ゲート前 3
大蛇が崩れて動かなくなって、ようやく烏合の衆は働き出した。
必要以上に亡骸を砕き、まだ入れてもない門の向こうを警戒し、崩れた瓦礫よりドラム缶を救い出す。
……ドラム缶のダメージは凹んでる以上にはわかりようがないが、それでもまだ生きてるらしいとはわかる。
他は戦ってないんだから怪我のしようがない。
まぁ、初戦としては問題にならない程度の損害だろう。
ただ巨大な敵とは言え、背を向けて逃げ出すのは問題だ。
こいつらは、中に入っても使えないだろう。
先を思いやられながら得物を確認する。
愛刀、と呼ぶには恥ずかしい安物の刀は、小柄な俺と比べても若干短めで、その分肉厚だ。握りにサメの革を巻きつけ滑りにくくし、鍔には蓮の葉を模っている。
兜割り、と区分されるこの刀は、刀としての最低限の切れ味と過剰な重量による叩き割り力、何よりも頑丈さに赴きを置いてある。
名刀には程遠いなまくら刀、だがこいつでなければ、ヘケト流の技に耐えられないのだ。
戦場より共に帰れた刀に、刃こぼれはない。石を砕いでこの程度とは、その程度には未熟を卒業できたと言うことなんだろう。
少し満足して静かに刀を鞘に戻す。
と、視線を感じる。そちらを伺うと、少し離れた位置から、バニングさんがまたもこちらを睨んでいた。
だが今度の睨みには、前と違って心当たりがある。先ほどの一戦だ。
普通、あぁいうデカブツは前衛が白兵戦を仕掛けて動きを止め、その間に後方からの魔法で潰すのがセオリーだ。それをハナから無視しての斬撃、やれたとは言え、連携を潰してたのは事実だ。下手すれば魔法に巻き込まれて仲間殺しの濡れ衣を着せるところだった。
結果だけでは許されない独りよがり、今後を考えたら謝まらないまでも、一言断らねばなるまい。
「やっぱりお前は外野だ」
タイミング悪くダグが割り込んでくる。
「あの足、跳躍、ホームラン級の当たりでも届く。逸材だ。プロ級だ。あとは肩だが、この細腕じゃあ、三塁も危ないか?」
勝手にベタベタ触ってくるダグを肘で追いやってると、どこに行ってたのか、ケイが戻ってくるところだった。上下に揺れず、ドラム缶の下に隙間なく移動するその姿は、やはり滑るようにとしか形容できなかった。
「若干の変更はありますが、このまま中に入ります」
開口一番、言い切る。
労いの言葉がないのはまだしも、もっと言うべき問題があるはずだ。
「セキュリティーのゴーレム起動させるとか、あんたら本当に入り方わかってんの?」
言いたいことを小難しくしてバニングさんが言ってくれた。
「開閉手順にミスはありませんでした」
負けじとケイが言い返す。
「なのに襲われたのは、あの蛇ゴーレム、正式な名前はゴーレム・アナコンダですが、識別コードを弄られてる可能性があります」
「なんだ経年劣化で暴走したんじゃねぇのか」
「違います」
ダグの軽口ケイは冷たく切り捨てる。
「正確には専門機関に診てもらわないとなんとも言えませんが、そもそもゴーレムの強みは長期保存に適してることです。ましてや今まで開けてもないのに暴走などありえません」
「お前、何言ってるか、わかってるのか?」
俺も思わず口を挟んでしまう。だが言わないと、これは大問題だ。
「……外界から隔離されたゴーレムに手を加えられるのは内部の者、護衛部隊ならばそれが可能な者もいたでしょう。つまり」
「つまり、中の人間は敵意を持ってる」
ケイ言葉を続けたバニングさんの一言に、四人は黙るしかなかった。
これで危険性は大いに跳ね上がった。
「……確認だが、最優先が救出ならば、襲われた時の対処はどうなるんだ?」
ダグの珍しく真面目な問いに……ケイはなかなか答えない。頷いてるとか間抜けな理由ではなくて、それだけ考えてるのだろう。
…………体感としてはかなり長く、実際はそんなでもない時間をかけてから、ケイは答えた。
「……優先順位に変更はありません。ただ自害の恐れがあると判断された場合はその身柄を拘束することとなります。そしてその判断はその場にいた人の判断に委ねられます」
スラスラと出てきた答えは、今しがた考えたものじゃないだろう。
つまりは、上の決定は覆せなかった、その上で苦し紛れの考えを、ということだ。
ここはケイを責めてもしょうがないとはわかってる。中間管理職の苦悩というやつだ。それに本人も、この先ついてくる。人ごとじゃないだろう。
それでも俺は、派手に、でかく、わざとらしく、ため息吐き出さずにはいられなかった。
それを聞いてか聞かないでか、ケイが半回転して門へと進む。もう入るらしい。
その背と俺とを見比べるダグとバニングさん、言われるまでもなく、こういう時に先陣を切るのが俺の役目だ。
問題山済みだが、俺は俺の役目をこなすために、門へと向かった。
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