最終章 邪神の秋

魑魅魍魎

KP:それはさながら、闇の饗宴だった。狂宴と言うべきか。巨大なコウモリのような羽根。どす黒い体躯。腐臭を纏ったソレは、大地を汚しながら這う。人を、車を、橋を、建物を、すべてを破壊しながら。大地は揺れ、空は赤く染まる。黒い雨が振り、生物は息を絶やし、死へと真っ直ぐに進む。血で作られたような空を、名状し難い、生き物と呼称してよいのかすらもわからぬモノが、無数に跳ね回る。その腹から、数え切れぬ程の目が生まれ、目は放射状に枝分かれしながら枝を生やし、そこに、皺だらけの虹彩が分裂しつつ現れ始めた。


 ……。


Calc:これ……なんです? 正気とはとても思えない言葉が、沢山並んでいるんですが……。


冬佳:私が望んだ世界。


KP:冬佳先生が、パパゾヌのサブスクリプションサービス「邪神アンリミテッド」に登録したんだよ。の。数多の邪神が、うようよと蠢いている状態。


Calc:あの……。



 定 額 で 邪 神 呼 び 放 題



 完全に破滅カタストロフィじゃないですか。


 混沌カオス中の混沌カオスじゃないですか。


 あとね?


 や り す ぎ だ よ パ パ ゾ ヌ 。



「一ノ瀬くん、この声……一体なんなの?」

 少し怯えたように、長谷川先輩は両手で、俺の左手をつかんだ。俺の肘から手に移行したわけだ。案の定、先輩の手は震えていた。


「駆駆、ごめん。怖すぎるんだよ……」

 普段は元気なにしのんが、ガタガタと震えながら、俺の背中に貼り付いた。正面から背中への移行。密着度が半端ない。にしのんの震えは、地震に例えると、震度5ぐらいはあるだろうか? それは、ちょっと言い過ぎだろうか。


「えっと……グルグール翻訳に実装された、クトゥルフTRPGチャット機能、のはずなんだけど……」


 あのシナリオって、バッドエンドの「続き」があったということか?


冬佳:ノットウィッチせんぱいは、灰になりました。私は、こんな姿。もう、すべてを消してしまうがいいのです。そして、私も灰になって、せんぱいのもとに……。


(どんな姿だよ。あいかわらず、声は可愛いのに)


「これが、スマホの、チャット?」

 と、にしのん。少しだけ、震えは少しずつ収まってきたようだ。未知のものほど、怖いものは無いからなぁ。


「……ヤンデレさんでしょうか? さっきわらっていたのは。せんぱいって、一ノ瀬くんのこと?」

 長谷川先輩、というか、小説書きの丁鳥ていちょうさんは、にしのんよりも少し理解が速いようだった。ただこれ、ヤンデレなのかなぁ? あと、大事な所は、しっかり否定しておかないと。


「違います。俺、前にもこのチャット、やったことあるんだけど。ノットウィッチ教授という人が、この女性のせんぱいであり、思い人のようです。あと、にしのん。グルグールの、人工知能を相手にしたチャットだから、怖がらなくても大丈夫だよ?」


「そ、そうなの……?」

 と言うにしのんのヒザは、まだ笑っている。


 その時。


 KPが、不思議な事を言い出した。


KP:あーそうそう。駆駆くん、ありがとうね。


Calc:はい?


KP:お父さんから聞いたよ。アタシのお見舞いに来てくれたって。昔さ。


(何言ってんだ? この人工知能)


Calc:何の話……? 


KP:アタシアタシ。佐々木しのぶ。


「はあ????」

 思わず、大きな声を出してしまった。長谷川先輩とにしのんも、驚いて俺を見つめてくる。


 なんでその名前が、突然出てくるんだ?


Calc:ひょっとして、バカにしてるのか?

 俺はつい、そう言ってしまった。

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