第5話 フル・フォールスをプロデュース
「つなわけで!!伊緒ちゃんちでビデオ見る会開始!!」
「Huu!!」
「焼き直しかよ、はよすすめろや。」
殴られて真っ赤になった鼻をこすりながら、麗は二度目の鑑賞会開始の音頭を取る。呆れながら、紅音のもってきたアイスをもっちゃもっちゃと食べながら伊緒は野次を飛ばした。
「まあまあ、ちょっとグダっちゃっただけだからさ。」
「いや、原因はお前らだからな。あ、このアイス美味しーね保寺さん。皮薄くて中のアイス見えるのに、モチモチとしてて抹茶がいい感じで。どこの買ってきたの?」
「気に入ってくださったなら何よりです。自社製なんですよ。」
「へー自社製ね......自社ぁ!?自家製でなく?」
予想だにしていなかった単語が紅音の口から出て甲高い声が出てしまった伊緒。
「えぇ、今度うちの会社で出すやつをちょっと貰ってきたんですよ。せっかくなんで試供も兼ねましてね。」
「うわすっげ、マジでご令嬢だったんだ保寺さん。これ凄い嬉しいけどなんかお返しできるのあるかな私......」
「
「高貴だ......あなた貴族だよ......」
紅音に感激の意を示しながら、伊緒は2つ目のアイスに手をかける。
「あのー、伊緒ちゃん?グダるの嫌がってた子はどこいっちゃったのかなー?あとそのアイス私のも残しといてね?イチゴがいいんだけどさ。」
「悪いわね。イチゴは作ってないのよ。」
「はぁつっかえ......」
麗はがっかりとした視線で紅音を見る。手元にはバニラ味のアイスを乗せながらだ。
「出してほしければ商品を買ってアンケートをよろしくね。」
「はいはい宣伝ご苦労。出てほしいから買っとくわよ、ってうわこれうめぇ!!名前なんてーのさ?」
「皮の薄さとモチモチ具合が売りだから、『ムチャうす』って名前で売ろうか、って話は出ているのだけれど。」
「成程。次の会議かなんかで名付けたやつの首飛ばした方がいいわね、それ。」
「麗に同意だわ。そうだ、最初の映画は私からでいい?」
伊緒がレンタルビデオ屋の袋からDISCを取り出す。
「いいわよ伊緒ちゃん、何借りてきたの?」
「これよ、『お前は誰だ。』。よく宣伝してたから気になってたけど結局行けなくてさ。」
「ああ、流行ってましたね。CMで男女が『お前は誰だ!?』『お前は誰だ!?』ってやってたやつ。主題歌もサビならしょっちゅう流れてたから覚えてますよ、バンバンバンドをーっての。」
「流行ってたよねー、『まさか、引き込まれてる!?』って絶叫するやつ。」
当時のCMを再現しているのであろう、麗が両手をあげおぉーんと叫ぶ。
「当時から思ってたんだけど、色々混ざりすぎじゃないの?これ?」
「バリバリ混ざってるからね。お饅頭ってやつ?伊緒ちゃんも見たらわかると思うよ。」
「お饅頭?あぁ、オマージュのことね。」
「言いましたけどぉ?オマージュって。」
「麗、まるで知ってるような言い方ね。見たことあるの?」
「まぁね、志郎と、弟、いや、隣の部屋に住んでる男と一緒にね。」
不機嫌そうに、紅音に答える麗。
「言い直す意味is何?まあ、うちにも弟いるしだいたいウザいけどさ、一緒に映画見るくらいには仲いいんじゃん麗のはさ。」
「そうね、ただ映画見たいとかなら可愛いもんだと思ったんだけどさ、『お前は誰だ。』、公開してる週によって貰える特典が違ってさ......」
「あー、周回目的ってやつ?でもそん位なら今時の映画珍しくないでしょ?」
「カップル特典......」
「へっ?」
「公開時にさ、恋人通しで見てキュンキュンする映画、とかに選ばれたのね『お前は誰だ。』は。で急遽カップル特典なる謎の特典が加わったのね......なんだったっかな、グリーティングカード付きの指輪の形したキーホルダーみたいなやつ。」
「
「『姉ちゃん、映画みない?チケ余ってるんだけど?』みたいなことを珍しくいうわけよ、あの男はさ!!映画館行ったら特典渡されるのね?私はそういうのあんま興味ないし、タダで映画見れるし、飲み物も奢ってくれるから志郎にあげたわけよ特典。」
「うわ、もうやな予感しかしない。」
「そしたらアイツ速攻オークションに売りやがってさ!!いくらだと思う!?7000円よ7000円!!どうやらあんま作ってなかったらしくってさ!!私はタダで貰える7000円をあの野郎にみすみす渡してしまったのよ!!何より恋人だと思われたことがムカつく!!顔とか見ればわかるだろ多少は!!」
その時を思い出したのか、怒りを込めながら麗は紙コップに入れたポップコーンを雪崩の様に流し込む。
「そりゃ気分的にも大損だわ......ちゃんとオクの相場は見とかないとね......」
「そんな値段で買う方も買う方だと思うのですが、まぁ、価値観なんて人それぞれですからね。でも、タダで映画見れたんだからいいじゃないですか。」
「そうだけどぐほっ!!」
「咽るほど食うな!!ほらこれでも飲みなさいって。」
伊緒がコップに注いだ麦茶を麗に渡す。受け取るや否や、一気飲みし荒い息を立てながら落ち着く麗。
