第20話 簡擁の頭上には天使の輪が装備されていますが、いつもは機能停止を示す赤色です。

 蘇双と張世平の顔が赤いのに対し、劉備は涼しい顔と両腕を崩さない。


 と、突然勝負に動きが出た。


 劉備の両手が一気に下がり、テーブルに組み伏せられる寸前で止まり、張飛が柄にもなく可愛い悲鳴を上げ、関羽が危うく張世平の腕を手刀で落としそうになった。


 焼き鳥屋にギロリと睨まれた関羽は何かの儀式のように、空を手刀で三度切って、ごっつあんですと呟いた。



「簡擁ォォォ!」


 劉備が呻きながら盛り返していく。


「天使の輪っかが真っ青じゃないか! いつもの真っ赤な戦闘色はどうしたよ! びっくりさせんじゃねー!」


「勝負に集中して下さい。勝ったら教えちゃいます」


 言った簡擁の頭上には確かに輪が青く輝きながら機械的に回っている。


 蘇双と張世平は押し返された事で勝ち目無しと気力を削がれたか、ジワジワと劉備が押し始めた。


 力自慢な男なら、相手の拳をテーブルに叩き付け派手に勝利を決めそうなものだが、劉備はゆっくり優しく相手の腕をテーブルに付けた。



「ふー強いなお二人さん。もうちょいで負けるとこだったぜ、やべーやべー」


「謙遜なさるな。二人を同時に相手してるというに、、手を抜い好勝負に見せかけてたのは伝わりましたし」


 蘇双が潔く完敗を認める発言をした。


「腕の相撲なのに、手を抜いた挙句に途中で気も抜いての大サービスでした! お二人は間マだけしか抜けてないのに残念でしたー。やはり命のやりとりじゃないと本気が出ませんというわけですねー」


 簡擁が青い光ををぐるぐる回しながら、何故だか挑発するような口調で言う。


 「やめよ簡擁。勝負は時の運なり。次にやったらどうなるか分からんさ」


 蘇双と張世平は、劉備の気遣いに死にたそうな顔をした。


「まあいいです、劉備さんが勝ちましたし、仕方ないですね。青の謎を簡擁先生が色んな意味で優しく教えましょうか」


 どこから用意したのか小道具の眼鏡を掛ける簡擁を完全スルーで劉備三兄弟は焼き鳥屋を取り囲んだ。



「何やあのお嬢が言うとんで。ほっといてええんか?」



「気になさらずに。あれは壊れた玩具でござるゆえ」



「それより援助の件、間違いないだろうな、ねーちゃん」



「ガッツくな張飛。この人なら大丈夫だ。つーか、そろそろ御尊名を伺いたい」



 若者がまだ言うとらんかったかと名乗りを上げる前に簡擁が「孫乾」だと告げ、皆の注目を取り返した。



「おんどれ何で知っとるんや! あぁ?」


 孫乾の目が危ない光を灯した。



「この街カサイのホストコンピューターマギにアクセスして街中の情報を送信してもらってますからー」



 簡擁は頭上の輪を示した


「だから青いのです。決して未熟だからやあらへんでー」


 告白した内容なのか、物真似の出来なのか、どっちが悪いか簡擁には判別できなかっが、受けてないのだけは認識、方言物真似を十戒の七番目に上書きした。



「アホらしい。カサイのマギに侵入できるわけあらへんやろ。嘘つくんならもっと面白いのにせんかいな」


 軽い口調で、軽口っぽく話す孫乾の表情はだが、警戒してか強張りを隠しきれていない。

 口元で上下してる串がいつのまにか、簡擁の方向にだけ向いている。


「全く同意に候」


 商売の心得がある関羽が、ここが正念場とばかりに孫乾の肩をリアルに持った。簡擁に向いている姿勢を力で劉備にと向かわせる。


 否応なく孫乾は劉備に目を戻して、現在の装備、持ち金、兵糧や行き先まで細かく質問した。


「何や全然計画性無いやんか。こんなんでおんどれの大志は果たせるんかいな」


「一緒に来て頂き、我々の戦っぷりを眼前で見れば分かって頂けるかと」


「アホ言うな。チキンなウチが戦場になんか怖ーて行けるかいな。まま、チキンなウチは焼鳥屋してるのが正にお似合いやねん」


 蘇双と張世平が愛情のこもった笑い声を上げた。

 余程、この女主人が好きらしいというのが伝わってくる。


「先程、関羽さん張飛さんを撃退殲滅した人がチキンなら、私なんか孔雀になっちゃいますよー」


「は? いや言ってる意味分からんぞ簡擁。何だその撃退殲滅て」



 交渉事はなるべく劉備や関羽に任せて沈黙していた張飛が簡擁の罠に飛び込んだ。

 が、簡擁より先に孫乾が口を開いた。口を開いたというより、簡擁の口を閉ざす為に発言したとも言える。


「ほんま、この娘はわけわかめや。おんどれとこには、偽関張以外に軍師的なんおらんのか」


「偽者ではないぞ」


 劉備がやや声を荒げた。


「私の軍には本物しかいない」


「そない言うても本の描写と全然ちゃうやないか」


「その本は読んでないが、この劉備、嘘などつかねーよ」


「まあ、おんどれはそうやろうけどな」


 孫乾は関張に目をやった。


「ほないっちょウチとちゃんとした勝負しよか。ウチに勝てたら本物や認めて援助金も惜しまんで」


 孫乾の言に関張は意気込んでのった。

 さっきの腕相撲の意味は? と問う劉備の言葉はもう関張には届かない。

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