ジャジャジャジャーン!

 SNS『シュットドン』は、メッセージの割り込みが可能だった。2者間の公開メッセージに対して、他の人も混ざることが出来る。


丁鳥ていちょう「まぁまぁ。面白さって、主観的な部分もありますから」


宴夜えんや「マルヤマ書店はプロでしょ? その目利きを否定したいってこと?」


丁鳥ていちょう「いえ、そうではなく。受賞作品が面白いのは、当然私もそう思います。でも、それ以外にも、面白い作品って、あってもおかしくないんじゃないかって。色んな読み方があってもいいと思うし」


宴夜えんや「受賞できない時点で、つまらないってことでしょ? つか、あんたは受賞できたのかよ?」


 ……


 と、そのやり取りが、険悪な流れになっていた。

 

(くそ、こいつ……!)

 姉さんを巻き込んでる!

 俺の事は別にいいよ。いや、ホントは良くないけど。


Calc「あの、申し訳ないんですが、貴方の価値観を押し付けないでもらえますか?」


宴夜えんや「は? プロの編集者に評価されるのが面白い作品に決まってるでしょ? で、Calc大先生は、もちろん評価されたんですよねぇ?」


Calc「残念ながら、一歩及ばずでした。でも、全力で書きましたよ?」


宴夜えんや「全力かどうかは別にどうでも良いよ。その程度のレベルで、偉そうな事言ってたの? 駄目じゃんwww」


 ある意味、予想していた通りの流れ。

 俺の心を、毒のこびり付いた言葉の槍でえぐってきた。


 逃げたい!

 今すぐこのスマホを叩き割って、いなくなりたい!


 そんなタイミングで。

 御大おんたいさんが、この話の流れに参加してきた。


御大「いや、それはおかしいんじゃないかなぁ?」


 御大さんは、投稿サイト「カキスギ」だけでなく、色々なところで、何度も長編賞を取っていて、その実力は誰しもが認める所。とても論理的で「正論という正義の拳で、スキなく殴りつけてくる」タイプ。


 そこからは一方的だった。


御大「ここまでの流れを見て思うんだけど、そもそもの発端って、面白さの規準の話じゃなかったよね? 論点ズレてない?」


御大「公開した自作を卑下する事に対する、考え方の違いが、元々の論点なんじゃないの?」


御大「あと、論点ズレだとは思うけれど、面白さの規準って、その定義を共有できてないよね? お互いの定義が噛み合ってない状態で議論を続けても、こじれる一方だと思うんだけど?」


 こんな具合で、どんどん追い詰められる、宴夜えんや。可哀想になる程だった。


 結果。


宴夜えんや「創作クラスタの論理を押し付けられても困るんですけど?」


御大「押し付けの定義はなんですか? 逆に言うと、宴夜えんやさん自身が、面白さの規準を押し付けているんじゃないの?」


 面倒くさくなったのか、その後、宴夜えんやからの返信は無かった。


 その一連のやり取りの中、俺は何も出来なかった。怒涛どとうの展開に面食らって、入り込むスキが無かった。


 仲間内からは、御大さんの言葉に「そうだよね」「確かに」と、同意のメッセージがどんどんと投稿された。


 そのおこぼれで、たくさんの励ましが、俺のところに来た。


「いいじゃん全力で書いたなら(*´ω`*)」

「次、期待してるで」

「改稿して、別のコンテストに応募するといいと思います。出版社によって、好みも違ったりすることもありますし」

ぎょえええええええ!!! めっちゃ応援してます!!!!!!」


御大「まぁ、実は俺は、読者にとって面白いかどうか、が一番大事だと思うけどね。(押し付けはしないけどね)」


 御大さんの言葉に、同意のメッセージが大量について、その一連のやり取りは沈静化した。


Calc「みなさん、ありがとうございます」


 と返すのが精一杯だった。


 助けてもらってありがたいのは本音だけど、今はそれ以上に、SAN値正気度の減少がやばかった。わかりやすく言い換えると、「もう、俺、限界……」という感じ。


 とにかく、寝たい。

 夢の世界に逃げ込みたい。


 俺の頭の中はぐちゃぐちゃで、今日はもうこれ以上、誰とも話したくなかった。

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