第2話 曇り。

病室の窓から見える月がとても綺麗で、ずっと眺めていた。

「陸……か」

ぼそっとその名前を呟くと、急に視線を感じた。膝の上に目をやると真っ黒い物体がちょこんと座っていた。

「?!……君は……?」

得体の知れない物体だがキラキラと目を輝かせてこちらを見てきているのがなぜか愛嬌がある。

「ボク、トラウマ、キミ、ソバニイル、ズット、イッショ」

片言の日本語でそういうとにこりと笑いかけてきてくれる。

「???トラウマくん?まぁいいや、可愛いね」

不思議と、恐怖は感じなくて少なくとも、独りで寂しかった病室の温度が上がったような気がした。

「もう、寝よう」

翌日、精密検査をして異常がなかった。

その夜ははトラウマくんは現れなかった。

そして僕は退院して一人暮らしをしていた部屋に帰ってきた。

「んー!!!やっと帰ってこれた!!!」

部屋に入ると脱ぎ捨てられた服の山が目に入る。

「あー……片付けよ」

とりあえず片付けを始めようと服を拾おうとすると、手の横にトラウマくんがいた。

「うぉ?!びっくりしたー!!!なんだよ!びっくりさせんなって!」

手を差し出すとぴょんと飛び乗ってきたのでそのまんま肩に置いた。

「にしてもお前変な奴だな!いつの間に僕の家に来たのさ!」

そんなことを言いながら部屋の片付けをしていたのだが、あからさまに誰かもう一人、住んでいた形跡があった。

「彼女……?いや、でも男物じゃね?これ」

違和感は不快感に変わっていった。

歯ブラシも二本、食器も基本二個セット、タンスは一つの中に二人分、荷物も二人分、なのにベッドだけは一つ。ソファも敷き布団もないあたり、二人で寝ていたのだろう。

「誰だよ、気持ちわりぃ。……待てよ、今夜帰って来るのか?こいつも」

片付けがもう直ぐ終わるという頃、僕は僕のじゃない学生証を見つけた。

「ん……誰なんだ?」

夜を共にする同居人のものであろう、そう思い名前を見ると、衝撃が走った。

「渋谷……陸?」

陸。陸といえば、事故して死んだ奴。

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