第15話 賊を全滅させた程度では、張飛は止まってくれない


 劉備が砦に迫ると無数の賊が飛び出してきた。


 っち! この私を狙っていたのか!


 一か八かの大将狙いで逆転を図ろうってか。それならそれでいい。

 やはり最後は大将の見せ場だなと劉備が必殺の構えで待ち受けるも、賊は悲鳴を上げながら脇を通りすぎて行く。


 その最後尾から返り血で全身赤い奴と化した張飛がいつもの三倍の速さで追い打ちというより虐殺を行っている。


 やれやれ大将の出番無しかと気を抜いた劉備の耳に、新たな鬨の声が聞こえ、総毛立った。


 敵の増援部隊か!


 劉備軍には敵の増援に対抗できる戦力などありはしないのに。

 最悪、三人で食い止め兵達を逃がさねばと新手に目を向け、魯の旗のたなびきに息が漏れた。


 逃げた賊軍の正面から魯粛の軍がぶつかり張飛との挟撃の形になり数分で賊は全滅した。


 勝利の雄叫びを上げる魯粛軍。

 しかし先頭から張飛の奇声と魯粛軍の悲鳴が上がり始め、伝説の蛇矛が魯粛軍を蹂躙する光景に劉備は本日一番恐怖した。



「やめんか翼々! 劉備、早く奴の暴走を止めろ! アンビリカブケーブルを引き抜けや!」



 魯粛の叫びに応えてやりたい劉備だが、張飛に迂闊に近付けば死ぬ。慎重に近付いても死ぬ。目が合っても死ぬと今まで劉備を散々助けてきた野生の勘がそう告げているので、簡擁に関羽を呼んで来いとだけ命じるのが精いっぱいだった。



「了解しました! 弱り目にたたり目ならぬ張飛さんには関羽さんですね!」


「そこはかとなく不吉な事言わずに早く呼べ!」



 簡雍が飛び去った方向を見ると、砦の頂上で旗を差し替えてる関羽が見えた。どこで用意したのか劉の旗が靡いていた。


 簡雍との接近を感じたらしい関羽が、旗を片手に劉備には見えない誰かと肩を組んだポーズを決めて何かを怒鳴っている。はっきりとは聞こえないが、写真を撮れ的な何かだろうと劉備は察した。


 だがしかし流石は関羽。簡雍の指さす方向にある張飛を認めるや躊躇無く一直線に向かっていく。

 鬼神の如く出現した関羽が張飛と渡り合う事幾十合、ようやく疲れを見せた張飛を一喝して正気を取り戻させた。


 固唾を飲んで見守っていた劉備、魯粛の両軍は、関羽を神の如く崇め、張飛を悪魔の如く恐れ長く記憶に留める事となる。

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