新しい考えと、それをくれた人

雪野 ゆずり

第1話

 人は皆予期しない出来事に遭遇した時、必ずそれを『偶然』としてかたずけてしまう。きっとそれは、そこの『意味』を知るのが怖いから。意味を知って、自分はどうしたらいいのか分からないから。だから、『偶然』にしてしまう。だから、目を背けてしまう。私も最初はそうしようと思った。『偶然』そうやって片づけようとした。

 でも、それは間違いなんだ。


 出会い、普通の人は春とか、始まりの季節とか、イベントとかを想像すると思う。私もそうだと思ってた。

 でも、私は違った。確かに季節は春だったけど、それはイベントとか、楽しい場所じゃなくて、病院での出会いだった。

 私はその日、友達の明日香ちゃんのお見舞いに来ていた。と言っても、もう終わって帰る途中だった。廊下で窓の外を見つめている同い年くらいの男の子がいた。ただ、変わっているのは白いニット帽をかぶっている事だった。

 普段の私なら、声もかけずに帰ってしまっていた。でも、なぜかその日だけは声をかけてしまった。

「こんにちは、何を見ているんですか?」

 男の子は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに笑って「雲を見てる」と言った。

「雲?」

「うん、夕焼け空の雲って綺麗で、いつもこの時間になるとここに見にくるんだ。」

「そうなんだ。」

 私も雲は好きだけど、毎日見てはいなかった。しかも、夕方のこんな時間に・・・

「あの、名前聞いてもいいですか?」

「僕?」

 こくりと頷く。

「秋野楓、20歳。入院中なんだ。」

「え?同い年だ!」

「本当?」

「うん。私、三波咲良。同じ20歳。私は友達のお見舞い出来たの。」

「同い年か…。」

「うん!嬉しいな!ねえ、楓くんって呼んでいい?」

「いいよ、俺も咲良ちゃんって呼んでいい?」

「もちろん!これからよろしくね、楓くん!」

 私がそう言うと楓くんは少し寂しげに「うん」と言った。


 次の日、明日香ちゃんのお見舞いに行くと少し嬉しそうな表情をしていた。

「明日香ちゃん、何か良いことあったの?」

「咲良、聞いて聞いて!明日退院出来そうなの!」

「本当?良かったね、おめでとう!」

「ありがとう!」

「あ、でも・・・」

 楓くんの事を思い出して、思わずそう呟いてしまった。

「へ?どうしたの?」

「う、ううんなんでもない!」

「そう?」


 帰る時に、また同じ所で楓くんに会った。

「楓くん、こんにちは」

「あ、咲良ちゃん。今日もお見舞い?」

「うん。今日も、夕焼け空は綺麗?」

「うん、とても。」

 楓くんはそう言ってとてもうれしそうな顔をした。本当に、夕焼けが好きなんだな。

「そっか。…あのね。」

「ん?」

「友達が、退院するんだ。」

「そうなんだ…。良かったね。」

 そう言った楓くんの顔は少し寂しそうな顔をした。

「それで、あの、友達退院しても楓くんのお見舞いに来てもいいかな? 」

「え?」

 迷惑なのは分かるんだけど、なんだか楓くんともうお話しできないのは寂しくて、そうお願いした。

「いいよ。」

 でも、楓くんはあっさりそう頷いてくれて、嬉しかった。

「本当!?」

「うん。僕、405号室なんだ。良ければ毎日来てよ。」

「行く行く!やった!また、いっぱい話せるね!」

「うん。」

 そう言う楓くんの顔には、笑顔が広がった。


 明日香ちゃんが退院した日は、残念ながら行けなかったけど、その次の日から毎日行った。

 この日もいつも通りの時間に行った。

「こんにちはー!」

 そう入って行くと、若い女性がいた。

「あ、ごめんなさい、お話中でした?」

 すると、楓くんが「大丈夫だよ。」と言ってくれた。

「咲良ちゃん、こんにちは。紹介するね、僕の姉の…。」

「秋野遥です、はじめまして。」

「あ、ご丁寧にありがとうございます。えっと、三波咲良です。」

「そうですか、話は楓から聞いてましたが、本当にかわいいお嬢さんですね。」

「ありがとうございます。遥さんもとても綺麗です!」

「ありがとう。」

 遥さんはそう言うと楓くんに「また来るから」と言って出て行ってしまった。遥さんの足音が聞こえなくなるのを待ってようやく話し始める。

「ごめんね、兄弟水入らずにお邪魔しちゃって。」

「ん?いいよ、ねーさん帰るとこだったし。」

「そう?それなら良いけど・・・」

 そんな事を話していてふと私は点滴台に目がいった。

「あれ?楓くんって点滴してたっけ?」

「え?あ、ああ、これね。昨日からなんだ。食欲が最近わかなくて、ご飯残してたら先生に点滴しようって言われちゃった。」

 ご飯が食べれないって、大丈夫なのかな?

