最期のラブレター
夏川 流美
手紙
久しぶり。君に、ちゃんとこの手紙が届いていると良いけれど……。
最近僕の方では、気候の変化が激しいんだ。君の方は、どう? こっちとは違って、穏やかな気候? 体調には十分気を付けてね。君はすぐに、具合が悪くなるんだから。
……君と別れて、もう半年も経つんだね。君を手放してしまったこと、僕は少し後悔をしているよ。だから君に、伝えたいことがあるんだ。綴っても、良いかな。どうか最後まで読んでほしい。
最初に君に会ったのは確か、図書館だったね。借りたい小説が被って、お互い譲り合って……まるで漫画みたいな出来事だった。覚えてるよ。結局、僕の意地に負けて君が借りたんだよね。悔しそうな横顔に、思わず僕は笑ってしまったよ。
それから何度も図書館で会って、SNSとかやってる? って僕から君に聞いたんだっけ? はにかみながらスマホを取り出す君が可愛くてさ。その時かな、僕が君を好きになったの。あぁ、可愛いな、って。たったそれだけで? って思ってる? それはもう、何度も君に言われたよ!
それと、君が初めて僕に甘えてきたとき。あの日のこと、忘れられないよ。いつもどこか、ちょっと強がっていたのに、あの日は自分から手を出してきたよね。素直に「手を繋ぎたい」って言えば良いのに、あくまで黙って手を出す姿、君らしくて可愛かったなぁ。手を繋いであげると、嬉しそうに思わず笑ってしまう君も、君らしくて、可愛かったよ。
あとは、一緒に暮らそうって話になった日のこと。僕は君の言葉を、一字一句間違えずに覚えているよ。「1人暮らしが、そろそろ寂しいんだよね……。だから、貴方と暮らせたらな……なんて」とか言って恥ずかしそうに舌を出した君が、最高に可愛かった! 公共の場だから堪えたけれど、今すぐにでも抱きしめたいくらいだったんだよ!
他にも、まだまだ沢山あるよね。映画を観に行ったら、君が号泣したこととか、お揃いのキーホルダーを選ぶのに1時間くらいかかったこととか、僕がキツく君に当たってしまったときに、泣きそうになりながらも僕のことを優しく包んでくれたこととか。
本当に、幸せだった。君がいてくれて、僕は毎日が楽しかったんだ。僕と結婚したいって、子どもみたいに無邪気に言ってくれたこと。これこそ絶対に忘れられない。君と結婚できなくて、とても残念なんだよ……。
ねぇ、ところで君は、覚えているかな。1月21日のこと。僕は全部、はっきりと覚えているよ。君は、思い出したくないかもしれないけどね。
……僕の手にね、君を何度も何度も、体の芯まで殴った感覚が、ずっと残っているんだ。苦しみ、悶える、辛そうな君の表情が、とてつもなく愛おしくて。もっと、もっとって欲張りすぎてしまった。
血塗れになる君の顔や、赤く腫れる君の手足や、嫌だ嫌だと泣き喚く君の声が。どうしようもなく可愛くて、全然足りなかったんだ。
君は虫の息になって、懇願するような目を向けてくる。それが凄く可哀想で、首を絞めたんだよ。
僕の大好きな、可愛くて優しくて嬉しそうな笑顔を浮かべて、君は息絶えたよね。僕の彼女の最期は、なんて美しいんだろう! ってね、僕は感動したんだ。
さて、随分と手紙が長くなってしまって、ごめんね。僕は、こんなことを伝えるために手紙を書いたんじゃないんだよ。
君が行方不明だという事件の犯人は、僕じゃないかと、どうやら警察に目を付けられているらしいんだ。いや、本当はずっと前から目を付けられていたと思うけれどね。最近、よく家の近くで警察を見かけるもんでさ。そろそろ時間なんだと思うんだ。
だから、君をそっと沈めたあの海で、僕は息絶えてこようかと思ってる。そう、この手紙は僕の最期のラブレターなんだ。勿論、大好きな君に対してのね。醜くなった僕と君は、いつ何処に流れ着くのかな。気になるところだよ。
あ、そうそう。この手紙に、可愛い葉っぱを同封しておいたよ。「アイビー」と言うらしいね。どうして花じゃないのかって? それは、あれさ。僕と君に相応しい花が無かったからだよ! このアイビーと言う葉っぱ、君へのラブレターには相応しいと、僕は思うんだ。
それじゃあ、そろそろ。夜も良い時間だ。出掛けてくるとするよ。ばいばい。
最期のラブレター 夏川 流美 @2570koyama
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