第16話 ブルーミング・ヴィランをプロデュース

 津瑠子の聞いてがっかりする名前の由来を聞き、痛さにうなだれる4人。

「痛い、痛いわ......昔やんちゃしてた時の麗より来るものがあるわこれ。」

「え、麗もなんかしてたの保寺さん?」

Curious気になる?」

 伊緒にいつもの顔で軽く微笑む紅音。

「うん、麗の中学時代とか気になるし。」

「今その話するぅ?私としては伊緒ちゃんと武尾さんの因縁がなんなのかをハッキリさせた方がいいと思うんだけど。」

「はづきもミムさんに賛成。さっさと片付けて、ヤスさんが何やらかそうとしてんのかも聞きたいっスし。」

「ボクまで巻き込んだんだ、どうしようも無い事だったら承知しないぞ。」

「わーったわよ。えっと、どれから話せばいんだか......」

 頭を掻きながら伊緒がブツブツと呟き始める。

「武尾さんとどうして知り合ったのか、私はそっから話して欲しいわ。私より先に伊緒ちゃんとどうやって出会ったのか気になって仕方ない!!」

「同じ中学で同じクラスだっただけだわ!!さっき話しただろう!?」

「ミムさんがよくやってるゲームあるじゃないでスか?『ソドブリ』。はづきもプレーしてたんでスよ。で、たまたま『ソドブリ』してるミムさんを見て、これはって思って声かけたのが始まりっスよ。」

「人がギルド戦やってる時にいきなり話しかけてきてビビったわあん時は。おかげでアイテム取り逃すし......」

 当時の事を思い出し、不規則に伊緒は机を小指で叩く。

「悪かったつったじゃないスか。ちゃんとあの後協力してあげたでしょう?」

「ああ、タケはとてもやってくれたよ。ホントにね。」

「うーん、伊緒ちゃんを夢中にさせてる『ソドブリ』......私もやれば伊緒ちゃんと遊べるかな?」

 ただ仲間に入れてほしい、そんでもって伊緒に構われたいイチャつきたいだけの麗の一言が、伊緒とはづきの瞳孔を険しく開かせた。

「絶対に止めろ!!生半可な意思ですんな!!」

「マジこんなゲームはやんない方がいいっス!!貴重な青春をこんなもんに捧げちゃ駄目っスよ!!」

「ひっ!?」

「お前ら、その反応おかしくない?」

Me Too同意

 不意をつかれビビる麗の傍らで、呆れながらポテトフライを食す津瑠子と紅音。

「いや、ホントに『ソドブリ』はやるのやめた方がいい。ソロプレイが基本できないし、組んだ相手がwikiも読まないようなド素人かっぺと組まされたら最後ッ!!集めたアイテムも武器バスタ・アームズ防具フォース・ジャケットも全部パーになるのよ!!初めてやる奴に責任取れるぅ!?金と時間と生命を費やし燃やして手に入れた栄光と実績を消されることにぃ?」

「ま、そのド素人かっぺと組んだ奴からをやっていたのがミムさんなんですがね......」

「!?」

「タケぇ!?」

 『ソドブリ』がいかにハードなゲームかを語る伊緒に向けられた、はづきの言葉に伊緒の額に汗が滲みはじめる。

「え、武尾さんどういう意味なの今の?」

「ハヅ、まさか三田村は初心者から強奪をしていたって事か?」

「はづきが説明するよりも、『ソドブリ』『青鼻』で検索かけた方が色々のってまスよ?ミムさんが何してきたかが。」

「や、止めろぉ!!」

Chill out落ち着きなさい?」

 顔が青ざめた伊緒が麗からケータイを取り上げようとするが、紅音によって腕を掴まれ阻まれる。

「いうて伊緒ちゃん、私のケータイまだスマホじゃないからあんまネット見れないわよ?」

「そういやそうだった......てか早く買い替えてよ、連絡するとき不便なんだよ麗だけメール送らなきゃいけないしさー。」

「だってまだ使えるんだし、連絡とれなくはないんだからこれでいいじゃん。」

 ビジネスの場ではまだ現役らしいが、最近あまり街で見かけない旧式の携帯電話ガラケーを麗は折り畳む。

「あ、あのさ......い、伊緒......」

 笑いを抑えるために口元を手で覆い、プルプルと震えながら紅音がスマホの画面を凝視していた。

「これって......あなたの事?Reallyマジで?」

「......そうだよッ!!」

 画面に映る、赤字で大げさにフォントされた『ソドブリの害悪、アンチ青鼻wiki』の文字。トップページに貼られた、翠に墨を垂らしたおかっぱの『閃鬼』。血糊の飛び散った歯車が内蔵された大剣を振り回し、味方であろう『閃鬼』を切り裂いていくスクリーンショットが、もう戻れない伊緒の栄光と罪を、空しくとも滑稽にとも物語っていた。

「ふーん、『凶雷のイオンイオン・ザ・ブルーティッシュボルト』ねぇ......やってることはアレだが......カッコいい名前じゃないか。とてもいいセンスだと思うよ、ボクは。」

 悪趣味な紋章だらけのスマホを弄りながら、津瑠子は伊緒のかつての『閃鬼』に感心する。

「うるせぇ!!藤間と一緒にされるのホント嫌なんだよ!!」

「人が素直に褒めてるんだから額面通りに受け取れよな?てかなんだよ、ボクと一緒が嫌だってさ?」

「いや、ツルさんと一緒は嫌でしょ。」

 鼻で笑いながら津瑠子に正直な感想をぶつけるはづき。

「ハヅゥ!?」

「なんで『青鼻』って呼ばれてるの、『凶雷のイオンイオン・ザ・ブルーティッシュボルト』さん?」

「マジで恥ずかしいからその名前で呼ぶの止めて頂けませんかねぇ、保寺さん......」

「そうよ紅音ベニオン、伊緒ちゃんの方が可愛いじゃない。」

 どさくさに紛れて伊緒を抱きしめる麗。普段は嫌がる伊緒だったが、自分の恥ずかしい過去をバらされ参っていた今なら、麗の芯の通った身体の柔らかさと温かみを全身で感じ取れる幸せを苦笑いしながらも噛みしめていた。