「そうなの?大丈夫?お腹空かない?」

「平気だよ。あ、今日これから先生来るからそろそろ・・・」

「そ、そっか。じゃあ、また明日来るね!」

 少し心配だけど、楓くんがそう言うなら、仕方ないよね。

「うん、またね。」

 でも、戸を閉めかけた時、ものすごい咳が聞こえて思わず楓くんに駆け寄った。

「大丈夫!?」

「う、うん」

 ゴホゴホ、という咳を数回繰り返すと、ようやく収まったのか楓くんは「ふー」と息を吐いた。

「本当に大丈夫?」

「うん、心配させてごめんね。もう大丈夫だから。」

「なら良いけど・・・あんまり苦しかったら先生に言うんだよ?」

「分かってる。」

 心配ではあったけど、私はそのまま大人しく帰った。


 咲良ちゃんが帰った後、すぐにねーさんが戻って来た。当たり前だ。母親を呼んで来ただけだから。

「咲良ちゃん、帰った?」

 ねーさんはそう言った。僕は頷いた。

「そう…。」

 少しの沈黙の後ねーさんは「言ったの?」と聞いてきた。

「なにを?」

「病気の事よ。」

「言ってない」

 僕が言うとねーさんは「やっぱり」と言った。ここでようやくかーさん口を開いた。

「咲良ちゃんってお友達?」

「うん、最近毎日のように来てくれてる。今日もさっきまでいたよ。」

「そう、今度ちゃんと挨拶したいわ。」

「お母さん、そんな事言ってる場合じゃないよ!」

 ねーさんが大きな声を出したから少しびっくりした。

「これから楓の病気について話があるんだよ!?」

「そうね…。でもね遥、楓のお友達になってくれた子に挨拶くらいしなきゃ親としてしめしがつかないわ。」

「…。」

 ねーさんは、何も言えなかった。

 僕は、急性骨髄性白血病になってしまった。早期発見までではなかったけど、それでも、今まで薬物療法で何とかしてきた。だからこそ、今日の話が怖い。

「遥、お母さんだってこの後の話が怖くない訳じゃないのよ?でもね、だからこそこういう話をしたいの、分かって。」

 それは、かーさんも同じだった。だから明るい話をしたんだと思う。

「分かったわよ。」

 ねーさんも同じことを思ったのかそう言った。直後先生が入って来た。


「最初に、これからお伝えする全ての事に、覚悟を持って下さい。」

 先生は部屋に入るなりいきなりそう言った。

「僕は大丈夫です。続けて下さい。」

「楓…。」

 ねーさんがそう言って覚悟を固めた。かーさんは元々覚悟が出来ていたみたいだ。

「では、楓くん、君の白血病はもはや手のつけようがない…、薬物療法では…。」

「そんな!」

 ねーさんの悲鳴が聞こえた。かーさんは固まっていた。でも、僕は先生の言い方に疑問を持った。

「先生、薬物療法では、何もできないんですよね?」

 僕がそう言うと、先生はなんだかうれしそうな顔をした。

「うん、そうだよ。」

「…ほかの方法があるんですか?」

 その言葉にかーさんたちが顔を上げた。

「良かった。まだ、君は諦めてはいないんだね。」

 先生は満足そうにそう言うと、一枚の資料を出してきた。


 昨日のことがあってすごく心配だったけど、部屋に入ったら安心した。だって楓くん、すごくいい顔してたんだもん。

「あ、咲良ちゃん!来てくれたんだ!」

「こんにちは、楓くん。何かいいことあったの?」

 私がそう聞くと楓くんは「分かる?」って照れたように聞いてきた。

「実はね、昨日先生から『骨髄移植』の話をもらったんだ。」

「え?い、移植?」

 私がそう言うと楓くんは「しまった!」というような顔をした。

「僕、咲良ちゃんに言ってない?」

「え、えっと、たぶん…。」

 そう言うと、楓くんはあからさまにやってしまった!って感じの顔をした。

「ごめん、考えてみたら僕、何も話してないよね。」

 そう言うと、もう一度「ごめん。」といった。

「ううん、大丈夫。…今からでいいから、教えてくれる?病気の事だけじゃなくて、楓くんのことも。」

「咲良ちゃん…。」

 きっと私は、この時、もう、この人を好きになってしまったんだと思う。だから、私は楓くんのことを知りたいと思った。

 でも、それだけじゃない。なんだか、喜んでるのに辛そうな顔をしている楓くんが気になったんだ。

「私に話せること、全部教えて。愚痴でも何でもいいから。」

「…ありがとう。すごく長くなるかも。」

