第17話 阿保い過失をプロデュース

「前回の!!ミタムラ」

「タケ、そういうのいらないから。てか代表戦って何よ保寺さん?またなんか映画かドラマでも見たの?」

Sureそうね、昨日は宇宙開発の件で揉める財閥と政府のやつを見たわ。コートの内側に爆薬仕込んだウィスキーの小瓶ミニボトル潜ませてたのは真似たくなったわねぇ。」

 劇中のワンシーンの再現なのか、懐に手を入れ上下に振る紅音。

「まああんたのご立派な趣味はどうでもいいとして、伊緒ちゃんと武尾さんに何やらかすわけ?場合によっちゃ殴るわよ紅音ベニオン。」

「代表戦、って言ってたからボクと春川でなにかさせるって事でいいのか保寺?」

「津瑠子はものわかりがよくていいわぁ、そこの蛮族と違って。」

 いつもの煽りだとわかりながらも、舌打ちをする麗。

「おい、こいつボクのこと呼び捨てにしたぞ......」

「そんだけ仲良くなれたんでしょ、保寺さんと。喜べばいんじゃない?」

「私と付きあうに値したのがわかったからね。よく働いてくれそうだし。はづきは......ギリ行ける感じだわ、うん。」

「やっぱこのアマムカつくっ......勝ち目がないのが尚更っ......」

 はづきが歯ぎしりしながら紅音を睨みつけるが、悲しいかな紅音は意にも介さない。

「ルールは簡単よ、麗と津瑠子が伊緒とはづきの代わりに戦う。互いに因縁をかけての勝負ってことで。会場はボクシング部から借りましょう、顧問が不祥事起こして今は休業中だからいけるはずよ。」

「あ?何勝手に決めてんのあんた?」

「麗は津瑠子にリベンジもできるし、津瑠子ははづきの仇も取れる。伊緒とはづきはお互いのケリもつけられるんだから、そんなに悪い条件じゃないと思うけど。」

「そういうことじゃなくて!!なんでアンタが絡むんだっつの!!てか私負けてないし!!」

「現実を認めなさい、私が来なかったら津瑠子に負けてたでしょあなた。それにね、麗が得するような事もちゃんと考えてるんだから。」

「得だぁ?」

 訝しむ目で紅音を見る麗。紅音の言う得、などとは自分が見ていて楽しいから、下民が道化を演じているのをほくそ笑むのが前提にあり、決して周りの事を考えてなどいないという事を麗は嫌というほど身に染みているのだ。

「ええ、Inexpensiveお得なやつよ。あなた言ってたでしょ?伊緒に自分の服の着せ替えしてあわよくばって。」

「あわよくばっ!?何する気だったの!?だいたい予想着くけどさ!?」

 麗の首根っこを掴み揺さぶる伊緒。

「ああ、去年言ってたわね。」

「いや、今日の話でしょ?でさ、私思ったのよ。あなたが伊緒に着せ替えるより、って。」

「へ?」

 それは逆転の発想。伊緒を自分好みに着せ替えるのでなく、伊緒に自分を着せ替えられる。目覚めた「屈服プロデュース」の二文字が、麗の身体を駆け巡る。

「いや、保寺さん?何言ってるの?私が麗を着せ替えるだぁ!?」

「ヤスさん、ミムさんのファッションセンスの無さを舐めちゃいかんスよ。この人、オフ会にゴスロリ着てくるような人でスよ?この見てくれで。」

「あれはッ!!伊澄香姉さんが『パーティならこれでインパクト与えて周りをイチコロよ。』って言ってお古渡しただけだから!!私だって着たく無かったけど押しが強くて着るの断れなかったんだもん......」

