第15話 荒むナンバー5をプロデュース

「やっぱこのハンバーグ旨いな、おかわりしていい?」

「ツルさん、流石に空気読んで欲しいっスよ。ミムさんとヤスさんがさっきから苛ついてますから。てか3つ目は多いでしょ?我慢しなさい?」

 スマホを弄りながらラーメンの脂を箸で一か所集めている伊緒と、ボンゴレスパゲティをフォークでグルグルと回しアサリの殻をガリガリと口で砕いてる紅音を見て焦るはづき。

「別に私はイラついてないわよ、タケ。スタミナ消費しなきゃいけないから寧ろ好都合って感じ。」

「私もだけどね。口の中のこれはこないだ見たドラマの真似してるだけだから、あれはムール貝だったけどね。家の中じゃこんなことできないし。」

「茶目ッ気が過ぎやしないそれ?あ、伊緒ちゃん後でそのスープ頂戴?私も食べたやつあげるから。」

「いらねぇしやらねぇ。」

 カツサンドを頬張りながら伊緒におねだりをする麗。

「ま、これで皆様満足できたようだし本題に入ろうと思うんだけど、その前に武尾さん?」

「はぃ?」

「こうなった経緯、説明して下さる?」

「そうっスね......」

 はづきは天井を見上げながら、溜息を溜息をつく。

「ミムさんとまた友達になりたかった、ってのがホントのとこっス。」

「だからさタケよぉ、教室でも言ったけどそんなこと言って信じられるか、っての。」

「じゃあどうしろって言うんスかはづきに!!ずっとずっとはづきの事無視してた癖にアンタって人は!!」

 伊緒の無神経な発言に、テーブルを叩くはづき。

「武尾さん、落ち着いて。」

「ハヅ、モノに当たるな。」

「......まあ、今はいっスよそれで。そういうとこ、中学んとこから全く変わってないんでスから。」

「待って、武尾さん伊緒ちゃんと同中オナチュウだったの?」

 同じ中学だった、はづきの言葉に急に前に乗り出す麗。

「そうっスよハルさん。クラス同じでしたわ。」

「あのさ、中学時代の伊緒ちゃんの写真、ある?」

「おい麗!!何言ってんだおめぇ!?」

「勿論あるっスよぉ?後であげまスんで、ちょっとミムさん押さえておいてくれまスか?」

「ラジャー!!」

 昔の伊緒の写真という餌を使い麗を手駒にし、悪そうに歯を見せながらはづきは笑う。

「麗てめぇ裏切りやがったな!?」

「伊緒ちゃんだって私の自撮り売ろうとしてたんでしょ?お相子よ。」

「待ち受けに使おうが、プリントしてお風呂ポスターにして貼ろうが、ズリネタに使おうがはづきは構わないんで。」

「ズリ......」

「ネタ......」

 あまりに直球過ぎるはづきの下ネタに、色ボケした麗でさえも言葉に詰まる。

「話が進まないわ。武尾さん続けて。さっさと。私が怒りださないうちに。」

「なぁ、ズリネタってなんだ?」

 意味の分かっていない津瑠子だけが、平然とバケットにハンバーグのデミグラスソースをかけながら食していた。

「後で教えまスよ。でまあ、話戻すと中学ん時に喧嘩してそれ以降ガン無視され続けてたんスよミムさんに。はづきはずっと謝りたかったのに......」

「ハヅ......」

「伊緒ちゃんそれはちょっと酷くない?」

「タケよぉ......お前被害者面してるけど、私にした事考えたら話したくなくなる位の事しでかしたんだからな?」

 自分が一方的に悪い、そのような形で話を進められて何か言いたげに反論する伊緒。

「伊緒の方はこの後でちゃんと聞いてあげるから、今は大人しくしてて。で、理由はわかったんだけど、なんで藤間さんをけしかけるなんて面倒な事したの?」

「それは......そう、でスねぇ......」

 先程まで流暢に喋っていたはづきが、顔を赤らめ、途端にどもりはじめる。

「どうしたタケェ、さっきまでの勢いはどこいった?」

「その、まぁ、えっとでスね......」

 メロンソーダを一口飲んだ後、深呼吸をするはづき。

「......ミムさんがハルさんと付き合ってる、って聞いたから。」

「「「ブッ!!」」

「おい!!汚いな!?」」

 伊緒、麗、紅音が同時に口に含んだ飲み物を噴き出し、津瑠子の顔と制服を汚す。

For Realマジ!?んな理由!?あなた正気!?」

「お、お前私の事そ、そう見てたぁ!?ごめん気づかなくて......」

「やっぱり武尾さんは伊緒ちゃんの事を!!これは許せないわ!!私より付き合い長いからってマウント取る気ねぇ!!」

 信じられないものを見るような、ばつが悪そうな、嫉妬に燃えた奇々怪々な眼がはづきを突き刺す。

「そうじゃねーっスよ!!こういう流れになるの嫌だから言いたくなかったんスよ!!いやさ、ハルさんすっげー人気じゃないスか。それこそ学区外にもファンいる程には。」

「あの3馬鹿が言ってたことマジだったんだ......」

「そんな御方が、よりによってミムさんにゾッコンのズッキュンっスよ?ぜってーミムさんの身に何か起きるに決まってるでしょ?案の定今日だってあったま悪そうなのに絡まれてるし。」

「タケ、確かにあいつらは馬鹿だったけど悪いやつじゃねぇって......え、今日?」

 え、こいつストーキングしてたの?