「いいよ、今日はお休みだし、早めに来たから時間あるんだ。」

「そっか。」

 そう言った楓くんの顔を私は一生忘れたくないと思った。


 僕は本当に全部言ってしまいたいと思った。

「僕ね、急性骨髄性白血病なんだ。もう、薬物療法では手を付けられないらしいんだ。」

 僕がそう言うと咲良ちゃんは息をのんだ。でも、何も言わなかった。本当に全部聞いてくれるんだ。

「でも、昨日ね、骨髄移植をすればなんとかなるって先生が言ってたんだ。」

「そうなんだ。良かったね。」

  咲良ちゃんはそう言って笑った。僕も頷いたけど、正直、あんまりいいことじゃないんだ。

「でもね、ドナーになってくれる人がいないんだって。だから、移植ができないって言われたんだ。」

「え…?」

 そう、別に特別な血液型じゃない。それでも、ドナーの数が足りてないんだ。だから、移植できない。

「かーさんもねーさんも、血液型が違くて、ドナーになれない。今はただ、待つしかできないって、そう言われた。」

「…」

 僕の言葉に何か言おうと咲良ちゃんは口をパクパクさせていた。

「…お父さんは?」

 やっと聞けたのはその言葉。『お父さん』なんて言葉、久しぶりに聞いたな。

「…とーさんは僕が小さいころにどっか行っちゃった。」

「そうなんだ。ごめんね、デリカシー、なかったね。」

「ううん、平気だよ。」

 僕は、とーさんのことを知らない。顔も、覚えてない。だから、ドナーの話になった時、考えもしなかったんだ。多分それは、かーさんもねーさんも同じ。じゃなきゃ、とっくに探してる。

「あの…、楓くんって、何型?」

「え?B型だけど…。」

 急にそんなことを聞かれて思わず答えてしまった。

「そうなの!じゃあ、私と一緒だね!」

「え!そうなんだ!」

 そう答えてからハッとする。

 もしかして、咲良ちゃん…。

「その、私のでよければ…。」

「ダメだよ。」

 僕は咲良ちゃんの言葉を遮った。

「で、でも…!」

 そう言う咲良ちゃんに対して僕は首を振った。

「確かに、もっと生きたい気持ちはあるよ。」

「それなら…どうして?」

「…聞いてくれる?僕の話。」

 僕の、しょうもない話。面白くない話。

 …情けない、話。

「聞きたい。」

 なのに咲良ちゃんは真剣な顔してそう言ってくれた。ああ、やっぱり。初めてだ。初めて、僕の話を真剣に聞いてくれる人が現れた。

「楓くんの話、聞かせてほしいな。」

 こんな風に、僕の目を見て、優しく笑いかけてくれる人が、ようやく現れたんだ。

「ありがとう。」

 僕はそう言ってから話し始めた。


「こんにちは!」

 楓くんから話を聞いた日から、なんか、遥さんと楓くんのお母さんが「私のことを知りたい!」って言ってくれて、急にお泊りすることになった。

「いらっしゃい、咲良ちゃん。遥は今買い出し言ってるから、帰ってくるまで楓の部屋で待っててくれる?今日寝てもらうのもそこだから。」

「はーい、お邪魔します!」

 楓くんの部屋はすごくきれいだった。

「きれいでしょ?楓が入院する前からそのままなの。昨日少し掃除しただけなのよ。」

「そうなんですか。…きれいですね。」

 こんなにきれい好きなんだ。楓くんのことを知るたびに胸が痛む。

「…ゆっくりしててね。」

 そう言ってお母さんは出て行った。

 荷物を部屋の隅において、ふと楓くんの勉強机を見る。机の上にたくさん並ぶ参考書。隣にある本棚もほとんど参考書で埋まってる。全部、医学についてのものだった。

 一つだけ、手に取って開いてみるとびっしり書き込みがされてる。

 あの日教えてくれた楓くんの夢。それがどれだけ本気だったのかが分かってしまった。

 無意識のうちに涙がこぼれて、止まらない。楓くんの大切なものが、濡れてしまいそうで、必死に止めようとするけど、それは全然止まってくれない。

 楓くんの夢も、目指したものも、もしかすると叶わないかもしれない。それでも、彼は待ってるんだ。お父さんが現れることを。

「探したい…。」

「何を?」

 口から不意に出てしまった声を拾ってくれた人がいた。

「遥さん…。」

 遥さんは優しく部屋の前にいた。ううん、楓くんのお母さんも。

「探し物、私たちもあるんだ。」

「え…?」

 もしかしてそれは同じなんじゃないのかな?

