閉ざしたい世界

第14話 苦労は各名称をプロデュース

「同じ運命さだめのぉ!!二人なのにぃ!!断罪さばきのぉ刻印きずあと血で血を洗うぅ!!」

 『KnockEnoughYoung』、通称『ケーヤ』。伊緒達の通う高校から徒歩10分の位置にある大型複合娯楽施設である。ゲームセンター、ボーリングにカラオケ、ファミレスにケータイショップと、ここに行けば遊ぶところには基本困らない場所だ。

「光と闇が地球このちを包みぃ!!うつつるのは『穢レ』と『畏レ』ェい!!」

(糞下手だろコイツ......)

(ちみっこ、あんま歌上手くないわね......)

Tone Deaf聞き苦しいわ......)

(正直下手っス......)

 『ケーヤ』のカラオケルームにて、マイクを握りしめ音程と音量のタガを盛大に外しながら熱唱している津瑠子を他所に、伊緒、麗、紅音、はづきは渋い顔をしながら黙って机に並べられたクッキーとチョコレートをつまんでいた。

「砕け散るココロはどっちだぁ!?シャァ!!」

「で、終わった?ようやく?」

 満身創痍で歌い切った津瑠子に、頬杖を突きながら目線を合わそうともせず声をかける伊緒。

「ああ、次は三田村の番だっけ?待たしちゃった?」

「いや、そういうことじゃないんだけどさ。」

「ツルさん凄いっスね、なんていうか、こう......デスメタルとかヘヴィメタ歌えるんでスね!!」

「武尾さん、それは全国のメタル系のバンドに失礼よ......」

「メタルぅ?何言ってるんだハヅ、今のは『イクラド』の25話で流れた挿入歌、『双星~狂フ裁キノ中デ~』だよ?」

「聞いたことないけど、絶対こういう曲じゃないってのは分かったわ......」

 ジャスミン茶を飲みながら麗はため息をついた。

「なんだぁ春川ぁ?『イクラド』の名曲も知らないってかぁ?」

「自分の知識が他人と共用されてる、って考え止めてもらえる?志郎といい、これだからオタクは......」

「止めなさいっての麗。ほら、藤間も歌い終わったんだから席付きなさい。保寺さんが話できないでしょ?」

 伊緒が麗の頬を軽く小突く。わずかに麗の口から快楽の混じった音が出たような気がしたが、伊緒は無視することにした。

「ありがとね、伊緒。じゃ、本題に入るとしま」

 紅音を遮る、ドアのノック音。

「すいませーん、ご注文されたメニュー持ってきました。」

 部屋のドアが空くと、『ケーヤ』の店員が焼きたての肉とデミグラスソースの匂い漂うハンバーグと、コンソメのフレーバーとケチャップが付いた山盛りのポテトフライを伊緒達の机に置いていく。

「......頼んだの誰よ?」

 伊緒がスマホを弄りながら、わかってはいるが津瑠子に目線を移す。

「ボクだけど、お腹空いたし。」

「お前そういう時は他の人も何頼むか位聞くだろ!?」

「仕方ないだろ、ボクの歌う番すぐだったんだし。」

「すいません、ハルさん。ツルさんそういう人付き合いあんま上手じゃないんで......」

 呆れ果てる麗にフォローしようとして追撃を加えるはづき。 

「いんじゃない?私もお腹空いたし。もう何なら皆なんか頼む?ここの優待券ならまだあるから大丈夫よ?」

 白色の長財布から、『ケーヤ』の株主優待券を引っ張り出しビラビラと靡かせる紅音。

「え!?いいの!?でも悪いよ保寺さん。タダでさえ部屋代も出して貰ってるのに、ここでご飯も奢ってもらうとか流石に......」

「いいんじゃない、伊緒ちゃん。紅音ベニオンは昔からそういうやつだから。使えるものは使っちゃいなよ、私は止めとくけど。」

 遠慮する伊緒に、優しく微笑みかける麗。

「あら麗、ダイエット?そういや肥えた?」

「アンタに借り作りたくないからよ!!察せよ!!」

「今のはワザとなんだけど、麗の言う通りよ伊緒。態々ここに呼んだのは私なんだから、Hospitalityおもてなし位はするわ。『ケーヤ』位ならたいした額でも無いしね。勿論、武尾さんと藤間さんの分も出すわ。」

「な、いいのか!?凄いな保寺!!」

「『保寺』のお家パねぇっス......ヤスさんはセレブの中のセレブ......まさにセレベストッ!!」

Right,Knowでしョ~~~ッ?」

 ガッ!!とはづきの首元に喜びながら右腕をまわす紅音。思わず釣られて笑顔になるはづきと津瑠子。

「何、このホッコリとした空気は。さっきまであんたら殴り合いしてたのに。」

「考えたら負けじゃない。紅音ベニオンのペースに乗せられたら基本こんなんよ、こんなん。」

「厄介だなぁこの人......」

 フロートの乗ったアイスココアを飲み干し、伊緒はスプーンについたバニラアイスを舐めた。

「ねぇ、伊緒ちゃん......」

「何よ?」

「今のもっかいやってくれる?スプーンをペロってやるやつ。」

「はぁ!?」

 伊緒の両肩をガッシリと掴み、血走った眼で訴えてくる麗。

「おいおい参ったわ......私としたことがこんなシャッターチャンスを逃すなんてッ!!」

「つくづく思ってたけどお前マニアックにも程があんだろ!?」

 掴む麗の頬にビンタを決める伊緒。

「いやいやミムさん!!ミムさんはなんだかんだでマニア受けいいんでスって!!よく見ると揉みごたえのある太ももにキッツイ眼光とか。」

「武尾さん、あなたわかってるじゃないぃ!!.....いや、伊緒ちゃんの魅力を理解しているということは私のライバルぅ!?許さないわよ!!」

「ややこしくすんじゃねえタケェ!!つか私の事デブだと思ってたんかお前!!」

「え、そうでしょ?『ソドブリ』で寝不足な上に菓子ばっか食ってるし。いんじゃないんスか?こんだけ求められてて、羨ましい限りっスよ。ま、はづきよりは見てくれは悪いでスがねぇ。」

 伊緒を小馬鹿にしながら、はづきは背丈の割には大き目の胸を突き出す。

「あぁ!?おめえも中学ん時より太くなってるじゃねえか?なんだこの駄肉!?」

「はづきは発育いいっスからねぇ。こう見えても燃費もよろしくて。」

「あぁ、あのオフ会でいた週5ラーメンに揉まれたの?どうりで?」

「テメェ!!その1件ではづきは色々と言いてぇことがあんだよ!!ずっとずっとはづきから逃げやがって豚足課金厨!!」

「くっせえもん通しで仲良くできて良かったじゃないか。お似合いだよ、お!!似!!合!!い!!」

「私は太い伊緒 ちゃんのが好きよ。」

「健康グラビア野郎はすっこんでろ!!」

「っス!!」

 伊緒とはづきは同時に麗の頬をつまむ。

「なぁ保寺、このハンバーグをハンバーガーにしたいんだけどパン頼んでくれない?あと同じのも一つ。」

「金なら払ってやっから好きにしろよ......」

 ハンバーグを半分平らげた津瑠子に頼まれ、死んだ魚の眼で紅音はタブレットの注文画面をタップした。

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