格納区 隠し空間 1
「で。結局ジェネラルってなんなんだよ」
後ろのダグがボソリと呟く。
それに、ケイは応えなかった。応えられない、ということなのだろう。
押し付けられた仕事の続き、不満があっても吐き出す相手は、おらず、ただ悶々と変わらず進むだけ、そんな感じで、また俺たちは並んで歩いていた。
……あの骨面、あのドサクサに紛れてバニングさんは小さな魔法の灯りを貼り付けておいたらしい。それを追跡すれば骨面も追跡できる。そうなれば、やることは簡単ではあった。
ただ気分は、重かった。
「なぁ」
背後からのダグの声、応えるのも億劫だ。
「なんで、斬らなかった?」
……想定外の問いかけに、俺は振り返るしかなかった。
見返すダグは、野球の話をしてる時みたいに真面目な顔つきだった。
この面倒な時に、新しい問題は大っ嫌いだ。
「俺は、神に仕える身だ」
ダグがボソリと言う。
「だから人を斬らなかったことは、評価している。だが、それが何故なのかによっては、これからの作戦にも響く。だから教えろ。何故斬らなかった?」
ボソリと、だが逃げられそうにない圧力、他も黙ってるところを見れば、聞きたいらしい。
なら、まぁ、話すしかないか。
「別に、大した理由じゃない」
口にして、続かない。感覚としては、しっかりしたものがあるのだが、説明するのは、苦手だ。
「なんて言うか、俺は兵士の前に剣士になりたいんだよ」
……まぁ、わかんないって顔するよな。
「最初から話すが、先ず、俺らヘケト族は文化としては槍を使ってて、刀を使い始めたのは最近、俺らの世代からだ」
カチャリ、と応えるように俺の兜割りが鳴った。
「……この前の戦争で、俺らも兵士として召集され、そこで兵士として訓練を受けた。そこでより効率的に、体系的に武術を習得するために編み出されたのが、俺が使うヘケト流剣術だ。他の流派からのいいとこ取りでまだまだ荒削りだが……」
違う。言いたいことはそこじゃない。
「……それで、だから俺は兵士の訓練と剣士の修練を平行して受けてた。そのどちらも根本は同じ、相手を倒す術を身につけること。だけど、やっぱりなんか違うんだよ」
口下手だ、とは自覚している。だがダグは、逃してくれそうになかった。
「兵士は、どんな相手でも斬れるのが一流だ。一方で剣士は斬りたいものだけを斬る。斬りたくないものは斬らない、というか斬らないですませられるのが一流だ。俺は、両方の一流の下で学んだから、どっちを目指すか決めきれてないんだよ」
なーんで、親兄弟にも話してないことをなんでンなやつに話してんだろ、俺は。
「まぁなんだ。答えとしては最初は兵士として斬るつもりだったがそれができず、できるようになったら今度は剣士として、斬らないで納められなかった。まぁ、どっちにしても俺は未熟だったんだよ」
なんとかそれらしいことを吐き出せた。
別段隠すような事柄ではないが、進んで話すようなことでもない。
それで、ダグは納得したようだった。
「やっぱお前はそう言うやつだよな。よかった。お前でこのバットを汚さないで済んだよ」
…………何?
「いや待て、お前、今の答えによっちゃ、そのバットとやらをどうするつもりだったんだ?」
「いや、いいんだ。済んだことだ」
「いやいや、大問題だ。お前、人のこと信用云々で言っといて、一番信用が大事なの回復役じゃないか」
「何を言ってる。バントサイン無視でもホームラン打てたなら咎めないのがうちのチームだ」
「野球用語に逃げるなちゃんと言え」
「うっさいあんたたち!」
……先頭のバニングさんに怒鳴られる。
立ち止まり振り返り俺らを睨む目つきは今までにないほど、怖い。
「いやんなこと言ってもよ。お前も聞いてたろ?」
「何が、ですか?」
ダグの必死な言葉に、ケイが間抜けな返事を返す。
「聞いてなかったのかよ」
「すみません。考えことしてまして」
「いいか? この刀使いはな」
「説明すんなよ」
「うるさいって言ってんでしょうが! あんたらもう着いたのよ!」
「「「着いた?」」」
バニングさんに三人はもって聞き返すと、その金属の杖で壁を指し示した。
……壁は、壁だった。
位置としては外壁にあたるのだろうか、少なくとも扉や、繋ぎ目なんかは見えなかった。
「……なぁ」
「ウィル・オ・ウィプスが中で反応してたのよ。この向こうに間違いなく空間がある。隠し扉よ」
言いながらバニングさんは、俺の目の前でガンガン壁を蹴る。
「おいおい、敵にバレるぞ」
「バラしてんのよ野球バカ。これで出てきたところをそこのサムライに退治してもらってオールクリア、さっさと終わらせて帰るの」
「おい本当に聞いてなかったのかよ」
「あんたが斬れないって話? だったら斬らないで刃の付いてない方でぶん殴ればいいだけじゃない」
「いや、でも鉄の塊だから骨、砕けるぞ」
「だから何? どうせ手足の一本でしょ? その程度、それこそそっちの野球バカに治させりゃいいだけじゃないの」
バニングさん、なんか過激になってる。
「別に、歳下には興味ないぞ」
「おいやめろ。それじゃあ俺には興味があったみたいな言い方じゃないか」
…………なんでそこでまっすぐ俺を見返してくるんだこのダグはぁ。
「ぁ」
バニングさんの小さな声、見れば消えていた。
……抜けたのは、壁じゃなくて、床だった。
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