「リビングに行かない?」

「…っ、はい!」

 リビングでお二人と向かい合って、どこから話せばいいのか分からないでいると、遥さんが最初に内を開いた。

「私たちの探し物は、楓の父親。」

「お、同じです!私も、楓くんのお父さんを探したくて…!」

 私がそう言うと遥さんとお母さんはなんだか申し訳なさそな顔をした。

「でも、どこにいるのか全然分からなくて…。結局今こうなってるの。」

「そうなんですか…。」

 どうしよう…。どうやって探せばいいのかな…。どこから探そう…。

「…それでも、協力してくれるかしら…?」

「え…?」

 見ると遥さんとお母さんはすごく不安そうな顔をしてた。そっか、こんな状況だから私が協力しないと思ったんだ。

 でも、そんな心配はいらない。

「もちろんです!今、どうやって探そうか考えてたんですよ!」

 私がそう言うと、二人とも、信じられないみたいな顔をした。しばらくして遥さんが「本当…?」と言った。

「こんな絶望的な状況で、私たちも何回も挫折した。それでも、手伝ってくれる?」

「はい!私、仕事柄よく日帰り旅行みたいなことするんです。だから、少しは手伝えるかなって…。私でよければ手伝わせてください!」

 そう、いろんな所に行くし、仲間だっていっぱいいる。それに…。

「それで楓くんが助かるなら、やらせてください。」

 私がそう言うと、遥さんたちはようやく笑った。そうだよ、楓くんが助かるなら、なんだってやる。

 私は楓くんが大好きだから。 

「ありがとう!」

 お母さんはそう言うと深く頭を下げてきた。

「ちょ、やめてください!そう言うのはお父さんが見つかってからにしましょう!あ、そうだ!名前、名前教えてください!お呼びする時、なんて言っていいのか分からないので!」

「ああ、そうね。」

 そう言ってようやく頭を上げたお母さんはまっすぐ私を見た。

「秋野泉美です。よろしくね。」

「いずみさん…。素敵な名前ですね。」

「ふふ、ありがとう。私も大好きな名前なの。」

 泉美さんは笑った。

「そう言えば、咲良ちゃんの仕事って何なの?」

 遥さんにそう聞かれて、一瞬なんて答えようか迷ったけど、正直に答えた。

「小説作家です。よく取材に行ったりしてて、仲のいい人もたくさんいるので協力してくれると思います。」

「へー!すごい!ねえ、今度お金渡すから読ませてよ!」

「いいですよ!今度持ってきますね!」

「やった!楽しみにしてる!」

 そう言ってはしゃぐ遥さんはなんだか可愛くて、すごく大人に見えてたけど実は同い年くらいなんじゃないかな?

「さて、そんな話してたらもうこんな時間ね。夕ご飯にしましょうか。」

「あ、ほんとだ!私手伝うよ!」

「私もお手伝いします!」

 私たちがそう言うと泉美さんは「じゃあ、お願いね!」と言った。

 その日は久しぶりにすごく楽しい夜になった。


 次の日の朝、起きていつも通り髪を整えてたら遥さんに呼ばれた。

「どうしました?」

「咲良ちゃん、そこの椅子座ってもらえる?」

「…?はい。」

 言われるがまま鏡の前の椅子に座った。

「いや、咲良ちゃん髪長いからさ、その、少しいじってもいいかな?」

 そう言って遥さんは櫛や髪ゴムを持ってる。お姉ちゃんが欲しかった私にとってはすごく嬉しい申し出だった。

「もちろんです!むしろお願いします!」

「やった!じゃあ、じっとしててね。」

 そう言って遥さんは私の髪を丁寧に梳かし始めた。

「…私ね、ずっと妹が欲しかったの。」

 髪を梳かしながらそんな話をし始めた。

「妹の髪を結ったり、妹と買い物に行ったり、恋バナしたり…。友達がそんな話をするからずっと羨ましかったんだ。」

 そう言ってから遥さんはにっこり笑った。

「でもね、私、楓がいてくれたから留守番の時とか寂しくなかったんだって思ったの。」

 そう言う遥さんは、なんだか寂しそうで、こっちまで切なくなった。

「…なんてね。ごめんね、こんな話して」

 そう言って遥さんは笑った。

 でも、なんだか私に話を聞いて欲しかったんじゃないかなって思った。

「私も、遥さんが羨ましいです。」

「え?」

「私、一人っ子なんです。しかも、親は共働きで夜遅くに帰って来るから、一人でお留守番するのが嫌いだったんです。」

 これは本当の事だった。でも、誰にも話したことはなかった。

「だから、お姉ちゃんに髪を結ってもらったりするのが夢だったです。」

「…そっか。なら、うんと可愛くしてあげなきゃ!腕が鳴るな~!」

 そう言って遥さんは楽しそうに私の髪を触った。ほんとに夢が叶ったみたいだな…。

「よし、出来た!」

 しばらくして遥さんがそう言った。鏡を見ると、髪の両脇から真ん中まで編み込みがされていて、それとは別に長い髪がきれいにまとめ上げられている。そろそろ暑くなってくるからこの季節にはぴったりだ。

