第19話 劉備、勝負に出る

 劉備は若者の対面に座ると足をテーブルにドサリと投げ出した


 若者がまだ手を付けていないマッシュドポテトが劉備の靴に蹂躙される


「私とこの若いのが世話になったみたいだな」


「いつぞやのムシロ売りやないか。今では御山の大将か?」


「・・・・・・」


「覚えとらんのか! あんだけ世話したったのに!」



 言われて劉備は足を降ろして、じっと若者の顔を見た


「おお! 盧植先生の下で勉学していた時に、隣にいた御学友か! あの時は、あなたが落とした消しゴムを私が必死に拾うのが面白かったみたいで、何度も消しゴムを落としなさったっけ!」


「うちにンナ甘酸っぱい記憶あるかい!」


「じゃあ人違いでしょ。初対面で初めまして」


「アホ抜かせ! おんどれみたいに恥ずかしい字を顔面刺青してるアホを間違うわけないやろ!」



 劉備は感慨深い顔をして頬の愛の字を撫でた



「相変わらずいいツッコミですね。実に気持ちがいい」


「何や、思い出したんか」


「この街に入った時から、ムシロを大人買いしてくれた人だと思ってました」



 若者はクソガキがうちを試したんかいなと、やや不満気な表情で劉備に問うた。



「忘れてるようなら我が大志も忘れてるだろうから」


 受けて劉備はそうだと真顔で応えた。



「はーん、あの夢物語を実行させる時がきた言うわけかいな」


「夢じゃないです。大志です」


「まあどっちでもいいわ。あの時も言うたやろ。力無い者には無理やーて」


「信頼に足る二将に兵卒五百を得ました。足らないのは軍資金のみです」


 劉備、媚びもせず無心した。



「二将て、あそこに転がってるペテン師かいな。あんなんやったらウチの蘇双と張世平のが純粋なパワーは上やろ」


「あいつらはペテン師じゃない。私の兄弟だ。パワーも圧倒的に兄弟のが上だ」


「くはは。じゃあ、いっちょ勝負するか。この二人に腕相撲で勝てたらナンボでも援助したるわ。おんどれの夢を一括購入したろ!」



 それを聞いた関羽と張飛がむくりと身を起こした。


「汚名返上」

「名誉挽回」


 素人衆でも見える凶悪なオーラを発散しながら、歩く二人の前を、猛獣使いのように行く簡擁。


 関張が各々、決戦のテーブルを選び相手を待ち構える。


 劉備が二人の真ん中のテーブルに座り。用心棒二人を手招きした。


「蘇双と張世平っつったか。私が相手してやるからまとめてかかってくるがいい」


 言うや劉備は両肘をテーブルに付けた。


「兄上!」

「兄者!」


「私の腕相撲不敗神話でケリ付ける。腕相撲でケリ付けるってのも洒落てるだろ」


「兄者! 俺達に任せてくれよ!」


「腕相撲でケリ付けるってのもだな」


「儂と張飛なら間違いないですぞ!」


「いやだからだな。腕なのにケリってとこをだな」


「そんなうまない言葉遊び言う為にしゃしゃり出たんかい!」


 関張じゃなく若者がツッコミ入れた

 劉備、しごく満足な顔で用心棒二人と向き合った。



「いいんですか店長」


 蘇双と呼ばれた用心棒が言った。


 張世平と呼ばれた用心棒は舐めた若造に痛い目見せてやるなオーラを隠そうともせず劉備の左手をとった


「向こうがええ言うんや。構へんやってまえ」


 蘇双もニヤリと笑って劉備の右手をとった


「じゃあいきますよー。レディゴオ!」


 簡擁の合図に、三人の上腕筋が膨れ上がったが、どちらもピクリとも動かず拮抗しているように見えた。

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