「あ、ありがとう伊緒ちゃん......危うく下らない死因で新聞に載るところだったわ.....」
「......あんたこないだ私にやったこと覚えてないの?まあいいわ、いい加減に見ますかな、一発目は『お前は誰だ。』。スタート!!」
伊緒はDISCをプレーヤーに差し込み、再生ボタンを押した。
約2時間後。
「なーんか消化不良な終わり方だったなー......結局あの二人は互いに一つになって終わって幸せになれたってこと?散々人殺しといて?」
伊緒が頬杖を突きながら、『お前は誰だ。』のスタッフロールを眺める。
「人間を食わないと生きていけない生体兵器と、そのコピー元の悲恋ですか、ねぇ。昔から人外との恋愛ってのは色々ありますが......」
「しかしまあ、自分と似たような顔した人間と恋なんてできるもんなんかねぇ?志郎がボロ泣きしてたから聞いてみたんだよね。そしたら『姉ちゃんは何もわかってねぇ!!』つってキレられちゃった。」
「余韻ブチ壊しにも程があらぁ......弟可愛そう。」
「だってありえなくない?自分の顔した兵器がその辺の人間ころころしてて、はい、運命の人だなんてならないでしょ?」
「だから止めに行ってたんじゃないんですか......貴女という捻くれ者は......」
紅音が呆れながらコーラを飲む。
「でもアクションシーンは凄かったよね、『ホントは死にたくて仕方なかったのに、今は生かす為に生きていたい。』つって覚醒したシーンとかね。骨を釘にして打ち出すところとか、血管で締め上げて切断するところとか!!いいな、『ソドブリ』で武器追加しとこ、ワイヤーとパイルで再現できるかな?でもワイヤーは移動用にしか使えないからウィップかなー......」
伊緒はスマホを弄ると、『ソドブリ』を起動した。三田村伊緒とういう女は、その時気に入ったものの影響を受けやすい単純さをもつ女だ。
「なんだかんだで伊緒ちゃんは気に入ったようね......ならいいわ。伊緒ちゃんのクローン......私を病的な位愛してくれるけど人食いの伊緒ちゃん......アリだな!!」
「人食いにだって食うもの選ぶ権利位あると思うわよ......」
「そうね、
「さっきの映画でやってたわね、喉への打撃の後に首元に一撃、でしたっけ?」
平然とした顔で麗の喉元に打撃を加えた後、紅音はくいっと中指を曲げる。
「あ、あんたもわりと気に入ったみたいね......」
「名作なだけあるわね。」
3人がそれぞれ、『お前は誰だ。』の余韻に浸っている時だ。
「伊緒姉ぇ、入るよ?」
ドアをノックする音と、済んだ少女のような声が部屋に響く。
「入りなー。」
「どちら様?さっき言ってた弟さん?」
「まぁね。」
「失礼しま、っておぉ!?痴女が二人!?」
ガチャリ、とドアを開ける音とともに、伊緒の目つきを柔らかくしたような細身の眼鏡をかけた少年が、サンドイッチを載せた御盆を持って現れた。
「い、伊緒ちゃんのクローン!?完成してたの?」
「弟だっていってんでしょタコ。ほら、
「初めまして、伊乃っす。姉がご迷惑をかけてます。ホントに、いや、マジで。」
「伊乃ぉ......」
伊緒が苦い顔で伊乃を睨む。
「いや、絶対伊緒姉この二人に迷惑かけてるじゃん。どうせゲームに夢中になって生返事してたりとか、小遣い足りなくて泣きついたりとかしてるんでしょ?」
「生えてる方の伊緒ちゃん凄いわかってるわね。」
「おい、生えてる方のって俺の事かよ黒おっぱい。」
「ぶっ!!」
「
伊乃が笑顔で麗に毒づき、伊緒と紅音が思わず吹き出す。
「な、黒パイオツって!!私そんな黒ずんでないわよ。」
「麗、突っ込むとこそこなの?」
「じゃあ麗さん、俺に見せてくれないかな。気になるし。てか何カップ?彼氏いる?寿司にガリのっけて食うタイプ?」
先ほどの笑顔のままだが、明らかに鼻息を荒げながら伊乃は麗を質問攻めにしている。所詮は中学2年の男子だ。
「三田村さん、弟の男として嫌な部分を目の当たりにしてどんなお気持ちかしら?」
「......正直麗じゃなければちぎってたわ、そこのL字カッターで。その後自首せず逃げるわ......」
「くっ、ムカつくけど伊緒ちゃんみたいな顔にこの声はこれはこれでいんじゃないか、というかなんかさっきの映画の気分がわかってきたような......」
言葉攻めうなものによる快楽からなのか、くねくねと腰を揺らす麗。だんだんと伊緒は苛立ちを隠せなくなっていく。
「伊乃!!あんた調子乗るんじゃないわよ。私は見たどころか触れさせてもらったもんね!!私のだもんね!!」
「
伊緒の混乱した発言に思わず呼び捨ててしまう紅音。
「え、伊緒姉と麗さんそういう関係だったの?スールってやつ?女子高パねぇなおい。で、どんなだったの伊緒姉ぇ!?」
「伊緒ちゃんが私の事そう思っててくれて私嬉しっ......!!」
顔を真っ赤にした伊緒の左フックが、伊乃の顔面を抉ったのと同時に、麗は鼻血を吹きながら仰け反り失神した。
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