「どう?我ながら可愛くできたと思うんだけど。」

「わあ、こんな髪型初めてです!」

「ほんと!?良かった、気に入ってくれたみたいね。」

「はい!」

 私がいろんな角度から髪型を見ていると、遥さんが少し顔を近づけてひそひそと言った。

「好きな男の子と会うならこれくらいお洒落しないとね!」

 正直図星で、びっくりした。

「へ!?な、なんで、知って…!」

「分かるよ!私だって女だもん!ふふ、そっか、咲良ちゃん楓の事、好きなんだ。」

「…楓くんには内緒ですよ?」

「分かってるって!」

 そう言って遥さんは笑った。うう、まさかこんなに早くバレるなんて…。恥ずかしい。

「は、遥さんは好きな人とか、いないんですか?」

「え?わ、私?」

 私がこくりと頷くと遥さんは恥ずかしそうに笑った。

「実は、一人だけ…。」

「え!いるんですか!?」

 遥さんはさらに顔を真っ赤にした。こ、こんな遥さん初めて見た。

「そ、そんなまじまじ見ないでよ!恥ずかしいじゃん!ああ、もう、他の人には内緒ね。」

「はい!」

 私がそう言うと、遥さんは恥ずかしそうだけど、嬉しそうに笑った。

「嬉しいな、いつか妹が出来たらこんな話するんだって、そう思ってたんだよね。」

「私も、憧れだったんです!」

 私は、遥さんにそう言った。遥さんはとっても優しく笑ってくれた。

「なんだか似た者同士だね、私たち。」

 私もそう思った。だから、私も同じように笑った。


 咲良ちゃんがかーさんたちと一緒に来たときはびっくりしたけど、うちに泊まったって聞いてもっとびっくりした。いつの間にそんなに仲良くなったんだか…。僕がそう聞くと咲良ちゃんは笑った。

「実はお泊りでもっと仲良くなってたりして!」

「ええ?僕も咲良ちゃんと仲良くなりたいな!」

 僕がそう言うと咲良ちゃんは少し恥ずかしそうに「私も…」と言った。

「ほんと!?」

 僕はすごく嬉しくてつい声が大きくなってしまった。

「ご、ごめん…。」

「ううん…。それに、ほんとだよ。私も、楓くんと、仲良くなりたいな。」

「嬉しいな!咲良ちゃんも同じことを思ってくれてたなんて。」

 僕が言うと咲良ちゃんも笑ってくれた。とても優しく、でも、とてもうれしそうに。

「あ、ごめん、そろそろ先生が来ちゃうんだ。咲良ちゃん、今日はここで。」

「あ、そうなの?私もこれから仕事があるんだ。また明日来るね。」

「うん、また明日!」

 そう言って咲良ちゃんは帰っていった。

 それから間もなくして先生が来た。

「…先生、ドナーのほうは?」

 先生が来るなりそう聞いてしまったけど、先生は静かに首を振った。

「そう、ですか…。」

「でも、諦めてはいけないよ。君を大切に思ってくれる人がいる限りね。」

「…はい。」

 その後は薬の話や病状の話。咲良ちゃんにはあまり聞かれたくない話ばかりだった。

 先生との話の後、僕はノートを取り出した。最近、日記をつけることが日課になってる。先生との話やその日考えたこと、咲良ちゃんと話したことが主に書かれてる。なのに、かーさんたちの事やほかの人と話した事は全然書かれてない。不思議だけど、僕にとって大切なのは…。

 そうして今日も日記を書く。いつかこの思いを伝えられる日が来るように…。


 病院を出てすぐ、私は原稿を届けるために担当の出版社に向かった。

「あ、三波先生!お疲れ様です!」

「日比野さん、お疲れ様です。ご連絡した通り、今回分の原稿を届けに来ました。」

「お待ちしてました。少し話したいこともあるので、応接室へどうぞ。」

「分かりました。」

 そう言って応接室に通された。ソファーに座って待ってると、日比野さんが封筒を持ってきた。

「お待たせしました、まず、原稿をいただきますね。」

「はい、お願いします。漢字のミスとかあったらこっそり直しておいてください。」

「分かってますって。」

 私はよく漢字を間違えるから、日比野さんに直してもらうことが多い。ただ、その度にこまめに連絡をくれるから出来るだけ減らそうと思うんだけど、なかなか治らないんだよね。

「あ、そうそう、三波先生。実は先生宛にファンレターが来てたんですよ。今日はそれを報告したかったんですよ!」

「わあ、本当ですか!私、ファンレターもらうのなんて初めてです!」

 そう言って受け取ったファンレターは、とてもかわいらしいデザインできっと女の子かなって思ってしまう。私が書いてる小説は女の子向けだし。

「…これって返信すべきなんでしょうか?」

「いや、さすがにいいと思いますよ。相手も期待してないだろうし…。」

「で、ですよね…。」

 本当に初めてのことですごく動揺してるしどうしたらいいのか分からないけど、こういう時は日比野さんにいろいろ教えてもらうのが一番いいんだよね。

「まあ、大切な意見ですからしっかり保管しておきます!」

「それが一番ですね。」

「本当にありがとうございました。またよろしくお願いします!」

「こちらこそ。」

 そう言って私は出版社を後にした。この後遥さんと待ち合わせしてるけど時間あるし、喫茶店にでも入ってお手紙を読もうかな。そう思って馴染みの店に入る。ここのマスターが入れる紅茶が絶品なんだよね。