「いや、そういう意味じゃないと思うっスよ、基本的に考えて。『凶雷のイオンイオン・ザ・ブルーティッシュボルト』さんの凶暴ブルーティッシュの部分をブルーと鼻紙ティッシュで分けたんでスよ。で、『青鼻』って蔑称付けられてたんスわ。」

「ふーん、雑なのね。」

「ゲームでの通称なんてそんなもんスよ。普通に言った方早いのに、よくわからん捻り入れられて長くなっちゃったりする事とかよくありまスって。」

「つうかさ、青だったらボクと被るじゃん色。今から変えてよ三田村。」

「もう『凶雷のイオンイオン・ザ・ブルーティッシュボルト』はいねぇからよ......そこにいる女のせいでなッ!!」

 忌々しくはづきを睨みつける伊緒。そんな伊緒を涼し気に見ながら、はづきはため息をつく。

「いやまあ、『ソドブリ』のオフ会でうっかりミムさんの本アカのこと喋っちゃったのは確かにはづきの失態でしたがね......」

「お前のうっかりでキャッキャウフフしてたあの会場が、一瞬で紛争地帯になったよ......一瞬でも逃げるのが遅かったらトルソーになって次の日発見されてたわ......」

 当時、会場で向けられた殺意を思い出しガクガクと震えだす伊緒。

「伊緒ちゃん大丈夫?温める?私でよければ。」

「頼んだよ麗......」

「やっほい!!」

「あらま、こりゃ重症だわ。」

 麗に抱きしめられ、頭を撫でられる伊緒に冷ややかな視線を送りながら、紅音は再び『青鼻』のwikiを閲覧する。

「新人ばかり集めた初心者用ギルドを作成して、争奪戦中に自分のギルドもろとも殲滅......報酬を独り占め等はざら......」

「多数のプレイヤーから抗議が送られるも、運営は『仕様、もしくは課金して強くなれ』の一点張り......運営のPKの説もある、って書いてあるけど三田村に限ってそりゃねえわなぁ。てかPKって何?サッカーでもするのかこのゲーム?」

「プレイヤーキラーつって、ゲーム中の敵じゃなくてプレイヤー襲って稼ぐやつの略っスよ。『ソドブリ』は自由性が高い分、結構問題になってましてねぇ。」

「それの、何が......いけないのよ......」

 麗に撫でくりまわされている伊緒が、ぽつりと呟く。

「いや、人の資産を奪うのは悪だろ?」

「許されてるのよ!!咎められることもなく!!私はゲームのルールに従って戦っていただけ!!禁止されているなら初めからこんな仕様になんかしないでしょ!?課金額で絶対に上位ランクのプレイヤーになんか絶対に勝てないんだから、こうでもして情弱バカ雑魚ゴミを養分にでもしないと奪われるのよ!!私が!!たかだかゲームかもしれないけど、だからやらなきゃいけないのよ!!アンタらみたいな何かと優れた人間にはわからないかもしれないけどさ!!」

「伊緒ちゃん......」

「ミムさん、それ聞いてはづきは安心しましたよ......アンタ本当にどうしようもねえっスわ。」

 張り裂けそうな胸から出た伊緒の叫びを、苦々しく噛みしめるはづき。

「最初はさ、謝ろうと思ってたんでスよ。悪い事してたとはいえ、ミムさんの趣味を奪ってしまった事に関してははづきが完全に悪かったから......けど!!ミムさんは何も変わっていない!!何も変わろうとしていない!!結局自分の事しか考えてなかった!!一人で悩んでたはづきが馬鹿みたいっスよ、ホント......」

Awesomeサイコーよ!!あなた達本当に!!私の眼に狂いはなかったわ!!」

「「「!?」」」

 普段決して彼女が見せることのないだろう、百舌鳥の鳴き声の如くけたたましい声で笑いだす紅音。突然の事に、部屋にいた全員の動きが止まる。ただ一人、伊緒を抱きしめていた麗を除いて、だ。

紅音ベニオン、アンタまたなんか企んでるわね?」

「企んでるぅ?私は間違いが無いようにしているだけよ。こんな素敵な逸材オモチャ、渡したくないもの。それより麗、伊緒を放してあげなさいよ。鼻血垂れてるわよ?」

「うわ!?汚ねぇ!!どうりで頭がなんか温いと思ったわ。」

 麗の鼻孔にティッシュを詰め込み、伊緒は隣に座る。

「締まらねぇっスねぇ......こんだけミムさんとはづきが魂のぶつけ合いしててオモチャ扱いスかヤスさんよぉ?」

「よくよく考えれば、ボクは何で保寺に投げられなきゃいけなかったんだ?」

 不満そうに文句を垂れる津瑠子とはづきを尻目に、紅音は続ける。

伊緒ゲス津瑠子ナードはづき三下!!でもって麗まで加えたら......あぁッ!!やれるわ!!やれてしまうわ!!」

「保寺さん、一人で興奮してないで何やるか言ってよ......」

「伊緒、はづき......あなた達で戦いなさい!!麗と津瑠子を使って!!代表戦を始めるのよ!!あなた達の因縁にケリをつけるのよ!!」

 力強く二人を指差す紅音。ここにいた誰もが思っただろう、「早速間違えている......」と。

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