トゲトゲピッカリ

 宴夜えんやってヤツが男なのか女なのかわからない。


 彼、あるいは彼女はご丁寧にも、俺の過去のSNSでの発言を引用して、送りつけてきた。


いまここ


Calc「つまらないモノですが、なんて、自作を卑下ひげする感覚が、全くわからんわ」


宴夜えんや 「じゃあお前は、自分の作品が面白いと思って投稿してんのか?」


Calc「当たり前ですよね? 読んでもらいたいなら」


宴夜えんや「じゃあ、今度のマルヤマ大賞の発表、楽しみにしてますわwww」


 そして、マルヤマ大賞が発表された途端に、次のメッセージだ。


宴夜えんや「Calc大先生。マルヤマ大賞が発表されたわけですが」


 続けざまに、こう。


宴夜えんや「Calc大先生の作品は面白いはずだから、マルヤマ大賞に、当然ながら、ノミネートされているはずです」


宴夜えんや「読みたいので、どの作品なのか、教えて頂けますか? Calcさんとは、別のペンネームで応募なさったんでしょうから」


 はらわたが煮えくりかえる。スマホを持つ手はぶるぶる震えた。


 でも、その先の展開も読めてしまう。


 俺が本当に、「別ペンネームで」受賞しているならば、 宴夜えんやは「凄いですね! おめでとうございます」と話を合わせるだけ。


 逆に、俺の落選が確認できた場合は、多分こいつは、全力で俺を煽ってくるだろう。「なんだ、つまんないんじゃん」とでも言ってくるだろうか。


 詰んだ。


 消えてしまいたい。この世から。


 そうだ。マルヤマ書店編集部から、「お前の作品はつまらん」と烙印らくいんを押された時点で、俺は消えるべきだったのかもしれない。


 電気を消す。真っ暗な部屋になる。もう夜中だ。夢の世界に逃げ込もうとする。


 しかし、スマホが断続的に光る。次のメッセージの受信を伝える耳障りな音が、ブーブーと、何度も何度も鳴って、俺の神経を逆撫でする。その度に、真っ暗な部屋を、スリープ状態から復帰して点灯するスマホが照らす。


 おかしい。「光りが射す」って表現は、事態が好転する時に使う言葉じゃなかったか? なのにこの光は、俺の心をしたたかに痛めつけてくる。


 光は、粒子と波との性質を有するモノだったはずだ。まさかこんな、鋭いとげまで持っているなんて。


 空調の効いた部屋は涼しいはずなのに、体から変な汗が出る。特に、首筋の裏あたりがひどい。

 

(スマホの電源を落とすしかない)


 そんな簡単な事に気づくのにすら、時間がかかってしまうほど、俺は精神的にやられた。


 SAN値正気度は、ゴッソリと奪われている。


 電源ボタンを長押し――。

 スマホの火が消える直前に、プッシュ通知で表示された受信メッセージが、俺のの理由だった。


 スマホの終了エフェクトが終わり、物言わぬ真っ暗な文鎮になったそのスマホに、俺は再び電源を入れる。


 そして、開く。

 丁鳥ていちょう姉さんからの、メッセージだった。

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