 紅茶とケーキのセットを頼んで席に着く。手紙を開く前に少しだけ前に出した話を思い出す。確か、お兄ちゃんを亡くした女の子の話だったよね。実際に同じ思いをした方の所まで行って話を聞いたから私にとってもすごく思い出深いものだった。

 そこまで思い出して手紙を開く。そこには女の子らしい可愛い文字で書かれていた。

『三波咲良先生

 初めまして、突然のお手紙、失礼します。今回の先生の作品を読んでどうしてもお伝えしたいことがあってこうして手紙を書かせていただきました。

 私も小さいころ兄を亡くし、今年7回忌の節目の年になりました。しかし、私の中ではまだ信じられなかったんです。兄がいないという事実に、どうしても向き合えなせんでした。

 そんな時に先生の小説を読みました。そこには私と同じ思いをしながらも前向きに生きている主人公が描かれていました。それを読んで私も前を向こうと思えました。こんな風に考えられたのも先生のおかげです。本当にありがとうございました。

 次の作品も楽しみにしています。』

 そうして終わった手紙にはたくさんの消しゴムの跡が残ってて、たくさんの思いが込められていた。初めてのファンレター。本当はお返事を書きたいくらい素敵な、お手紙で、こっちまで泣きそうになってしまった。

 もともと、誰かを笑顔にしたくて書き始めた小説にこんな言葉をくれるのはとても嬉しいことだった。

「ありがとうございます。」

 せめてと思って手紙に向かって小声でそう言うと、なんだか少しすっきりした。いつか、何らかの形でお礼が出来たらいいな。


 約束の時間に駅前に行くと、もう遥さんが待っていた。

「お待たせしました!」

「あ、咲良ちゃん!そんなに待ってないよ、安心して!」

 そう言って遥さんは笑ってくれた。

「それじゃ行こうか!」

「はい!」

 今日はこれから楓くん達のお父さんが昔勤めていた会社に行って手掛かりを探すつもり。遥さんが電話をしたら快く承諾してくれた。泉美さんはほかの用事で今日は来られないって言ってたな。

「実は昔、よくお父さんの職場に遊びに行ったんだ。それで、その時責任者だった人が快く了承してくれたの。」

「そうなんですね!なら、話も聞は!」

 そんなことを言ってる間にも目的地が見えてきて緊張する。遥さんも、若干緊張してるみたい。当たり前だよね、手掛かりが見つかれば楓くんが助かる。そう思ったらやっぱり緊張するよね。

「よし、行こう咲良ちゃん。手掛かりを探しに。」

「はい。」

 そうして入った職場の中で私たちは手厚く歓迎された。楓くんのことは伏せた。それがみんなのためだと思ったから。

「あの、それで昔勤めていた父の事は何かわかりますか?」

「それが社員全員に聞いて回ったんだが誰も知らないらしいんだ。きっと誰にも言わずに姿を消したんだろうね。」

「…そう、ですか。あ、あの、父が勤めていた時に仲が良かった方とかいらっしゃいますか?」

 それからもいろんな人に話を聞いたけど、何も収穫はなかった。

「ここまで収穫ないとは思ってなかったわー!」

 会社を出たとたん、遥さんはそう言った。私も同じ意見だったから頷いた。

「そうですね。まさか、ここまで苦戦することになるなんて…。」

「そうだねー、私もちょっと困ったな…。ああ!これからどうしよう!駅前でビラでも配る?」

「あ、いいですね!写真さえいただければビラなら私作ってきますよ!」

「え、いいの!?」

 私が言うと遥さんは目をキラキラさせながら言った。

「もちろん!私職業柄パソコンを使うの慣れてるんですよ!」

「良かった!私パソコンとかはさっぱりで…。たすかるよ~!」

「いえいえ、これくらいしかできないので…。」

「そんなことないよ!咲良ちゃんがいてくれるだけでかなり助かってるんだから!これからもよろしくね!」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします!」

 なんだか照れるけど嬉しいな。あんまり言われたことないし…。

「それじゃ、今日はもう暗いしここで解散だね!お疲れさま!」

「はい、お疲れさまでした!」

 そうして私たちは別れた。

 正直何も収穫がなかったのは残念だけど、落ち込んでる場合じゃないよね…。早く帰ってビラを作らなきゃ!

