第21話 関羽雲長 vs 孫乾公々
孫乾が立ち上がり入念に柔軟運動を始めると、張飛が嬉しさを隠せない笑顔で近づいた。
「くっくっく、あんた、孫乾さんだっけか。チキンな非戦闘員じゃなかったわけね」
張飛の毛が戦闘欲で天を指し始める。
これを制して、危機回避能力抜群の劉備が孫乾の相手に関羽指名した。
「何でだよ兄者!」
「大事なパトロンを殺されちゃたまんねーからさ。殺す気満々だろ、妹よ」
ここでぐっと押し黙るのが正直過ぎる張飛という人柄だった。
「関羽さん気を付けて下さい! 孫乾さんはチキンな非戦闘員なんかじゃないですよー」
簡擁が断罪するように孫乾を指差した
「焼鳥屋さんとは表の顔で、裏では仕事人稼業してます。串刺しの公々とはこの人のことです!」
孫乾の顔がぴしりと歪んだ。
今まで黙って儲け話になるかどうか聞き耳を立てていた客である大商人達もざわつき始めた。
その中の一人が出口に向かって疾走した瞬間、孫乾の口から串が飛んで男の服を壁に縫い付けた。
ギャっと悲鳴を上げる男に続けて、5本の串が飛来し、更に強固に男を壁に縫い付ける。
「どこ行きさらすんや! 街大老供に言うても無駄やで。ウチらはカサイ公認の仕事人や。しゃーから悪どい商人しか逝かさんやろ。それともあれか、おんどれもあこぎな商売しとるんか? んんん?」
「街の大老の公認だと・・・」
「こいつら・・昼行灯のふりしてやがったのか・・・」
「噂には聞いていたが、本当に暗部の組織があったわけかよ。こえーよ!」
カサイの街の商人達は口々に畏怖のため息を漏らしたが、流石にギルガメスの酒場に出入りしてる商人達だけあって、酷く取り乱す者はいなかった。
店内が上辺だけとはいえ落ち着いたのを確認すると、孫乾は頭の串を抜いて口に入れ上下させた。
「黙ってて悪かったな商人さんら。正体ばれてもからには街を出て行くけー、堪忍や。餞別代わりにウチらを騒がず静かに行かせてーな。その方がお互いの為やで」
そう言うと袖下に忍ばせていたであろう串を、袖の一振りで出口目掛けて三連射した。
特別製の串らしく、煙が尾を引いて酒場の外に飛び出した。
たちまち酒場周辺は煙に覆われ、新たな客が入ってくるのを遮断した。
静まり返った店内で、念の為と、孫乾の指示を受けた蘇双と張世平が出入り口の封鎖に回る。
「その輪ッカの嬢ちゃんが、まさか、マジモンでマギに侵入しとったとわびっくりやわ。こりゃあながち関張が偽者とは限らんってわけか」
孫乾は一人大笑して関羽に向き直った。
「お待たせやにーさん。武器無いみたいやけど、ええんか」
「武器などなくとも、退かぬが漢の道である」
「おっ、本当の関羽みたいな台詞やな。ほないくでー」
関羽、腰を落として身構える。その頭からは僅かに角が盛り上がる。
相手が強敵であり、自身は丸腰なのを危惧した関羽は鬼属性を発動させていた。
それに気づいたかどうか、孫乾はハンドポケットであまり豊かでない胸を反らせて口の串を上下させた。
「ジャララーン! ジャっ!ジャっ!ジャッ! ジャ、ジャララーン!」
孫乾が奇妙な鼻歌を歌いながら、口の串を関羽の顔面目掛けて飛ばした。
関羽が服の袖で顔を庇ったそのわずかな瞬間で、孫乾の姿が消えた。
角の力で殺気を関知し関羽が上を見ると、袖からか頭から抜いたか長い串を関羽目掛けて、串刺しにせんと落下してくる孫乾の姿があった。
脊髄反射で体を捻り、避けると同時に角から雷を迸りしながら、錐揉みアッパーを繰り出した。
流石に技名は叫ぶ余裕はなかったが、腹にまともに喰らった孫乾は、帯電しながら天井まで吹き飛び、一瞬、ビリっと骨格を見せて墜落した。
「うわぁぁぁ周倉さんの二の舞になっちャいましたぁぁぁ!」
漢ポーズを決めていた関羽だったが、簡擁の悲鳴にへなへなと椅子に腰を預けた。
「やり過ぎだバカ! お前は張飛か!」
劉備が兄弟二人を同時に傷付けながら、孫乾の肩を二度三度揺らし活を入れた。
「いやー大丈夫や。常にインナーに防矢チョッキ着てるんが吉と出たわ。何故かビリっときたけどなー」
孫乾は痛そうに腹をさすりながら、それでも嬉しそうに笑った。
「あはははは。えらい強いやないか、こいつら本物やん」
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