第2話 そんな装備で大丈夫か?
何はともあれ、メイドさん登場である。それも、俺に生涯仕えると言ってくれたのだ。神様ありがとう、俺にメイドさんをくれて! アイちゃんに会わせてくれて!!
とりあえず、お礼と挨拶はしないとね。
「えーと、ありがとう助かったよ、アイちゃん。こちらこそよろしくね」
「もったいないお言葉。ご主人様をお守りするのはファンタジックメイドとしての最大の役目ですので、どうぞお気遣いなく」
「あ、ああ、そうなんだ……」
ファンタジックメイドね。なるほど、普通のメイドさんは護衛なんかしないけど、異世界ファンタジーだったらバトルメイドさんは
それにしても、チート仲間という話だったけど、本当にムチャクチャ強いじゃん。
とはいえ、ゴブリンなんて雑魚の代名詞。ホブゴブリンとか少し強いのが出てきて「ゴブリンとは違うのだよ、ゴブリンとは!」とか叫んで襲いかかってきたら大丈夫なんだろうか? 主に装備的な面で。
「ところで、さっきは食器のナイフとか使ってたみたいだけど、武器とか鎧とかはないの?」
そう聞いてみたら、キッパリと言われた。
「わたくしはメイドですから、メイドの道具と制服で戦います」
そ、そうなんだ……でも、やっぱり心配だな。アイちゃんが傷つくところなんて見たくないし。
「でも、そんな装備で大丈夫かい? メイドさんの道具や制服って、戦う用じゃないでしょ?」
「ご安心を。わたくしはメイドであることに誇りを持っております。どんな強敵であろうと、この装備で倒してご覧に入れましょう」
「そ、そう……よろしく頼むね」
「はい!」
にっこり笑いながら答えるアイちゃん。嬉しそうだ。クール系かと思ってたけど、こういう表情もするんだ。ステキだなあ。
「それで、このあとはどうするかな? 俺はこの世界に転生したばっかりだから、どっちに行ったらいいのかもわからないんだけど」
「お任せください。あちらに大きめの街がありますので、まずはそちらに向かいましょう。路銀が必要ですから、このゴブリンから討伐部位を取って、使えそうな装備を拾っておきましょう。あら、貨幣も少しは持っていたようですね」
そう言いながら、テキパキとゴブリンの耳をナイフで切り落としていくアイちゃん。切った耳はどこかに消えていくし、ゴブリンの剣や槍、銀貨や銅貨の入った袋なども手にするだけで消えてしまう。
「さっきから気になってたんだけど、ナイフとかどこから出して、ゴブリンの耳や剣とか、どこに消えてるの?」
「異空間収納スキルです。わたくしの収納は家十軒分くらいの容量がありますし、入れている間は時間の経過もありません」
「す、凄いね」
うん、異世界チート系だと定番の能力だけど、実際目にすると凄いとしか言いようがない。
「あと、討伐部位って?」
「定番の冒険者ギルドがございますので、討伐部位を持っていくと換金できます。ゴブリンの場合は耳です」
ああ、うん、これも異世界の定番だね……ってか「定番」って言っちゃうんだ。
そんな話をしている間にアイちゃんの作業は終わり、周囲には耳の無いゴブリンの死体が転がるだけになっていた。
「このままでは血の臭いがほかの魔物を呼び寄せたり、死体がゴブリンゾンビになる可能性があるので、燃やしておきましょう。ファイアボール!」
そう言うとアイちゃんは手先から火炎弾を発射した。着弾した炎が一瞬のうちにゴブリンの死体すべてに燃え広がり、たちまち消し炭にしてしまう。
「今のは攻撃魔法?」
「はい。ファンタジックメイドのたしなみでございます」
たしなみなんだ……。
「それじゃあ、街に行こうか。案内してくれる?」
「かしこまりました、こちらです」
アイちゃんが指さす先の草原や灌木の林の間には、舗装はされてないけど道のようなものが伸びていた。
と、そこでアイちゃんが林の方を見やってわずかに目を細める。
「申し訳ございません。少し処理が遅かったようです」
次の瞬間、林の中から大柄な人影が姿を現した。
「な、何だアレ!?」
「オーガー、つまり人食い鬼です。人だけでなくゴブリンなども食べますが。どうやら血の臭いにつられて出てきたようですね」
オーガーかよ!? 黒い肌の巨体で、身長二メートル以上は確実にある、下手すると三メートルくらいありそうな巨体が、それも三体も!!
幸い、まだ遠いから今から走って逃げれば……ってぇ、オーガーどもがこっち向けて走り出したけど、何だあの速さ!? 一列縦列の隊形でもの凄いスピードで迫ってくるんですけど!
「オーガーの身長は二メートル五十センチはあります。巨体なので一歩の歩幅が大きく、走力は人間を上回ります」
アイちゃんがクールに解説してくれたけど、これじゃ走って逃げても追いつかれそうな……って、アイちゃん、どこ行くの!?
「アイちゃん!? ちょっと待って!」
オーガーども目がけて駆け出したアイちゃんを呼び止めようとしたのだけど……
「ご主人様に仇なす不届き者はお掃除いたします!」
「さすがに危ないよっ!! ナイフとか効かないでしょ!?」
いくらアイちゃんが
「大丈夫でございます。メイド道具はまだあります。ハッ!」
駆けながら気合いを入れてアイちゃんが異空間収納から取り出したのは……柄の長いモップ。
「そんな装備で大丈夫か!?」
思わず悲鳴のように叫んだ俺に、振り返って「大丈夫」というようににっこり笑ったアイちゃんは、次の瞬間には柄を先にしたモップをオーガーに向けて振りかざして叫んだ。
「メイディアン・ジャベリン!」
それ、英語として間違ってるよね? ……などというツッコミを入れる間もなかった。アイちゃんの手から投げ出されたモップは、猛スピードで飛ぶと、あっさりと先頭のオーガーの胸を貫いた!
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