幕だったので落ち着かせようと思って声をかけたんだけど、アイちゃんは怒ってはいても我を忘れてはいなかったようだ。
「†?」
アイちゃんが何やら挑発するように大男に短く言い放つと、大男の表情が一変する。剣呑な雰囲気をまとって、アイちゃんに向かって大きく拳を振り上げると大声で叫びながら殴りかかってきた!
「*!!」
それに対して、アイちゃんは最小限の動きで拳をかわすと……
「ハッ!」
目にもとまらぬ速さで足を振り上げ、大男の股間を直撃した!
「ゴガアッ!!」
変な声を上げて床に倒れ込み悶絶する大男。あれは痛い!
うん、はたから見てても「かいしんのいちげき!」って感じだった……大男にとっては「つうこんのいちげき!」だろうけど。
床の上で悶え苦しむ男を冷たく見下ろしながら、アイちゃんは静かに言った。
「メイド流活殺術『不
ちょ!? その発音は……かなり怖いんですけど。うん、アイちゃんは絶対に怒らせないようにしよう。ニヤニヤ笑いながら見てたほかの冒険者たちもドン引きしてたし。まあ、そのおかげで同じように声かけてくるヤツはいなかったけど。
そんなテンプレイベントを挟みながらも、カウンターでまず冒険者登録を済ませてから、討伐部位や素材を引き取ってもらう。っても、俺は言葉が話せないから、全部アイちゃん任せだったんだけどね。
冒険者登録は主人である俺の名義で行って、アイちゃんはあくまでも従者扱いなんだそうな。アイちゃんの方が俺よりよっぽど強いんだけど、同じようなことは貴族や騎士のボンボンがモンスター相手の実戦経験を積むために冒険者になるときには、よくあることらしい。
そういえば、聞かれるまでは、この世界での名前のことは考えてなかったんだよなあ。日本の名前そのままだと違和感があるそうなんで、アイちゃんの勧めにしたがって、この世界でも違和感ないような形で本名を省略して登録することにした。
登録が終わると、カウンターから離れて併設の酒場の方に移動し、まず席についてアイちゃんに食事を注文してもらってから、詳しい説明を聞く。例の身分証明オーブに冒険者登録の情報が付与されたというので言われた通りに念じてみると、頭の中に情報が浮かび上がってきた。ちなみに、情報は自分の母語で表示されるそうだ。
名前:ユウ
冒険者ランク:E
レベル:8
おお、こんな感じで情報を得られるのか。さすがファンタジー世界。冒険者ランクってのは、まあ定型だよな。モンスターの討伐や依頼達成の貢献度で上昇するってやつだ。そのうち定番のランク昇格試験とかもあるんだろうな……って、さっき登録したときに最低ランクはFだって聞いたんだけど?
あと、強さがゲームっぽいレベル制なのもファンタジー異世界あるあるだけど、8ってどゆこと? 俺、前世じゃ格闘技とかの経験は全然ないし、サバゲーとかみたいなこともやってないよ。普通は1からじゃね?
……と疑問に思ってアイちゃんに聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「いずれも、わたくしがゴブリンやオーガーを倒したことによるものです。オーガーを倒せる程度の従者を従えているので初心者ランクであるFではなくEからスタートしても大丈夫だと判断されました。また、モンスターを倒したときに得られる経験値はパーティー均等付与です。頭割りではなく全員に同じ経験値が与えられるので、強い者と組んでモンスター討伐を行うと、いわゆるパワーレベリングが可能になっております」
「そうなんだ……」
マジでゲーム系異世界だった。経験値レベルアップ制なんだ。アイちゃんの説明を聞いて納得はいったけど、随分ヌルゲーだな、これ。俺の場合、アイちゃんについていくだけでレベルアップしほうだいじゃん。
いや、ゲームとして考えたらヌルすぎて面白くないかもしれないけど、俺にとっては第二の人生なんだからハードモードだのヘルモードだのよりはよっぽどいいか。
「ところで、アイちゃんのレベルはいくつなの?」
「99です。これより上のレベルはございません」
おうふ、
ただ、オーブの情報を見て少し残念に思ったことあったので、つい口に出してしまった。
「にしても、レベルがあるならステータスとかも見れたらいいのに」
「見られますよ。オーブは他者に自分の善性や身分を証明するものですからステータスなどの秘匿情報は表示されませんが、自分自身で確認することは可能でございます。頭の中で『ステータス』と念じてください」
「へ?」
言われた通りに念じてみたら、おお! 本当に出てきた!!
名前:ユウ
冒険者ランク:E
レベル:8
筋力:88
器用:91
敏捷:88
知能:104
魔法:ヒールL1
ファイアL1
ウォーターL1
ウインドL1
ストーンL1
キュアL1
スリープL1
サイレンスL1
スキル:防御L1
強打L1
回避L1
連撃L1
職業:メイド「アイ」のご主人様
頭に浮かんだステータスを見て、俺は思わず叫んでいた。
「魔法!? 俺、魔法おぼえてるの?」
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