 家に帰るともう遥さんから写真が来てた。さっそくビラを作らなきゃね。その日はビラづくりと小説の続きを書いたりして少し寝るのが遅くなった。


 検査が終わって病室に戻ると咲良ちゃんが来てた。

「咲良ちゃん、待たせちゃったね。」

「あ、楓くん、大丈夫だよ。検査に行ってたんでしょ、どうだった?」

 咲良ちゃんはそう言ってくれた。咲良ちゃんはいつも僕のことを気にかけてくれる。僕は自分の事で精いっぱいなのに…。

「すごく良かったよ!最近はすごく調子がいいんだ!ありがとう、気にしてくれて。」

「そうなんだ、良かったね!」

 そう言って咲良ちゃんは笑ってくれた。この笑顔にいったいどれだけ助けられんだろう?なんだか、ずっと見ていたくなるな…。

「そういえば、今度近所でお祭りがあるんだよ!」

「そうなんだ!そういえば、ポスター貼ってあったな。いつも、行きたいなって思いながら見てるかも。そっか、近所なんだ…。」

「うん、私も行きたいなって…。ねえ、先生の許可が出たら、一緒に行かない?」

 咲良ちゃんがそう言うから、すごくびっくりした。

「え?でも、友達とかと行った方がいいんじゃない?」

 僕がそう言うと、咲良ちゃんは少し寂しそうに笑って言った。

「友達は彼氏と行くんだって…。だから、一人なんだ…。」

「そう、なんだね…。」

 最悪なこと言っちゃったな。

 そんな僕の心を知らずに、咲良ちゃんはなんともないように笑って言った。

「でも、楓くんと行けたら嬉しいなって思ってたから丁度良かったかも!…どうかな、行けそう?」

 笑って言ったのに、やっぱり不安そうな顔でそう聞かれると、いつも無理してるんじゃないかって心配になる。

「僕も行きたいな!先生に聞いてみるよ!」

「ほんと!ありがとう!二人で行けるといいね!」

「うん!」

 僕が言うと咲良ちゃんははしゃぎ始めて、それがすごく可愛い。お祭り本番はどうなるのかな?本当に楽しみだ!


 病院を出てから、私は明日香ちゃんの家に向かった。話があるって言ってたけど、今はそれより、楓くんとお祭りに行けるか気になって仕方ないんだよね。

「咲良、いらっしゃい!中入って!」

「お邪魔しまーす!」

 明日香ちゃんの家に入ってしばらくは世間話とかしてた。

「で、話ってどうしたの?」

「ああ、そうだった。ちょっと待ってて。」

「うん。」

 そう言って明日香ちゃんは部屋を出て行ってしまった。でも、しばらくして帰って来た。

「もしかして、その、ビラの事!?」

 明日香ちゃんが持ってきたのはこの前私が作ったビラだった。実はあのビラ、出版社にも置かせてもらったんだよね。

「そう。ねえ、咲良。この人の事、探してるの?」

「うん。ちょっと色々あってね…。」

 私がそう言うと、明日香ちゃんはすごく真剣な顔になった。

「明日香ちゃん、何か、知ってるの?」

「…咲良は、どこまで知ってる?」

「へ?」

 意外な質問に、つい聞き返しちゃったけど、明日香ちゃんが「教えて。」って、ちょっと怖い顔で言うから答えた。というか、なんでこの人を探しているのかを教えた。もちろん、楓くんの病気の話はせず「大切な人が探しているから」って少し誤魔化した。

「そう、大切な人が…。」

 話が終わると、明日香ちゃんはそう言って少し下を向いた。

 明日香ちゃんが何か知っているとしても、無理矢理聞き出す事はしない。それは、遥さん達との約束だった。

「ごめん、咲良。」

 しばらくして言われたのはその一言で、何に対しての『ごめん』なのか、一瞬分からなかった。でも多分、『分からない』って言われると思った。だから、この後の言葉が辛かった。

「この人、去年亡くなったの。」

「え…?亡くなった…?」

 私がそう繰り返すと明日香ちゃんは頷いた。

「去年ね、私が出版社掛け持ちで小説を出してるって話してたでしよ?」

 その話は覚えてる。すごいなって思ったから。

「その出版社での担当さんが、この人だったの。」

「そう、だったんだ…。」

 ここまで来たのに、まさか亡くなってたなんて…。信じられない、信じたくない!でも、事実なの?

「…明日香ちゃん、もっと詳しく聞いてもいい?」

「いいよ、咲良のお願いならなんでも教える。」

「ありがとう。」

 そうして私は明日香ちゃんの話を聞いた。メモを取って、後で遥さんに言えるようにした。じゃないと、多分何も出来なくなるから。


 数日後、僕はねーさんとかーさん、それから咲良ちゃんと一緒に先生を待ってた。

 あの日、咲良ちゃんがお友達から聞いた話から、ねーさんとかーさんは役所に確認に行き、咲良ちゃんはとーさんが勤めてた会社に行って話を聞いてくれた。皆、信じたくない一心で。僕なんかを、助けようとしてくれてた。

