第10話 劉備元徳 VS 張飛翼々

 元々物怖じしない面々に酒の力も加わり、現在、過去未来へと尽きぬ話題で華が咲いた。


「関羽のセロリ話といい、私はお前達の事をあまり知らねーから、色々教えてくれよ」


「拙者も兄者の過去など存じぬが、間違いない事だけは分かります」


「ん~さっきは黙ってましたが、名前は知ってるのに知らずとか、間違いかも知れませんよー。ねー張飛s」


「あ?」


 気分が良いせいでオーバーラップ気味に飲んでいた張飛は口元の酒を拭って危険なオーラを漂わせ始めた。


 すうっと場から離れる簡擁には目もくれず、張飛は劉備に詰め寄った。


「兄者よぉ、あんた俺の兄貴なら当然俺より強いよなぁ」


「飲み過ぎだ張飛。兄上に絡むとはどれだけ安い酒ばかり飲んだのだ」


「極上の酒しか出してねーよ!」


 劉備は関羽に突っ込んでから立ち上がり、張飛に両手を向けた。


「お前の言う強さの定義が分からねーが、力比べなら受けてやるよ」


「おぉおおぉぉぉし! いいぜいいぜシンプルで分かりやすいぜ!」



 張飛も立ち上がり劉備の手に己の手を絡めて咆哮を上げた。


 ちょうど胸の高さになるよう台を重ね、がっぷりと右手同士で組み合う。

 関羽の合図と同時に張飛は咆哮を上げて一気に決めにいった。

 危うくもっていかれそうになった劉備だが、気合い一つ入れて互角の体勢まで戻してきた。


「おいマジかこれ! 酒か飲んでたのマジで酒なのか! この劉備玄徳が焦ったじゃねーか!」


「喋る余裕あるなら、これは大丈夫か兄者」



 尚も押しにかかる張飛。

 流石に真剣な表情となり堪える劉備。


 青龍偃月刀を携えたまま、審判を務めるように隣に立つ関羽。



 十分近くも力比べが続き、喋る余裕も無くなった両者から酒臭い汗がどっと噴き出し始めたところで、徐々に劉備が押し始めた。


 このままでは負けるとみたか、張飛が蹴りを見舞うが劉備は崩れず、逆に片足となった張飛は支えきれずに、劉備の腕に押し倒され片膝をついた。



「勝負あり! 双方離れられよ!」



 膝をついた張飛を立たせ、劉備はふらつきながらトイレだと呟いて家に消えた。



「60%てとこですねー」



 一人離れて焼き鳥を食べている簡擁が誰に言うでもなく言った。



「鉄クズと意見が合うのは癪だが、そんなとこであろう。酔った勢いで兄上を負かしてしまうかと心配したが、よく加減したな張飛」




 「けっ、横で偃月刀ちらつかせて威嚇されりゃー気が散って本気出せるかよ。しかし流石と言うか、俺が蹴り入れても動じるどころか文句一つ言わない、か。悪くないな。悪くないぜ」



 張飛は簡擁の横にどさりと座り、酒に手を伸ばしかけたが、思い直してミルクで渇きを癒した。



「私が言ったのはお酒の抜け具合ですけどねー。まあ関羽さんの頭の抜け具合には及びませんけど」



「お呼びじゃないのは貴様だ」



 関羽の青龍偃月刀の柄が唸るも、簡擁の側頭部に到達する寸前に指二本で止められた。



「酔拳の使い手が何も張飛さんだけとは思わない事ですね! アチョー!」



「漢!」


 簡擁の攻撃を避けたところで劉備が帰ってきた。

 飲み直した四人は笑い暴れ涙しながら語り明かし、いつしか眠りに落ち、新しい朝を迎えていた。

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