第17話 ギルガメッシュの酒場
カサイの街並みが遠望できる距離迄近付くと、劉備軍の倍はあるであろう軍団が行く手を阻んだ。
「我々はカサイ自治軍である。如何なる目的でカサイに進軍しているか!」
自治軍より五騎ばかりが先行し、劉備軍に問いかけた。
劉備が買い物だと告げると、兵はこの場にて待機させ、街に入る代表者も武器を預けるよう求めてきた。
兵待機はともかく、武器受け渡しには張飛が強く反発した。
「この矛は伝説級の代物だぜ。どこの馬の骨か分からない奴等に渡せるかよ!」
「だったらお前は待機してるんだな」
自治軍も譲る気は無いとばかりに簡擁と張飛が乗っている馬の鼻面に槍先を向けた。
「えー、じゃあアレですか女の武器も駄目なんですか胸とか腰とか涙とか、とびっきりの笑顔とか!」
簡擁は自治軍にどや顔の笑みを見せた。
が、治安軍は鼻で笑った。
「嬢ちゃんの武器は威力無さそうだから構わないよ」
「張飛さん、女は武器持ち込みOKらしいですよ~」
「後ろの大女は駄目だ。見た目からして威力有りすぎるだろ」
張飛が威嚇するか喜ぶかの選択に窮していると、劉備が蛇矛は売り物だ武器じゃないと口を挟んだ。
ならばと治安軍は蛇矛の先に布を巻き、複雑な結び目を施して張飛に返した。
「この布が破れたり結び目が変わっていれば時価で罰金だ」
これに妥協し、劉備達四兄弟は兵士を残してカサイに入った。
カサイには小さな町ぐらいなら買えるだけの財力を有する商人が多数集まる酒場がある。
劉備はそこでブレーンになりそうで且つ、それなり以上の人物を選定すると説明した。
ハードルが高いのではという簡擁の懸念には、一日で見つかるとは思ってない。何日もかけて探すと答え、その酒場の名はギルガメッシュであると皆に告げた。
カサイに入って最初に訪れたのが、巨万の富と欲望と情報が交錯するギルガメッシュの酒場となった。
荒くれ者達が集う酒場とは違う迫力と活気で溢れかえり、それぞれの商人達の抱える用心棒が暴力的な空気をブレンドしている。
その様な場なので、出入りする者は自ずと限られてしまい、あたかもメンバー制サロンと化していた。
そんな新規の客には高い敷居とハードルをクリアーして、劉備一行が来店した。
この新参者達は金になるのか、それともたかりの類いか、正に値踏みするような視線を浴びる中、カウンターの席に着き、高らかにミルクを注文する劉備へ嘲笑と罵詈雑言が飛びまくった。
関羽と張飛が危険なオーラを纏ったのを歴戦のマスターが敏感に察し、黙ってミルクを四人分並べた。
「オヤジ、何故四人分なんだ」
「おっと一人分でしたか。髭の旦那にはやはり酒でしたな」
「違う。五人分だ」
関羽から亜種の危険性を察した歴戦のマスターは、直ぐにミルク一人前を追加した。
「ぷは! 特濃! 二日酔いの後のミルクは最高だな!」
劉備がそう言って呵々と笑うと客達もドッと笑った。
それに反応して劉備が更に笑うと客達も威嚇するように大笑いを始めた。
「酒を飲む金も無いのか! これやるからとっととママにおっぱい貰いに帰れ!」
客の一人が何枚かの金貨を劉備目掛けて結構な勢いで投擲した。
不動の劉備に代わり張飛と関羽が盾となってそれを防いだ。
「高くついたぞ酔っ払いが。よーし兄弟、素手で大丈夫か」
「ふん、ハンデにすらならんな」
「暴れるな! 商談に来たのだぞ!」
劉備の一喝に関張の動きがピタリと止まった。
「聞いてくれ大商人達!
我々は物乞いではなく一軍の将だ!
一軍の将として取引きを申し入れたい!」
劉備が高らかに歌い上げるような美声を店中に響かせた。
「いや物乞いだろ。ツインテール娘がコイン拾いまくってじゃないか。
ってヤメロ! 三人がかりで幼女を蹴るな踏むな!
いくらだ!
いくらで許してくれるだ!
分かった金は払うからやめてやってくれ!」
何人かの心ある商人が悲鳴を上げた。
その悲鳴に我に返った劉備が関羽と張飛をなだめて、簡擁を後ろの席に座らせた。
「オホン
聞いてくれ大商人達!
我々は物乞いではなく一軍の将だ!
一軍の将として取引きを申し入れたい!」
「やり直しやかった! リセットしやがったよ大物だこいつ大物臭がするよ!」
まだ若い商人が面白そうに言った。
「黙れ雲海。商売の邪魔だ。どんな取引き希望か言ってみろ若僧」
「喧嘩を売りにきたとか顰蹙を買いにきたとかつまんねえ返事だったらーータダじゃ済まないぜ、俺達商人だけにな」
ギルガメッシュの酒場において、それなりの古株であろう、威圧感がまだまだある初老の商人が問うた。
これを問われた張飛の体がぶるぶると震えた。
「黙れよ商人黙れっつてんだろ。命のバーゲンセール中かよお前ら、あ? 後でまとめて買ってやるから」
「お前が黙れ張飛! 私達は武具防具を求めてやってきた。街の外に五百人を待たしている。そいつらの装備を買いにきた。時間が無いんだ。今すぐ五百人分用意できる者と話がしたい!」
劉備が条件を提示すると、商人達が脳内ではじく電卓の音が聞こえそうなぐらいに、酒場に張り詰めた静寂が落ちた。
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