 結局、お友達から聞いた話は全部事実で、覆しようもなかった。

「ごめんなさい、私がもっと早く探していたらきっと…。」

 咲良ちゃんはそう言って何回も謝った。咲良ちゃんのせいじゃないって、何回も言ったのに…。

 でも、咲良ちゃんはそれだけじゃなかった。

「咲良ちゃん、本当にいいの?もし、適合したら、もうすぐに手術するって…。」

「もちろんです!私に出来るなら、そうさせて下さい!」

「ありがとう。」

 咲良ちゃんは、密かに適合検査をしてたんだ。骨髄移植のドナーになるために…。

「お待たせしました。」

 先生はそう言って入ってきた。

「まず始めに、適合検査の結果、三波咲良さん、ドナーとして秋野楓くんに骨髄を提供しめもらえませんか?」

 …そんな。咲良ちゃん、本当に適合しちゃったんだ。でも、ここで拒否してほしい。大切な人の物を奪ってまで、生きたくない。

「はい、もちろんです!私に出来るならそうさせて下さい!」

 なのに、咲良ちゃんはさっきと同じ事を言った。

 咲良ちゃんなら、当たり前だよね。先生も、満足そうに頷いた。

「ありがとう。楓くんは、どうかな?咲良さんの骨髄を移植するってことで、いいかな?」

「…はい。」

 僕は、そう答えるしかなかった。先生達は笑顔で頷いて、手術の説明をしてたけど、咲良ちゃんだけは、僕を気遣わしそうに見ていた。


 手術の説明が終わって、泉美さんと遥さんは手続きをしてくると言って市役所とかに行って、私達は病室に戻った。

 しばらく沈黙が続いたけど、私が先に口を開いた。

「その、ごめんね、勝手に色々進めちゃって…。」

 骨髄移植については、ほんとはずっと楓くんに断られてた。お父さんを待つって楓くんが言ってたから。だから、検査も内緒でしてた。

「…なんで、そんなに僕なんかを生かそうとしてくれるの?」

 でも、返ってきた言葉はすごく意外で、正直怒られると思ってたからどう答えていいか分からなかった

「…どうしてって、えっと、それ、答えなきゃ、だめ?」

「言えないことなの?」

 言えないことなんかじゃない。でも、勇気がない。嫌われたくない。

「…今は、言いたくない。でも、手術終わった後に、絶対言うから、待ってて?」

 私が言うと、楓くんは不思議そうな顔をして頷いてくれた。

 大丈夫、その時には勇気を出すから。

 手術の日は、この前楓くんと話してた、お祭りの日だった。


 手術当日。今日は日記を書けないと思うから今のうちに書いてしまおうと、手術前の事を書いてた。書いてる途中で咲良ちゃんが来たのはびっくりしたけど。

「咲良ちゃん、今日はよろしくね。」

「うん、よろしく!…結局、お祭り行けなかったね。」

 そう、今日はお祭り当日。結構楽しみにしてたのに、残念。

 でも―。

「今日の手術終わって、経過が良ければ、少し遠くのお祭りに行けるようになるよ!今はそっちが楽しみだな!」

「そっか、そうだよね!楓くん頭いいな!」

 そう、この手術が成功すれば、いろんな所に行けるんだ、咲良ちゃんと。だから、この手術を受けるんだ。

「そろそろお願いします!」

 看護師にそう言われて二人で返事する。

 今日はかーさんもねーさんもいる。とーさんだって、見てくれてる。なにより―。

「行こう!」

 なにより、咲良ちゃんがいる。それだけで、なんだか嬉しいんだ。僕を初めて、しっかり見てくれた人だから。


 あの手術から一年後。私は楓くんと一緒に、私の地元の人なら誰でも知ってる大きな花火大会に来てた。

「綺麗だね。」

「うん、すごく綺麗。」

 手術も無事終わり、お互い体調に異常が残る事はなかった。

「咲良ちゃんと来れて良かった。」

 楓くんはそう言って微笑んでくれる。

 あの手術の次の日。私達はお互いに告白した。その時にはすごくびっくりしたけど、すごく嬉しかった。今では、お互いの薬指にお揃いの指輪をするくらいの関係にまでなった。

 考えてみたら、最初は偶然出逢って、偶然話してた二人なのに。

「どうしたの?僕の事、じっと見つめて。」

「ううん、なんでもない!」

「ならいいけど。」

 そうやって笑う楓くんが、こんなに愛おしいと思うなんて。


 偶然って、すごいな。

 ううん、偶然じゃないかも。私が昔読んだ小説にこんな一文がある。

『人は皆予期しない出来事に遭遇した時、必ずそれを「偶然」としてかたずけてしまう。きっとそれは、そこの「意味」を知るのが怖いから。意味を知って、自分はどうしたらいいのか分からないから。だから、「偶然」にしてしまう。だから、目を背けてしまう。』

私も最初はそうしようと思った。「偶然」そうやって片づけようとした。

 でも、それは間違いなんだ。

 その意味を知ろうとしないと、その出会いの意味をなさなくなってしまうんだ。

 大切な出会いが、なかったことになってしまうんだ。

 だから、目の前の、大切な出会いを見逃さないでほしい。考えてほしい。

 だって、それだけで幸せな日々を守れるはずだから。

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新しい考えと、それをくれた人 雪野 ゆずり @yuzuri

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