第13話 劉備軍団初陣

 

「いいのですか魯粛様。あのような者達に任せてしまって」



 屯所の二階から魯粛は劉備軍団の行軍を眺めていた。



「村で暴れられてもかなわんしな。追い出す口実と賊退治が同工異曲というより一石二鳥で使えるとはレアな軍団だが、乞食軍団だなあれは」



 村で若者が集まってなんだか恐いという村人からの苦情処理を無血で解決した魯粛だった。


できれば劉備が賊退治を成功させてくれれば御の字だが、あの貧相な軍団ではそれを望むべくもないと断じ、後詰で州兵の出陣を命じた。



「あやつらは撒き餌だ。かかったところで賊を一本釣りするぞ。ギリギリの距離を保って進軍しろ。くれぐれも劉備を死なすな」



かくして劉備軍は魯粛の甘言に乗せられ装備もままならずして進軍を開始した。


目指すは砦に立てこもり州兵も攻めあぐね悩ます五百人の賊である。






劉備が聞いた魯粛情報では賊軍二千が厳しい山肌にある砦に立て籠り、攻めあぐんでいるという。

ロングレンジでは矢が雨のように降り注ぎ、ミドルレンジでは斜面からの凄まじい勢いでの逆落としに遭い、ショートレンジまで攻めきれないとの事だった。



「兄上、あの砦がそのようです。どう攻略するかですが儂に策が一つござる」



「おっと、私には大志がたくさんあるぜ」



 負けず嫌いな劉備が応じたところで張飛が下らねーと舌打ちをした。劉備がやや傷ついた表情で張飛を窺う。



「兄者の事じゃない。関羽の策ってやつだ。たかが山賊相手だ何も考えず突撃すりゃいいだろ! 早くこの蛇矛を試させろ! 体に震えがきてんだよ武者震いがM9でジ・ン・ジ・ン・きてんだよ!」



「それは中毒性の震えなんじゃないんですか~」


 簡擁が律儀に突っ込んではみたものの、本来の担当がボケなので技の冴えが全くない事務的なものだった。



「関羽、策は既にこの劉備が用意している」



「流石は兄上! いかなる策を用いるのですか」



「しかめっ面してないで聞いて震えろ張飛翼々。このまま砦に一直線に進軍だ!」


 張飛が歓喜の雄叫びを上げて兵達に進軍の号令をかけた。



「これは突っ込んでいいのですか? 本来の担当ではないのでプログラムに迷いが生じてます」



「簡擁。後ろを見てみろ」



 何を警戒してか一瞬だけ後ろを振り返り両手をクロスして防御を固める簡擁



「で、どう思った」



「ふぇ? 後ろ見てる間にイタズラされると思いました。ほら簡擁ちゃんて可愛いから!」



 劉備はあからさまに嫌そうな顔をして関羽にも同じように後ろを見させた。



「ふむ。軍隊というより百姓一揆を連想させますな」



「だろ。これを見た山賊が軍隊を相手するような守りをするか? いーや、しねーな。首領が先頭に立って殺戮を楽しもうと突撃してくるだろーぜ




 そいつをこの劉備が仕止める。




そうすりゃ賊軍は浮き足立つ。お前達は死なないように頑張ってくれりゃいいだけだ。

後は魯粛に任せるさ。あいつは小狡いが基本的にいい奴だから必ず後詰めで進軍してるはずだ」



「くくく、元旦那が来る頃には俺が全滅させてるだろうけどな!」



 憑かれたように笑う張飛を見て心配になったか、劉備は関羽にくれぐれも死ぬな死なすなと念を押した。



「お前達がどれ程の腕かは知らないが、私の近くにいさえすれば守ってやれるから離れるなよ」



「劉備さん劉備さん、決め台詞のつもりかも知れませんが、凄く恥ずかしい事を言ってます~。二度と口にしないよな事を言ってます~」


 簡擁が今のを録画しときましたからと嬉しそうに言った。

 そんなやりとりをしてる間も張飛の進軍速度は徐々に増し、砦を肉眼で確認できるまでに達した。


 義の旗を掲げ砦までかなり接近するも矢は一本も飛んでこない。

 砦から下品な笑い声が聞こえる程に進軍したところで門が開き山賊が溢れ出した。



「きたな! 全軍防壁となり逆落としの波に備えよ! 兄弟達はまず馬を奪え!」



 劉備の号令が終わらぬ内に張飛が奇声を上げて駆け出した。

 劉備があっと思う間もなく逆落としの勢いを一人で崩し、怒声を上げる山賊に悲鳴を上げさせる殺戮を開始した。

 張飛の蛇矛は凄まじく、戦慣れしてるはずの山賊を一振りで三、四人を戦闘不能にし、できたばかりの血の海で溺死させる勢いで暴れ廻った。



「化け物か――! あいつは怒らせたら死ぬな――よく生きてたな私! 流石は劉備!」


「兄上、この機を逃してはなりませんぞ!」


「おおう! 全軍突撃! 伝説の幕を挙げるの手伝ってくれ!」





「「「オオオオオォ!」」」


「「「うわあああああああああ!」」」


「「「らあああ!! うらああああ!」」」



 張飛の猛攻と劉備の号令にテンションMAXとなった兵は雄叫びを上げながら突撃した。




「まずは馬でしたな」



 言うが早いか関羽は乗馬している山賊に偃月青竜刀を一閃させた。

 劉備の目の前で山賊は元より馬の首までが一刀両断となった。



「うぬ! 力加減をぬかりました申し訳ござらぬ!」


「いやいやいや! 全然! 全然構わないですよ! 気になさらないで下さい!」



 劉備の誇る動物的危機回避本能が敬語を喋らせた。劉備の頬に刻まれてる「愛」の文字が「こいつらやべーよ」に書き換えられるぐらいに、劉備の顔は強張っていた。



 ほどなく無事に人だけを片付けた関羽が二頭の馬をゲットし劉備を馬上の人とする。


 張飛の姿は既に砦の中に消え、外では乱戦の様相を呈し始めた。

 その中にあって一際大声で指示を出している山賊が劉備の目を引いた。



「そこの山賊! お前が首領だな! 私はこの義勇軍の大将劉備玄徳だ!」


 山賊はギロリと劉備を見たが、嘘つけ砦に入った奴が大将だろうがと砦に戻ろうとした。



「関羽、よーく見とけよ」



 劉備は一番近くにいた山賊を斬り、刀を奪うとえいやと首領に投擲した。


 豪腕から放たれた刀は軌道上にいた数人の山賊の腕を首を噴き飛ばし、首領の胸に大きな穴を開けても勢い衰えず更に一人の犠牲者を出した。



「お見事!」


「はっ! 刀狩りの劉備とは私の事だ! よーし、敵の首領は討ち取った! このまま砦を制圧するぞ!」


 こうなると義勇軍の勢い止まらず、命令系統を失った賊軍は逃げ出す者や砦に退却者が大半となり勝負は決したも同然となった。

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