俺のメイドは最強無敵!

結城藍人

第1話 せっかくだから、俺は赤の扉を選ぶぜ

 国境てんせいの長いトンネルを抜けると、そこはゴブリンだった。


 ……明らかに日本語として間違えてるんだけど、そこは許して欲しい。暗い洞窟を長時間歩いてきて、ようやっと抜けたと思ったら出た先に山盛りでゴブリンが待ち伏せしてたとか、普通パニクるでしょ。


 だいたい、俺はこの世界に異世界転生したばっかりなのよ。もっとも、転生っても、肉体年齢は二十歳だけどね。トリップじゃないのは、元の世界――平成日本――で死んでるから。トラック事故さ。


 ありきたり? そうでもないんだな。俺の場合、陸上競技場の周回走路トラックで長距離競走中に集団で転倒して一番下敷きになって内臓破裂で死んだんだから。


 ところが、これが世界管理者と名乗る存在――まあ要するに神様のことらしいんで、俺は神様って呼んでるけど、妙に腰が低いんだよね――のミスだったってことで、チート付きで異世界転生させてもらえることになった。それも、赤ちゃんからじゃなくて成人で転生させてくれるって。体は二十歳くらいに若返るそうだ。あるあるだよな。


 それでチート特典なんだけど、青、黄、赤の三つの扉の中から好きなものを選んで、それによってどんな特典か決まるんだってさ。まあ、せっかくだから俺は赤の扉を選んだんだけどね。


 そしたら、赤い扉のチート特典は『人』で、チートな仲間を得られるというものだった。神様の話だと、青い扉は『天』で本人の望むチートスキルを何でもひとつ、黄の扉は『地』で本人が望むチートな武器や道具を何でもひとつ選べるというチート特典だったんだそうな。


 それで、赤い扉から入ったら、そこは暗い洞窟だったわけだ。そこを通りながら、俺は自分が望む仲間をひとり選べるってことになったんだ。


 しばらく歩いて行くと、行き止まりになっていて、また青、黄、赤の扉があった。そこで、神様の声が聞こえてきた。


「仲間の種族をお選びください。青は『天』で天使や精霊やエルフ、黄は『地』でドワーフや獣人や竜人、赤は『人』であなたと同じ人間となります。どれを選んでも、仲間は決してあなたを裏切ることはありません。ただし、子供は同族でなければ作れません」


 むう! 美形であろうエルフや獣人のモフモフにも心惹かれるものはあるが、子供が作れないというのは大問題だ。ここも、せっかくだから赤い扉にしよう。


 またしばらく歩いて行くと、今回も青、黄、赤の扉があって、神様の声が聞こえてきた。


「仲間の性別をお選びください。青は『天』で男、黄は『地』で両性具有アンドロギュノス、赤は『人』で女となります。ちなみに、どれを選んでも愛を交わすことは可能です」


 これは赤一択だろ! 別にBL趣味とかを否定するつもりはないけど、俺は女の子としたいんだ!! ここもせっかくだから……以下略。


 で、同じように三択で色々な属性を選んでいったわけだが、なぜか俺の好みだと赤しか選べないような選択肢しかなかったんだよな。


 年下、小柄、スレンダー、黒目黒髪、顔は可愛い系ときて、保有スキルは万能型、性格は冷静沈着……うん、俺の好みにピッタリだ。


 そして、最後の選択の扉が現れる。


「仲間の職業をお選びください。青は『天』で姫騎士、黄は『地』で奴隷、赤は『人』でメイドとなります」


 キター! メイドさんキター!!


 姫騎士も奴隷も男のロマンであることは認める。だがしかし、駄菓子菓子、俺にとっての最高のロマンは、やはりメイドさんなのだ! 常設型メイド喫茶ができて以来十六年間アキバに通い詰め、さまざまなメイド喫茶を渡り歩いて数多くのメイドさんたちに「お仕え」してもらってきた身として、メイドさんが仲間になるというのはマストな選択なのだ! せっかくだから、俺は赤の扉を選ぶぜ!!


 そうして喜び勇んで開いた扉の先には光が見えた。出口だ。俺はまだ見ぬメイドさんへの期待に胸をふくらませて、光あふれる洞窟の出口目指して駆けだしたんだ。


 ……で、冒頭のシーンに至る、というわけなんだな。


 おーい、神様ぁ、俺のメイドさんはどこ行ったんだよ? まさか、このゴブリンが俺のメイドさんじゃないだろうな!?


 なんて言ってる場合じゃないよ! 俺、一応この世界の一般的な服(と称して神様がくれたもの)は身にまとってるけど、武器もなければ鎧も着てないんだぜ。粗末だけど槍だの剣だの持って襲ってくるゴブリンが何十匹もいるって、俺にどうしろと……うわあああああああっ!!


「ご主人様にあだなす不届き者はお掃除いたします!」


 ザシュ!


 情けない悲鳴を上げて逃げようとした俺の目の前で、その言葉と共に一匹のゴブリンが真っ二つになった。


「ご主人様、大丈夫でございますか?」


 冷静沈着クールに尋ねてくる可愛らしい声。白いフリル付きメイドカチューシャを載せた艶やかなストレートの黒髪は眉の上と肩のあたりで真っ直ぐに切りそろえられ、俺の肩くらいまでしかない小柄な姿に白いフリルの付いた黒いメイド服――ただし、ロングスカートではなくメイド喫茶系のミニスカートに膝上丈の白いニーソックスだ――をまとった少女が、俺をかばうように前に立っていた。


 その右手には銀のナイフ――短剣じゃなくて食器カトラリーだ――が光っている。左手には、大きなシルバーのお盆トレイ


 呆然とする俺の目の前で、メイド服の少女はゴブリンどもに対して毅然と言い放つ。


「メイドが冥土に送ってさし上げましょう!」


 そこから先は一方的だった。ナイフでゴブリンを真っ二つに切り裂き、ゴブリンの攻撃は華麗にかわすか、お盆トレイで完璧に防ぎきる。最初は俺の前で襲い来るゴブリンを防いでいたメイド少女だったが、数が減ってきたと見るやゴブリンの群の中に飛び込むと、銀の光が舞うたびにゴブリンが二~三体ずつ倒れ伏す。


 結局、俺にもメイド少女にも傷ひとつつけることさえできずにゴブリンどもは全滅した。


 どこからともなく取り出した布巾できれいにナイフとお盆トレイをぬぐうメイド少女。と、拭き終わった瞬間に、そのナイフとお盆トレイも布巾ともども消えてしまう。


 それを呆然と見ていた俺に向き直ったメイド少女は、優雅に一礼しながら話しかけてきた。


「ご挨拶が遅れまして申し訳ございませんでした。わたくしは、これから生涯ご主人様にお仕えいたしますメイドのアイと申します。ご主人様の日常生活のお世話から身辺の護衛に至るまで、メイドとして誠心誠意働かせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」

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