「噂聞いてからちょっと見張ってたんスよ。ツルさんにも相談して。」

「最初は面倒事だと思ってたけど、ハヅの眼がマジだったからな。仕事サボられても困るし協力しようと思ったんだよ。」

「伊緒ちゃん気づいてた?」

「全然気づかなかった......つかタケが同じ学校だったことすら知らなかった......」

「でしょうねぇ、はづきの事視界にだって、って、流石にそれ酷くない!?そこまで!?」

 どこまで己の存在が軽視、それどころか無いことにされているのかを目の当たりにしたはづきは、伊緒を今にも泣きだしそうな顔で睨みつけた。

「だって興味無いし。」

「......ああもう!!でも、こんなチャンス中々無かったス。あとはミムさんに何かあればツルさんけしかけてドーン!!と救出、その後にはづきが来て解決!!上手く行く筈だったのになあ......」

「ハヅの下調べが足りないんだよ、なんでボクがこの外道助けなきゃいけないんだよ。」

「人の事殺しかけといてよくもまあ......」

「ちみっこぉ、これ以上伊緒ちゃんの事悪く言うようなら」

「麗、黙って話を聞きなさい。まだその時じゃないわ。」

 紅音の静止に気をよくした津瑠子は、ふふんと得意げに鼻を鳴らし話し続ける。

「で、ボクが三田村んとこ行ってこうなったってわけ。そしたら春川と殴り合いで保寺にブン投げられてさ。でも思ったよ、これも運命ってやつなのかな。悪を討ち破る『藤間』の血が、やっぱりボクに流れているんだってね。」

「何言ってんだこいつ?」

「中二病もここまでテンプレ通りだといっそ清いわね、マニュアルに載っけたい模範生だわ」

 あまりにテンプレート的な症状を見せられ、思わず頷いてしまう伊緒。

「はづきも最初はそう思ったんでスけどねぇ......でも、アレなんスよ、ツルさんのお家、マジモンの武闘家の家系なんス......ネットで検索かけるまでは信じてませんでしたが、正直。」

「何その私の知らないヒストリー!?」

「古来より魑魅魍魎を穿つ討魔の拳......私も聞いたことはあるけど、実際に見たのは初めてだったわ。」

「知ってるの紅音ベニオン!?あんたホントそういうの好きねぇ......」

「強そうな奴らはだいたい調べてるわ、じゃないと潰し甲斐が無いじゃない?」

 津瑠子を投げ捨てたことを思い出したのか、楽しそうにワキワキと指を動かす紅音。

「ぶ、物騒なんだな保寺は......誰も知らないし知られてはいけない、それが悪を討つ事を習わしとした『藤間』の御業ってわけよ。」

「でもアンタ思い切りバラしてんじゃん、その御業とやらをうちらに。」

「いいんだよ、ボクのは『藤間』本家をアレンジして作った我流殺法みたいなもんなんだ。」

「へぇ、本家本流じゃないんだ。」

 飽きはじめた麗が爪をマニキュアで塗りながら適当に相槌を打つ。

「仕方ないだろ、『お前にはまだ早い、というか迂闊な事しそうだからまだ教えてやらん。』ってお父様が言うんだもん......」

「やっぱり親は偉大だなぁ......」

「あのさ、型破りって型が出来て無いと出来ないのよ?」

「OK、だいたい武尾さん側の事情は分かったわ。伊緒に相手をして欲しかった、なんともいじらしいけど、ここまで拗らせる喧嘩の原因ってのはいったいなんだったのかしら?答えてくれる?」

「......嫌って言ったら?」

 不機嫌そうに紅音に答える伊緒。

「あなたをアンフェアな人間として見るわ。それとね、こういう時は言い辛くても言った方があなた自身の誤解も解けるし楽になると思うわ。」

「伊緒ちゃん、私からもお願いするわ。私だって伊緒ちゃんに協力したいから。」

「ま、なんか食い違うとこがあったらはづきが言いまスから安心してゲロるといいっスよ。」

「ボクも気になるよ、このハヅをここまでやらかすってさ。自分の興味がある事以外はいい加減なのに。」

 へそ曲がりな伊緒でも、さすがに4人に詰められてしまっては己を貫くことも難しい。ましてや、麗は伊緒の事を気にかけているのだ。これ以上は不意にはできない。

「うん......わかったわよ.......でも、先に藤間に聞きたい事があるんだけど。」

「何だい?」

「『蒼蛇』って何?そう名乗った経緯を知りたいんだけど。」

「ボクが『イクラド』好きなのは知っているだろ?」

「ええ、見れば一発。」

「あれはさ、十二星座がモチーフのアニメでさ。で、やっぱそういうのってお約束で蛇遣い座があるはずなんだけど、無かったんだよね。だからボクが使うことにしちゃった。蒼色は僕のパーソナルカラーっていうか。」

「聞いて損した......」

「やっぱこんな痛いやつに負けると思いたくないわ私......」

「ツルさん、それマジで痛いやつだから。ホント痛いやつだから。」

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