「インパクト、っつーか結構ゴス多くて埋もれてたもんねミムさん......」

「伊緒ちゃんのゴスもだけど、伊澄香お義姉さんのお古って方が気になるわ私......そういうの着るタイプだとは思わなかったし......」

 綺麗だけど何かしっくりと来ない、といった感じに伊澄香のゴスロリ姿を思い浮かべる麗。

「話戻すわよ。麗は伊緒に着せ替えて貰って、津瑠子ははづきに着せ替えて貰う。」

「はぁ!?はづきがツルさんの!?いや、まあ、この人にそういうの慣れてまスけど......」

「そうだな、ボクのスマホのケースだってハヅにデザインして貰ったし。」

「藤間、お前やっぱ趣味悪ッ!!」

「ミムさんよぉ、ツルさんのセンスはともかくはづきの手掛けたモノに文句垂れるのは納得はいかねえっス!!」

「ボクを踏み台にして自分の評価上げようとすんのやめてくんない!?」

 何故自分が殴られなきゃいけないのか、ふざけるなといった面持ちではづきに殴りかかろうとする津瑠子であったが、すんでの所で紅音に手をおろされる。

Chill out落ち着きなさい?この二人だけに任せるのアレだし、セコンドはちゃんとつけとくから。私は裏方兼マネージャーとしてチケット捌いたりするつもりよ。」

「ち、チケット?」

「まさかだとは思うけどさ......ボクらの代表戦とやら、観客つくの?」

 麗、そして津瑠子も信じたくはなかった。自分たちが見世物になるという事に。

Fa sho当然よ、金取れるわよあんた達の喧嘩は。取れるものとっとかないと勿体ないわ。何のために止めたと思ってるのよ私が。」

 だが、現実は非情である。

「ちょっと保寺さんやり過ぎでしょいくら何でもさ。」

「あら、伊緒はあれ間近で見てたでしょ?あなたの事だから録画して売り捌こうとしてたんだろうけど、私がやった方が上手く儲けられるわよ?」

「うっ、図星......」

「想定の範囲内過ぎて何も言えないっス......」

「で、さっき軽く考えてみたんだけど。客がこんだけ入るとして、場所代とか宣伝費が......フッフフッ!!」

 バックから電卓と筆記用具を取り出し、紙に数式とグラフを書き込み始める紅音。確実に成功する投資を目の前にした紅音は、普段の余裕ぶった優雅に他人を見下す姿はどこかに、『保寺』の血が疼く商売人であった。

「いやだから!!やるかやらないかとか以前にボクの話聞けって!!」

「ちみっこ、覚悟決めなさい......こうなった紅音ベニオンは止めらんないわよ、昔っからさ。諦めて代表戦とやらやるしか無いわよ......、もう既にここの代金エントリー料貰っちゃってるんだから。」

 溜息を吐きながら津瑠子の肩を叩く麗。

「うるさいわよー麗。でここに私の取り分引いてと、はい。これが伊緒とはづきの儲け分ね。低く見積もっちゃったけど、こんなもんかな。」

「「マジで!?」」

 書かれている式の意味は二人にはわからない。だが、しかしだ。そこに書かれていた数字は、二人が月に貰っている小遣いの十倍は軽く超えているのだ。

「え、こんな貰えるんスか!?ツルさんやりましょう代表戦!!是非とも!!」

「おいハヅ、いきなりそんな事言われても困るんだけど......」

 眼の色を変え頼み込むはづきに困惑する津瑠子。

「津瑠子、代表戦でさ......もし麗に勝てて観客を沸かすことができたのなら......」

「お父様もあなたの事認めてくれるんじゃないの?

「!?」

 紅音に心を見透かされたような笑みを向けられ、たじろぐ津瑠子。

「そうでスよツルさん!!流石にツルさんの実力を認めざるを得なくなりまスって!!やっちまいましょう!!はづきの事助けてくれた時みたいにグザっと!!」

「あ、あの時は事情が事情だったから......」

「いいわよ、ちみっこぉ棄権しても。こっちは伊緒ちゃんと勝利の凱歌とやらでも歌ってるからさ。」

「ごめん保寺さん、明日まで考えさせてくれる?」

 その場にいた誰もが、大金を目の前にして絶対に伊緒は代表戦とやらに乗ってくるだろうと思っていた。いつになく深刻な顔つきで俯いている伊緒を見るまでは。

「ん!?伊緒ちゃんッ!?」

「は?ミムさんどうしたんでスか?大金目の前にしてその顔はありえないっしょ基本的に。」

「三田村具合でも悪いのか?」

「......いいわ、伊緒。あなたにも考えがあるんでしょうから。いい返事が聞けるといいけどね。そろそろ時間だし、また明日詳しいことは話しましょうか。津瑠子とはづきには詳しい事話すからもうちょっと残ってね。」

 眼を瞑り、何か納得したような表情で解散を告げる紅音。

「ごめん保寺さん......」

「急に言われても困るものね。麗、伊緒についてってあげなさい。」

「言われなくても!!行くわよ伊緒ちゃん!!あ、ご馳走さん紅音ベニオン。」

「ちょっと引っ張らないでよ麗!!保寺さんご飯ありがとうね!!」

See yaじゃあね。」

 伊緒の肩を無理やり引っ張り部屋の外へと意気揚々として出ていく麗を見送った後、紅音はため息をつき飲みかけのコーラを一気に飲み干した。

「......で?ボクらを残した意味は?保寺?」

「Oops、ごめん今のは我ながら無いわね......」

「汚ぇ......」

 ゲップ音を間近できかされ、不愉快そうに眉をしかめるはづき。

「悪かったつってるでしょ。まあ、麗先に返したのは伊緒を説得させるためでもあるんだけど。ちょっと二人に話しておきたい事があってね。麗いると話し辛いし。」

「なんだ?春川の弱点でも教えてくれるのか?一回戦ったけど何となくあいつのペースは掴めてはいたけど。」

「ええ、そうなの。だったら尚更残して正解だったわ。」

「な、なんか物騒でスねヤスさん?」

 紅音のトーンがわずかに低くなった事に気づいたはづきが、震えだす。

「あら、感がいいのねはづきは。そうね、一回有利取れたのは凄いかもしれないけどね、津瑠子......」

「次は本気で掛からないと、あんた?」

 普段と変わらない、何も変わらないにこやかな顔で、紅音は津瑠子とはづきに言い放った。


 

 

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