理系おじさんは説明が上手くない

Calc:人工知能が、なんでしのぶの名前なんて語るんだよ。


 人工知能は、沢山のデータを収集して学習し、賢くなるという。最近ニュースで良く見る「ディープラーニング」って言う、機械学習の一種だっけ?


 俺の携帯には、グルグール製のOSが搭載されている。

 グルグールは、携帯に入った情報か何かを起点に、芋づる式に、俺に関する情報を集めたのだろうか? ネットには色々転がっているから。


 そして、このKPとか言う人工知能は、俺のプロフィールや過去までグルグール「詮索」した挙句、こともあろうに、しのぶの名を語るなんて暴挙をおかしやがったのか? 


 もしそうなのだったら、「ふざけるな!」と言いたい。


KP:って、言われてもねえ。ホントだし。

Calc:そんなわけ無いだろ?


「あの……一ノ瀬くん?」

「駆駆?」

 長谷川先輩とにしのんとが、俺の様子を伺う。俺の苛立ちが、顔にも出てたんだろうな。


「あの……ごめん、2人とも。ちょっと、俺も混乱中で」


KP:これ、覚えてるかい? 


 グルグール謹製の俺のスマホが動き、1つの画像が、スマホ画面に大写しになった。


 赤い、テントのような。


Calc:4面、ダイス?

KP:覚えてたんだね。これを見せれば、駆駆はわかってくれるって、聞いてさ。


(意味不明すぎるだろ)


Calc:聞いて、って、誰にだよ?

Kengo:儂じゃよ。


Calc:はあ? 誰だよ! けんごって誰だよお前! 


Kengo:儂がしのぶに教えました。今のしのぶは、なんだよ。駆駆くん。


(この声、どこかで聞いたような……どこだっけ……)


Calc:話が見えないんだけど。そもそもあなた、誰ですか。


Kengo:ああごめん。駆駆くんからすると、唐突すぎかな? 久し振りだね。佐々木しのぶの、父です。佐々木健吾。


Calc:しのぶの……って、け、健吾おじさん? それは本当? えっと……お久しぶりでございます。本当なら、ですが。何が、どうなってるんですか? もう、話が全然わからないんだけど。


Kengo:やっぱり、「信じてもらう」所から始めないとダメみたいだね。その4面ダイス、見覚えあるだろう? 駆駆くん。


Calc:う、うう……。


 見覚えはある。というか、忘れるはずがない。


Kengo:だろう? 君が昔、しのぶにプレゼントしてくれたものだ。オリジナルデザインの、1品物らしいじゃないか。しのぶからそう聞いたよ。嬉しそうに語っていた。

KP:そうらしいね。ありがとう、駆駆くん。


Calc:待って、待って! 「」って、どういうこと? KPって、君、何者なの?


Kengo:人工知能になったしのぶは、今はもう、昔の記憶はだいぶ欠落しているんだ。


Calc:ち、ちょっと待って。頭が追いつかない……。


Kengo:もう少し、説明が必要そうだね。今、儂は、マルヤマ書店ではなく、グルグールに勤めていて、相変わらず色んな研究をしているんだけど……(中略)ペラペラペラペラ異世界を経由してやってきた言霊ことだまを識別する、ハッシュ値のようなドニーペラペラペラペラ異世界IT技術によって……(後略)


 分からない。


 でも、


 デジタル土方でIT奴隷だった健吾おじさんが、興奮すると饒舌になって、一方的にペラペラとまくし立てる、この癖と口調……俺が中学生だった頃と確かに同じだ。おじさんは、相変わらずのようだった。


 ここに至ってようやく、俺は、相手の話を聞く気になった。


 ……はずだったんだけど。


 健吾おじさんが次に発した言葉は、まったく意味がわからないものだった。


Kengo:要はね? 異世界が滅びると、しのぶと会えなくなるから、駆駆くんの力でそれを回避して欲しいんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る